2018/10/24

KRPPRESS特集:西陣の新しい風⑤ 「伝統産業をクリエイティブ産業へ、世界に向けた革新的なテキスタイルを開発」(株)細尾

西陣織という伝統織物に対する固定概念を外す。見方を変える。そうすることで生まれる西陣織の新しい価値と創造性の広がりについて伺った。

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(株)細尾 常務取締役 細尾 真孝氏

西陣織という伝統工芸のクリエイティビティの高さを知る

 西陣織は、非常に複雑な構造を持つ織物です。太い糸や平らな糸など異なる種類ごとに織り分け、それが何層も重なる多層構造。そうして織り上がった表面には立体感が生まれる。完成するまでに要する20の各工程をそれぞれ担う熟練の職人がいて、連携しながら西陣の街全体でつくり上げていく。世界の織物のなかでも類を見ない複雑な構造体は西陣ならではのもので、かつての自分は、なぜ、そのクリエイティビティに気づかなかったんだろうと思います。

 もともと家業を継ぐつもりはありませんでした。元禄年間創業と伝わる西陣織の老舗ですが、和装とか伝統というものはコンサバティブなものという思いもあり、ずっとクリエイティブなことをしたかった。音楽活動の傍ら、音楽とファッションとアートを融合させたブランドを立ち上げたりもしました。しかしマネージメント力の必要性に気づき、自分をアップデートし直そうと、大手ジュエリーメーカーに就職して生産管理や商品開発を学んだのです。

 3年ほどたった頃、父が、海外向け事業に取り組み始めました。パリのメゾン・エ・オブジェに西陣織をソファに張って出品し、高評価を受けたそうです。「日本のブランド、日本の文化で勝負できる」。そのクリエイティブ度数の高さに気づき、家業に戻って西陣織に携わろうと決意したのは、このときです。

伝統の強みは懐の深さと広さ新しいことを飲み込むパワーがある

 3人の職人さんと、海外向けに和柄のクッョンをつくり始めました。オーダーは入るもののなかなか事業化に結びつかない。試行錯誤を繰り返すなか、2008年に転機が訪れました。パリのルーブル宮国立装飾美術館で行われた展覧会に本業の帯を出品。その巡回展を観た世界的な建築家であるピーター・マリノ氏から、「西陣織の帯の技術を使ってテキスタイルをつくりたい」というメールが届いたのです。彼は西陣織を、本来もつラグジュアリー感が生きる、テキスタイルの素材ととらえていました。和柄の商品でないと勝負できないと思い込んでいた私に、素材としての西陣織と技術の可能性に気づかせてくれたのです。

 西陣織の帯幅は32㎝なので、生地に継ぎ目が生まれます。そこで、継ぎ目が生まれない広幅の生地をつくろうと、1年かけて150㎝幅の織機を自社開発。その結果、世界100都市のディオールの店舗で弊社の西陣織が壁面を飾ることになったのです。西陣の技術と素材をベースにした世界標準の布をつくることができれば、海外のラグジュアリーマーケットで戦えると確信しています。

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(株)細尾の西陣織を使ったスーツ(2012年パリ・コレクション)ファッション業界でも脚光を浴びている

 インテリア、ファッションに加え、2014年からは現代アートとのコラボも展開。さらにマサチューセッツ工科大学での共同研究を通じ、西陣織とテクノロジーの融合にもアイデアが広がります。バイオテクノロジー×西陣織では、クラゲのDNAを蚕に組み込んだ新しい素材での西陣織を。最新コンピューティング×西陣織なら、AIを使って織物のストラクチャーをつくる。150年前に西陣の先人が命を賭けてジャカード技術を持ち帰ったように、つねに最先端の技術を求め、挑戦して、変わり続ける。それが西陣の姿です。そして西陣織にはまだまだ可能性がある。よく知られた織物ではなく、世界がまだ知らない技術=素材がある。それが西陣織なのだと思います。

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高級ホテルのインテリアにも(株)細尾の西陣織は使われている

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西陣の新しい風 序文 「伝統はイノベーションの連続から生まれる」
西陣の新しい風② 「世界に誇れる西陣の伝統の技を、さまざまなカタチで未来へ」
西陣の新しい風③ 「西陣から世界唯一のウェアラブルIoT トータルソリューション企業へ」ミツフジ(株)
西陣の新しい風④ 「西陣織の技術で炭素繊維を織る。様々な分野で次世代に役立つ製品を実用化」(有)フクオカ機業
西陣の新しい風⑥ 「西陣織金襴を現代の生活にフィットしたカタチとして活用したい」(株)もりさん
西陣の新しい風⑦ 「京都職人工房」