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イノベーションが
生まれる「まち」。

2022/01/24

イベントレポート【HVC KYOTO2021ポストイベント2】 イノベーションエコシステム形成に向けて~関西に何が足りないのか?~

イベントレポート 『イノベーションエコシステム形成に向けて~関西に何が足りないのか?~』

 京都リサーチパーク は1215日、「イノベーションエコシステム形成に向けて~関西に何が足りないのか?~」をKRP西地区4号館、バズホールで開催した。本イベントはHVC KYOTO 2021のポストイベントとして位置づけられ、産学公の48の組織・団体が主催、共催、後援、およびパートナーとして参画し、ウェルネスヘルスケア分野の多様なプレーヤーが関わっている。

 本イベントにおいても、高校生から大学生、大学教授、スタートアップ経営者まで多様なメンバーが登壇し、関西イノベーションエコシステムの現状、課題、未来について語った。

 医学生が中心となって次世代イノベーターの輩出を目指す、「inochi Gakusei Innovators' Program」の活動紹介と2021年に同プロジェクトに参加した高校生たちが考えた、社会的フレイル※1の課題解決策に関する発表に対し、「真摯な思いで命に向き合う彼らのためにもエコシステムの形成に邁進したいものだ」との感想が寄せられた。

 オープンイノベーションの重要性が叫ばれる昨今、ただ集まるだけではなく、どう交わっていくのか、関西がひとつになるにはどうしたらよいのか、世界トップランクの評価を得ているボストンのエコシステムと何が違うのか、といった意見が登壇者のみならず参加者からも積極的に飛び交い、「関西に何が足りないのか?」という本テーマへの関心の高さが伺えた。その結果、見えてきたものは、それぞれ役割を担うプレーヤーが充実し、交流を深め、エコシステムの循環を加速させることができる環境=プラットフォームの重要性だった。

1「社会的フレイル」はまだ統一された定義はないが、「社会活動への参加、社会的な交流(対人交流)が難しくなっている状態」を指す。フレイルには身体的フレイル(身体的な機能の低下、身体的な虚弱状態)、心理的フレイル(寝たきり、認知症・うつ症状など)、社会的フレイルの3種類があるといわれる。

バイオコミュニティ関西

事務局:NPO法人近畿バイオインダストリー振興会議、公益財団法人都市活力研究所

 最初の登壇者となったバイオコミュニティ関西(以下、BiocK)副委員長兼統括コーディネーターであり、大阪大学共創機構特任教授を務める医学博士の坂田恒昭氏は、神戸、大阪、京都など個々の強みを生かしながら"関西のコミュニティ"としてつながることを提案。BiocK20217月に始動し、関西を中心とした企業、アカデミア、自治体が連携する団体で、内閣府「バイオ戦略2020」の「2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現する」という目標を達成するために進めているグローバルバイオコミュニティ拠点づくりを活性化する役割を担う予定である。「集積から連携へ」関西から始まるイノベーションエコシステムの熱源を感じた。

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坂田氏 「つなぐ」「つなげる」「つながる」 連携することの重要性を説く

北大阪健康医療都市 

 国立研究開発法人・国立循環器病研究センター(以下、国循)産学連携本部長の浅野滋啓氏は、北大阪健康医療都市(以下、健都)のイノベーション創出の取り組みについて講演。健都は、JR岸辺駅に立地し、吹田市と摂津市の両市にまたがる吹田操車場跡地に開発された。"健康・医療のまち"として、国循、吹田市民病院、ニプロ㈱、エア・ウォーター㈱が集積するイノベーションパークやウェルネス住宅などで構成されている。国循は、健都に移転して以降、研究所、病院、オープンイノベーションセンター(OIC)の3つを柱とする組織を構成している。「研究所や病院から生まれてきた研究成果を社会還元、社会実装するための支援に力を入れている」と浅野氏。"サイエンスカフェ"と呼ばれる、研究棟内"オープンイノベーションラボ"の入居企業、医師、研究者たちが気軽に情報共有できる場も設置している。昨年、コロナ禍で医療用高機能マスクが枯渇した際には、純国産の高機能マスクを㈱クロスエフェクト、ダイキン工業㈱、ニプロ㈱と共同開発した。これも、研究室から一歩出たら、入居企業の人たちにサイエンスカフェですぐに相談できるといった環境があったからこそ。「1年足らずで、医療現場で出てきたニーズ、アイデアが実現した一つの典型例になっていると思います」という。今後も健都や国循で生まれるイノベーションに期待が膨らむ。

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浅野氏 国循、健都からのイノベーション活性化を語る

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大西氏 2015年に関西で設立されたinochi WAKAZO Projectは、2025年大阪万博の誘致にも貢献。
その活動の一環である 「若者の力でいのちを守る社会を創る」ための「inochi Gakusei Innovators' Program」について説明

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(左)inochi Gakusei innovator's Program 中・高・高専生を対象としたヘルスケア課題解決プログラム 
4か月間で解決策の創出を行い、社会実装を目指す。 (右)当プログラム2021年度の関西代表チームによる発表

