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2022/01/24

イベントレポート【HVC KYOTO2021 ポストイベント1】ウェルネスシンポジウム~再生医療を細胞バイオテクノロジー+DXという観点で見てみると~

イベントレポート『ウェルネスシンポジウム~再生医療を細胞バイオテクノロジー+DXという観点で見てみると~ 』

 京都リサーチパークは1214日、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の田畑泰彦教授の企画・監修による『ウェルネスシンポジウム~再生医療を細胞バイオテクノロジー+DXという観点で見てみると~』をKRP西地区4号館、バズホールで開催した。本イベントはHVC KYOTO 2021のポストイベントとして位置づけられ、産学公の48の組織・団体が主催、共催、後援、およびパートナーとして参画し、ウェルネスヘルスケア分野の多様なプレーヤーが関わっている。

 主催者挨拶、田畑教授によるオーバービューとして、再生医療分野の最新知見の共有、解説があった後、基調講演、企業講演と続き、パネリストによる情報提供も行われ、再生医療分野における産学公の最新情報を一日で見聞する、またとない機会となった。

 基調講演は、京都大学大学院工学研究科電気工学専攻の阪本卓也准教授が登壇。ワイヤレス人体センシング技術の研究開発について講演し、乳幼児の突然死症候群を回避するための見守りや睡眠時無呼吸症候群とレーダ非接触計測などの実証例から、人体センシング技術とその情報がもたらす"DX"="社会変革"への変遷について説明。「ワイヤレス人体センシング技術によるDXは、ヘルスケアのビジネス・社会の仕組み・常識概念を根本より変革し、"いつの間にかケアされている"ヘルスケアインフラ社会へと移行する」と締めくくった。

 ウェルネスシンポジウムのハイライトとなる午後のパネルディスカッションでは、アカデミア、創薬・医療機器製造等の民間企業、行政機関などから、ウェルネスヘルスケア分野のエコシステムを形成するキープレーヤー9名が登壇。シンポジウムならではのパネルディスカッションとなり、積極的な議論が交わされた。中でも再生医療市場のバリューチェーンの見える化、DX導入、国際的なポジショニングなど再生医療に関わる最新のトピックスに関し、多面的な考察が提示された。 

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主催者挨拶 牧野直史(JETRO京都 前所長)
HVC KYOTOの取り組みや、ボストンとの交流など海外進出支援について発信

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オーバービュー 田畑泰彦教授(京都大学)
再生医療分野の最新情報を幅広く解説

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基調講演 阪本卓也准教授(京都大学)
ワイヤレス人体センシング技術がもたらす医療、社会変革について詳しく知る機会となった

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企業講演 天野善之氏(三洋化成工業㈱)
同社が開発をすすめる人工タンパク質シルクエラスチンは糖尿病患者に見られる

慢性創傷などへの効果が期待される

パネルディスカッション詳細

■遅れている 進んでいる? 日本の再生医療 

参加者からの「海外と比較し、AI技術が遅れている日本、勝つための戦略は?」という質問を契機に、再生医療分野における遅れ、各種課題について議論が繰り広げられた。「日本では、関連制度の改訂により、世界に先駆けて製品化しやすい合理的な審査環境が整ったといえる。ただ、直近では承認される製品は海外の技術が基盤になっていて、我が国のアカデミアの研究を製品へともっていくまでの産学のキャッチボール、深い連携が必要」(畠氏)。国産技術の製品化への遅れや、製品承認後の有効性等の検証システムの構築などの課題が示された。

DX人材の不足 境界領域での知識の共有

バイオインフォマティクス人材の育成という話題では、AI技術の進展のスピードといった変化への対応に言及するとともに、IT人材とバイオ人材のコミュニケーションギャップを克服する必要性についても語られた。

田畑教授は「境界領域で常におこる問題」とし、「再生医療という医学と工学の境界領域でも互いにしっかりコミュニケーションを取り、理解することが大事。知識を深めることが重要で、そこは知識欲や、やりたいという気持ちなど、個人に帰属する部分だ」とも述べ、ノウハウ、経験値の見える化についても話し合われた。

■再生医療分野の国際標準化  

「日本の再生医療分野においても、"オープンイノベーション"、"DX" 、"品質評価、管理等の標準化"ができれば、日本は国際イニシアチブが取れ、国産技術の製品化、事業化をより促すことに繋がるのではないか」(寺井教授)とし、パネリスト間での国際標準化に対する議論が促された。「ICH(医薬品規制調和国際会議)ではGCP(医薬品の臨床試験の実施に関する基準)の見直し作業が進んでいる。リアルワールドデータをいかに活用するか、コンセンサスを作ろうとしている。そこで、日本が確固たる姿勢を提示していく必要があると思っている」(佐藤氏)。ルールメイカーになることは重要との認識がある一方で、「日本はルールの中で戦うことは得意だが、ルールを作るのは苦手。省庁内外での分掌が障壁となり、国際標準や知財を含む一体的な再生医療産業分野の戦略立案が難しい環境」(毛利氏)と、他の分野でも起こり得る縦割り組織への課題もにじませた。

