2018/10/01

KRPPRESS特集:西陣の新しい風② 「世界に誇れる西陣の伝統の技を、さまざまなカタチで未来へ」

同業者組合から地域組合へ西陣産地に求められる取り組み

西陣織工業組合 理事長/渡文(株) 代表取締役社長 渡邉 隆夫氏

 京都市の北西部、上京区と北区を中心とする地域に約380の業者が集まって、西陣というエリアを形作っています。つまり、西陣は中小企業集団というわけです。そして、ここで生産される西陣織の年間出荷額は320億円と、現在厳しい状況にあります。生活スタイルの変化によるきもの離れ、職人の高齢化、後継者不足などクリアしなければならない課題は多く、市場の縮小が続けば、西陣ならではの産業構造である分業生産体制の維持も難しくなっていきます。こうした状況は過去にもありました。東京遷都により大変な苦境に陥った明治初期と、昭和初期の金融恐慌から第二次大戦に至る時代。しかし、そのいずれも斬新な発想とチャレンジで乗り越え、再生してきたように、今また新たな取り組みが西陣のあちこちで起こり始めています。

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 西陣はかつて巨大な産業集積地であり、京都市でNo.2の街でした。西陣織という核となる産業があり、織屋を中心に地域文化が発達しました。しかし今では地域力も落ち込んでしまった。同業組合として資質の向上や啓蒙、親睦などを図ってきた西陣織工業組合も、その役割を見直さないといけません。職人の街である西陣では、日々の食事づくりの時短と省力化を受けて仕出し文化が発達したり、主要な交通網からはずれたために開発が進まず、今も昔ながらの街並みが多く残っていたりします。そんな衣食住や上七軒の花街の文化など、街全体が有する魅力を、西陣織の新しい取り組みとともに発信すること。地域全体で産業を支える地域組合として、求められているのではないでしょうか。同業者組合から、地域組合へ。西陣織工業組合は今、その岐路に立っています。

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クラフト感のある独創的な帯は渡邉氏の作品

西陣の技術があれば「世界初」は簡単につくれる

 西陣織は、多品種少量生産方式を基盤とした先染めの紋織物です。先に糸を染めて、染めた糸を使って織り上げることで複雑で厚みのある文様表現が可能になり、重厚感が生まれるのです。生地を織り上げるまでには数々の工程があり、さまざまな人の手と職人の技が加えられます。たとえば、ジャカードの指令に基づいて経糸を引き上げ、緯糸が通るようにする綜絖や、節があるイレギュラーな経糸を使いこなすなど、西陣では当たり前に使われている技術が、じつは西陣でしかできない独自技術であることもしばしば。つまり、業界初のものをつくると、そのまま世界初のものになるのです。西陣では"世界初"は簡単につくれるということです。

4_Watabun_114.jpg紋紙やフロッピーディスクとジャカードによって模様を織り出す。織機には先人の知恵と経験が詰まっている。

 西陣で敬意の対象とされるのは、誰も考えつかなかったものをつくりだすこと。人の真似をすることは恥だという考えが昔からあり、それが西陣織の面白いところでもあります。創意工夫と独創性。しかし独創性といっても、無から有を生み出すのは難しい。たとえば、古今東西のデザインソースがあり、それをどのように帯に展開するかという"ひらめき"が独創性につながっていきます。そして"ひらめき"も、何もないところからは生まれません。今まで何を見て、何を感じ、何を考え、何を自分のものにしてきたかという経験の蓄積こそが重要なのです。何もないところに何かを生み出す魔法使いにはなれなくても、今ある何かを新しいものに変える手品師にはなれる。何かをヒントに創造と変革を重ねてきた西陣には、そうした精神が土壌としてあるのかもしれません。
 西陣は「和」の産地です。きものでの勝負は続けていかないといけません。一方で、西陣の技術をいかした新しい展開も進める必要があります。その両輪にチャレンジしています。

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刺繍のように見える立体感ある織文様は西陣織ならでは

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