ネットワーク型創薬

 ボストンと東京に拠点を持つ低分子医薬の創薬ベンチャー、モジュラス㈱ 執行役員 Chief Scientific Officer (CSO)の寺田央氏は、ネットワーク型創薬のオペレーションについて説明。従来、低分子医薬の創薬には、候補物質のスクリーニングに膨大な時間と人員を要したが、計算によって予見できるものになってきている。同社は社内に8名の研究者が在籍するのみで、創薬に必要なファンクションは社外のアカデミア、共同研究先、CRO(医薬品開発業務受託機関)、コンサルタントとのパートナリングで補完し、複数の創薬パイプラインを擁する。エコシステムを利用したネットワーク型創薬オペレーションは自社で全てを持てないベンチャーにとってさまざまなメリットがあると語り、中でも予算面においては、自社ラボをもたないことで固定費を圧縮できると指摘。「必要な時に、必要なものが使えるという意味での効率的な予算の使い方ができる」と寺田氏。

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寺田氏 国内外の創薬エコシステムのプレーヤーとの協働によるネットワーク型創薬について紹介

世界のライフサイエンスエコシステム

 また、ボストンでの起業経験がある寺田氏に対し、海外エコシステムと日本のエコシステムとの違いについて、会場から多くの質問があった。公開データ(Startup Genome提供)を基にした、世界のエコシステム比較考察では、日本の研究力は世界的に評価されているが、一方で製品化への道のりが遠いこと、また人材不足についても指摘がなされた。研究所、研究病院、インキュベーター、大学、投資家、など全てのプレーヤーが揃うボストンのエコシステムは「まとまった場所ですべて事が足りる」ため、プロジェクトの展開が日本に比べて非常にスピーディーであると言及。また、新たな注目エリアとして、米ノースカロライナ州のリサーチトライアングルの環境やインド、中国の台頭など世界の概況を共有した。寺田氏は実体験を振り返りながら、「海外の出来上がったエコシステムに新参者は入り辛いが、個人として、誠実に、信頼を勝ち得ていくこと。Win-Winの関係を大事にし、評価されること。"仁義"が実は大事」と語った。「エコシステムの循環は成功することで一巡する。我々が日本の成功例となる」と力強い言葉で最後を締めくくった。

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(会場風景)質疑応答も積極的に行われる

総括

 イノベーション経営論の研究を専門分野とする椙山女学園大学現代マネジメント学部教授、京都大学名誉教授の椙山泰生氏からは講演のほか、本イベント最後の総括として、エコシステムの重要なプレーヤーとなるベンチャーと、ベンチャーをサポートするアクセラレーターについて、過去の研究例を踏まえた解説のほか、日本のエコシステムにおける支援やプレーヤーの役割について指摘があった。アクセラレーターが用意するプログラムはIT業界にフィットしており、短期間のものがほとんど。創薬、ディープテックにフィットする長期間のサポートが必要だと認識を示した。またエコシステムとして一巡するためには製品化や海外展開といった創薬バリューチェーンの後半部分への支援不足を指摘し、支えるだけでなく、動かす仕組みと役割の見直しがあってもよいと語り、エコシステムを形成するプレーヤーそれぞれが考察を深める締め括りとなった。

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椙山氏 オンラインにて参加。関西のイノベーションエコシステム成長に大切なポイントを説く

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(会場風景)新たな出会いや交流が生まれていた

KRPよりお知らせ】 

ターンキーラボ健都

HVC KYOTOは2016年以降、産官学の多方面から支持をいただき、ヘルスケア分野のイノベーションエコシステムの形成、発展に向け、成長を続けている。主催者の一員でもある京都リサーチパーク㈱は、これら取り組みを加速すべく、ボストンエリアでは一般的な機器付きレンタルラボ「ターンキーラボ」を事業開発。「ターンキーラボ」はウェットラボとしての基本的な設備が整っており、研究拠点を新たに設置する際の初期コストを削減できる。

健都において、西日本最大級の施設が20224月にオープンする。

【ターンキーラボ健都 詳細

開催概要

20211215日 14時~18時 ハイブリッド開催 

・参加者:141

■主催者挨拶:小川信也 (京都リサーチパーク()代表取締役社長)

■講演Ⅰ:坂田恒昭氏 (バイオコミュニティ関西 副委員長兼統括コーディネーター・大阪大学 共創機構 特任教授 医学博士 教授)
テーマ:「バイオコミュニティ関西(BiocK) ~ 「つなぐ」「つなげる」「つながる」・集積から連携へ~」

■講演Ⅱ:浅野滋啓氏 (国立研究開発法人・国立循環器病研究センター 産学連携本部長)
テーマ:「京阪神から全国へ~健都からつなぐイノベーション創出の取組み」

■講演Ⅲ:大西統也氏 (inochi Gakusei Innovators' Program 2021 KANSAI・滋賀医科大学 医学部医学科 2年)
テーマ:「inochi Gakusei Innovators' Program参加中高生による、フレイルの課題解決策」

■講演Ⅳ:椙山泰生氏 (椙山女学園大学 現代マネジメント学部 教授・京都大学 名誉教授)テーマ:「制度化されたスタートアップの育成:インキュベーター・アクセラレーターの役割とその効果」

■講演Ⅴ:寺田央氏 (モジュラス㈱ 執行役員 Chief Scientific Officer (CSO)
テーマ:「ネットワーク型創薬とエコシステム連携モジュラスのアプローチを例に」

■事業紹介:味岡倫弘 (京都リサーチパーク() )
テーマ:「ターンキーラボ~意図せず"何か"が生まれる場~」

■総括:椙山泰生氏 (椙山女学園大学 現代マネジメント学部 教授・京都大学 名誉教授)
提言~関西に必要なインキュベーター・アクセラレーター

■名刺交換会・併設展