■日本のエコシステム

「今、パネリストとして、登壇している方たちに投資家がいない。創薬の世界で、一番の成長ドライバーはベンチャー。日本はエコシステムの形成が不十分で、国からの支援頼みになっている」という投資家不在の問題提起がされる中、「投資家も重要だが、AMEDのような公共の投資も強化する必要がある。再生医療機器の市場は小さいものが多く、グローバルに展開しないと事業として成立しない。メーカー一社でやりきるのではなく、再生医療機器の製品化に関わる産学が連携し、総合力を発揮することが重要」(天野氏)と相互の連携や投資、サポートの在り方についても議論が盛り上がった。

■新しい価値を生み出すAI

 ディスカッションの後半はDXの話へと移行。基礎研究、創薬、臨床とデータ収集が不十分な環境下ではAI開発が進まない、というシンプルな課題に対し、いかにリアルワールドデータ等を活用するのか、データを蓄積し、関連付け、活用する循環をいかに生み出すのか、白熱した意見交換がなされた。「電子カルテの導入期のように臨床医師が入力する情報を(活用可能な形で)データ化することは難しいと思う。だが、寺井教授が仰られたように、変わることを前提にプラットフォームを作っていく発想は前向きで良いと思う」(藤原氏)と変化に対応しながら前進する大切さを語った。また「AIの面白い点は、人間と違ってバイアスがないこと。過去の経験から科学者だと避けるような構造物を導き出してくれる。AlphaGoが囲碁の定石ではない一手を出すように、新しい価値が生まれる」(塚原氏)と、AIが生み出す新しい価値が新たな発展に繋がることへの期待が語られた。

パネリストや参加者の間において忌憚のない意見交換が繰り広げられ、"あっという間の2時間"。「みんなでやっていくことが大事」「オープンイノベーションの仕掛けを作ることが重要」という発言が度々あったのも印象的だった。再生医療分野に関わる人が増え、「ぞれぞれの立場で再生医療を考えられる時代になったのだと強く感じている」とモデレーターの田畑教授が締め括った。

「新たな交流が生まれた」「ここでしか語られないであろう、話が聞けた」と登壇者、参加者から感想を得た。本年も京都リサーチパークらしい魅力的な交流の場となった。

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パネルディスカッション登壇者の皆さま
(後列左から)阪本准教授、天野氏、佐藤氏、藤原准教授、毛利氏
(前列左から)寺井教授、田畑教授、畠氏、塚原氏

【パネルディスカッション登壇者】

モデレーター:
田畑泰彦氏(京都大学ウイルス・再生医科学研究所 教授)
パネリスト(以下、五十音順):
天野善之氏(三洋化成工業㈱ バイオ・メディカル事業本部 副本部長 )
阪本卓也氏(京都大学 大学院工学研究科 電気工学専攻 准教授)
佐藤陽治氏(国立医薬品食品衛生研究所/再生・細胞医療製品部長)
塚原克平氏(エーザイ㈱ 執行役 チーフデータオフィサー()筑波研究所長)
寺井崇二氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野 教授)
畠賢一郎氏 (㈱ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング/代表取締役 社長執行役員)
藤原なほ氏(順天堂大学革新的医療技術開発センター 准教授)
毛利涼楓氏 (経済産業省 商務・サービスグループ 生物化学産業課 課長補佐)

開催概要

20211214日 10時~18時 ハイブリッド開催 

・参加者:282

■主催者挨拶およびHVC KYOTOとボストンとの交流の取り組みの紹介:牧野直史(JETRO京都 前所長)
■オーバービュー:田畑泰彦氏(京都大学ウイルス・再生医科学研究所 教授)
テーマ:「対象が細胞まで広がったバイオテクノロジー分野がおもしろい ~ 細胞バイオテクノロジーの最前線に必要なものは?~」
■基調講演:阪本卓也氏(京都大学 大学院工学研究科 電気工学専攻 准教授)
テーマ:「ワイヤレス人体センシングが創成するデジタルトランスフォーメーション(DX)」
■企業講演:天野善之様(三洋化成工業㈱バイオ・メディカル事業本部 副本部長 )
テーマ:「人工タンパク質を用いた再生医療材料の開発」
■パネリストによる情報提供
・寺井崇二氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野 教授)
テーマ:「現場の多様なニーズの答える再生医療の実現のために」
・佐藤陽治氏(国立医薬品食品衛生研究所/再生・細胞医療製品部長)
テーマ:「レギュラトリーサイエンスの立場で細胞加工製品の品質とDX―
・畠賢一郎氏 (㈱ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング/代表取締役 社長執行役員)
テーマ:「自家細胞を用いた再生医療事業におけるDXの展開」
・塚原克平氏(エーザイ㈱ 執行役 チーフデータオフィサー()筑波研究所長)
テーマ:「AIによる創薬の加速」
・藤原なほ氏(順天堂大学革新的医療技術開発センター 准教授)
テーマ:「再生医療等安全性確保法の改正と今後の展望について」
・毛利涼楓氏 (経済産業省 商務・サービスグループ 生物化学産業課 課長補佐)
テーマ:「再生医療の産業化に向けた政府の取組と今後の方向性について」
■パネルディスカッション
■併設展・名刺交換会