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2018/03/23

KRPPRESS特集:イノベーションの様々なカタチ① 特別対談

産産学という地域のプレイヤーが実現するイノベーションモデル

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電力供給の過程で発生する電気エネルギー損失の大幅な節減効果が注目されるシリコンカーバイド(SiC)パワーデバイス。その製品化・社会実装化をめざす「京都地域スーパークラスター・プログラム」が、5年間の研究開発期間を終了した。めざしたのは、京都におけるSiCパワエレ産業クラスターの形成。折しも、SiCパワーデバイスの先駆的研究と実用化に貢献したとして、松波弘之名誉教授が「2017年本田賞」を受賞された今、松波名誉教授と西本清一氏の対談を通して見えてくる、京都で生まれたオープンイノベーションについて語っていただいた。

本流から離れたところでオンリーワンをめざすということ

0305_096.jpgのサムネイル画像京都大学 名誉教授 松波弘之 氏

西本 現在、日本では一年間に約1兆kWhの電気を作っていますが、そのうち5 ~10%ぐらいが電力制御の過程でムダな熱になっています。ここで使われるパワーデバイスを従来のシリコン(Si)からSiCに換えると、ムダに失っている電力の約70%を回収することができる。火力発電でいえば10~20基分ぐらいでしょうか。省資源、省エネルギーは地球環境の持続性を確保するために欠かせないわけで、それだけSiCパワー半導体の省エネ効果は画期的なんですね。人類にとって最大のテーマであるエネルギー問題、とりわけ電気エネルギー依存社会に光明を見出せる状況が生まれてきた。その光明に道筋をつけたのが松波先生のご研究です。

松波 かれこれ50年になりますか。普通の人にとっては長いかもしれませんが、大学の研究者は50年先を見て研究していたりする。もちろん初めから50年先にこうなるだろうと予見していたわけではありません。もともとSiCの研究を始めたときも、みんながシリコンやガリウムヒ素に集まる中で、誰も手をつけていないSiCが残っていた。なんとかこれを半導体社会に持ち込んで市民権を与えたいと思ったのです。ある意味単純なというか、クレイジーな考えだったんですよ。

西本 その辺、京都大学スピリットですね。

松波 そうかもしれません。時勢にはあまり寄り添っていかないというかね。離れたところでのオンリーワンというか、自分が「これをやるんだ」と決めたら猪突猛進していく。それは京都大学のカラーかもしれませんね。

西本 それがイノベーションに結びつくのでしょう。主流のところを行くのではなく、前人未踏の領域を開拓しないと本当の意味のイノベーションは起こりませんから。これは京都大学だけでなく、「京都」という風土が醸し出す独特のカラーと言えるのかもしれません。

オープンイノベーションのひとつのヒナ型を京都で創った

0305_042.jpg(公財)京都高度技術研究所 理事長 西本清一 氏

西本 近頃、イノベーションという言葉が非常に軽くなっていると感じられてなりません。イノベーションさえ起こせば経済活動が活発になるというのは、その本質とはかけ離れています。イノベーションが起こると、旧来あった分野が退場させられる。ある技術のパラダイムシフトが起きると、それまでの考え方は通用しなくなって不連続な変化が生まれる。その境目で景気が良くなるんですが、それはほぼ50年周期で起こってきた。それが、経済学者のシュンペーターが言った創造的破壊型のイノベーションです。

松波 50年ごとの波を毎年起こせというのは、どだい無理な話なんですね。

西本 パソコンの分野に限って言うと、約1.5年ごとに半導体の集積度を2倍に高め、漸進的なイノベーションを起こすんですね。そうして市場に出回る新製品は、より高性能でより安くなっているから、ユーザーの買い換え意欲は高まる。ある世代のパソコンが広く普及してしまうと、製品は売れなくなり、経済は停滞します。その頃合いを見計らったかのように、次世代の新製品が出てくるから、経済は持続的に成長を続けるわけですね。その繰り返しの中に漸進的なイノベーションが経済の持続的成長を促すメカニズムが働いている。同じ分野で、技術レベルがすごく速い速度で上がっていく結果、経済は停滞することなく、成長し続けるのです。そのいちばん大きな原動力になったのは半導体の集積率アップを実現したインテルです。インテルは、基礎研究は大学に任せ、大学と伴走しながら、生産技術の開発を進めた。この方式はオープンイノベーションの1例です。インテル的な実践をやり遂げたのが京都地域スーパークラスターでの産学連携や産産学連携の取組だったと思います。

松波 このプロジェクト自体がね、産産学連携に非常にうまい形で道をつけたと思いますね。SiCという大きなポテンシャルのある素材を根っこにした、オープンイノベーションのヒナ型のようなものができたのではないでしょうか。

スーパークラスターの成功事例をもう一段上へ

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本田賞受賞お祝いの会での松波ご夫妻とご列席の皆さま

松波 このプロジェクトでは、中小企業をエンカレッジするように産産学連携で組んだ。それは非常に良かった点ですね。SiCを使っていろいろ面白いことができそうだと考える中小企業が京都には多くて、そういうところは技術を持ちながら、今日明日どう生きていくか真剣に考えている。この真剣さを生かすべきですし、中小企業が参画しないことには底辺は広がりません。そうした仕組みづくりが、オープンイノベーションの京都モデルという呼び方につながったのでしょう。

西本 国のプロジェクトベースで引っ張ってきて階段を上がってきたわけですけれど、ここでもう1段分やらないと『SiCパワエレ産業クラスター』は形成できないのではないかという気がしています。ようやくここまで来て、2番手、3番手に追いつかれないよう、きちんと仕組みを作って、もう一踏ん張りアクセルを踏むことが必要です。

松波 京都だけでなく日本全国に斬新な発想を持った老若の世代の人たちがいて、そんな中小企業がいっぱいあるというのが日本の特徴。オープン化をすれば、新しい製品がどんどん生まれると思いますね。

西本 情熱(Passion)、根気(Persistence)、忍耐(Patience)という3Pは成功の秘訣ですが、これらに加えて運(Luck)が必須要因です。ルイ・パスツールは「幸運の女神は待ち構えている人のもとへ微笑む」と言いました。つまり『3P1L』がすべて揃って始めて成功するのです。保守的だけれどフラットな雰囲気のある京都コミュニティへ、まさに志を抱き3Pを備えた人たちが域外からも多数参入し、1Lを掴み取る契機が生まれれば素晴らしいですね。そういう支援を地域行政や京都リサーチパーク(株)がしてくれることを大いに期待しています。

──ありがとうございました。

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