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2023/07/19

京都音楽博覧会とまちづくりのコラボが生み出した 1日では終わらない、音楽イベントの新たな可能性とは

資源が"くるり"プロジェクト 特別対談
【くるり 岸田繁 ×梅小路まちづくりラボ 足立毅】

画像14.jpg2007年から梅小路公園で『京都音楽博覧会(以下、京都音博)』を開催してきたくるりの岸田繁さん。2020年に再開発が進む梅小路エリアの事業者14者とでまちづくりの事業会社『株式会社梅小路まちづくりラボ』を立ち上げた足立毅さん。「梅小路エリアのまちづくり談義」をきっかけに出会った二人が、‟まちづくり"をキーワードに親交を深め、2022年の京都音博ではじめたのが『資源が‟くるり"プロジェクト』です。

梅小路公園内にコンポストをつくり、京都音博のフードエリアで出る食材の使い残しや食べ残し、いわゆる"食品残さ"を完熟たい肥に変え、公園内の花壇の肥料にしようというこの取り組み。京都音博が実施したクラウドファンディングの支援だけでなく、近隣の方々を中心にたくさんの人を巻き込み、「ごみ」を"くるり"と「肥料」という資源に変えることに成功しました。

京都音博という1日限りのイベントの枠を飛び出し、イベント参加者以外の方にも環境への気づきを与え、地域活性化にもつながったといえるこのプロジェクト。当事者たちはこのプロジェクトをどう見ていたのか、そして今後どのようなビジョンを思い描いているのか。ちょうど京都音博の開催から4カ月経った2023年2月9日、出来上がった完熟たい肥が梅小路公園に譲渡されたタイミングで、このお二人に話を伺いました。

くるりの思いとまちづくりの活動がつながり生まれたプロジェクト

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足立 京都音博の相談を受ける前に、岸田さんに梅小路エリアのまちづくりの活動についての資料を見てもらったことがあったんです。いずれは京都音博とまちづくりをかけ合わせたコラボレーションができたらいいですね、みたいな話はしていましたね。

岸田 足立さんにコンポストのアイディアをもらった時に、イベントをすることでゴミは出るけど、出たもんがそこで使えるみたいな考え方はすごくいいなと思いました。大変やと思うんですけど、参加する人も実際にやっていただくスタッフの方たちも理解しやすいのではと。

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京都音博のコンポストを起点に、自発的に生まれた地域コミュニティ

ーー 今回、足立さんが中心となってこのプロジェクトを推進されていましたが、実際にやってみてどうでしたか。

足立 岸田さんや京都音博の実行委員の皆さんと「コンポストをやろう!」となって、一回テンションは上がったんですけども、僕はコンポストをつくったことがない。クラウドファンディングで協賛してもらえることは決まりましたが、打合せの後に「あれ、一体これ誰とやるねんっ?」てなって......。

岸田 ゴミの集め方や、たい肥をつくる場所でも苦労されたと伺っています。

足立 そうなんです。たい肥をつくる場所「コンポスト・ステーション」をつくる時も建築上どのような扱いにするか?といった具合に課題は山積みでした。公園の中なので建築するために制限があったり、京都音博までに仕上がるように工期から逆算したり、(公園の管理元である)京都市さんとも話をして、建築上「小規模倉庫」とすることで間に合いましたが、これまでにないものをつくるのには、苦労しましたね。

岸田 足立さんがすごく粘り強くやっていただいた結果だと思っています。

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完成したコンポスト・ステーション

ーー 京都音博の当日はどうでしたか?足立さんを中心にコンポストに食品残さを集められたそうですが。

足立 当日は、大雨で大変でした。前日も下準備をしていたんですが、リハーサルの歌声が聞こえて来た時に、やっていることはまったく違うんですけど、京都音博にこういうかたちで参加していることに感動を覚えました。

ーー 岸田さんは京都音博の当日に「コンポスト・ステーション」を見に行く時間はあったんでしょうか?

岸田 当日は大変で、見に行く時間はなかったですね。当日のことを考えると毎年、胃がきゅーっとなるんで。でも足立さんから、報告は聞いていました。

今日、はじめて行きましたが、こんなににおいがしないとは僕も思わなかった。完熟たい肥は、腐敗臭がないと話には聞いていたんですけど、むしろ、空気がいいみたいな感じがして。

足立 確かに。においの話は都市部の公園なのでどうかなと思ってたんですが、いくつかのサンプルをかがせてもらったら、においはしなかったし......。最初の頃は、たい肥の温度が上がってきたらどうなるんかなって思いながら、毎回チェックしていましたね。


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足立 完熟たい肥をつくるのも、スコップでたい肥をコンポスト・ステーションから出して、水を足してかき混ぜたりしなければならないんです。単純作業ですが人手がいる。はじめる時は、人が集まるか不安でしたね。最初は運営体制も考えていなくて、プライベートでFacebookのグループをつくってボランティアを募りました。

蓋をあけたら、学生さんを含め20代、30代の人を中心に平日の午後に10人から20人くらい集まってくれて......。そのうち参加された方が紹介してくれるようになって、自然と広がっていくのが面白かったですね。出発は京都音博でしたが、ゼロベースで始めたわりにはいろんな方に集まってもらえた気がします。

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出来上がった完熟たい肥の引渡し会当日には、これまで関わった多くのボランティアの方や関係者が集まりました

岸田 今回、梅小路公園の近くに住んでいる方がボランティアのスタッフとして参加されていたと聞きました。どっかから人を連れてくるよりも、近隣の方達が自発的に参加されているというのはすごく理想的でいいことだなと思います。

足立 公園でやっているんやったら、一回見に行こうとか、作業に参加しようと思う人がいたんです。これは、急に思い立ったというよりも普段からごみについて考えている人がいるのでは、特に若い人に多くなっているんじゃないかなと思いました。

今日の引渡し会にも参加してくれた山本下京区長がこの取り組みに触発されてご自宅でコンポストをつくっていると言ってましたし、そんな意識の人も多いのかなと感じましたね。


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地元に京都音博が根付いたと感じた今こそ、地域とのつながりを深めたい

ーー 今回、京都音博と梅小路まちづくりラボがコラボレーションすることでこのプロジェクトが生まれたのですが、今後もこのような活動を続けていくためにお二人が考えていることはありますか。

 

足立 僕は、京都音博のコンセプトの「環境・文化・音楽」で環境を一番上に持ってきていることがすごく気持ちのフックになっているんです。そこと地域の皆さんとの関わりを考えていったら面白そうやなと思っていて。これからも、環境と文化というテーマに関する取り組みを一緒にできたらいいなと思っています。


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岸田 梅小路公園のあるこのエリアは京都の長い歴史の中で、すごく短い間に目まぐるしく変わったと思います。1994年に遷都1200年の事業の一環で行われたのが京都駅の改築と地下鉄の東西線、あと二条城駅前の再開発。梅小路公園の整備もそうだったと思うんですが、例えば、地下鉄が伸びたら、周辺が開発されてすぐに機能しはじめると思うんですけど、当時の梅小路って蒸気機関車館があるぐらいの遠足で行くとこって感じ。

京都音博を始めた2007年、その時って今のように、梅小路公園に遊びに行こうという動きはなかったと思うんです。京都音博をはじめてから、京都水族館や京都鉄道博物館ができて今の賑わいになってきた印象がある。客観的にみてもすごいと、一年に一回使わせてもらう身としては思っていたんですけど、公園がまちづくりにとってすごい大きい役割があると僕はあんまり思ってなかったんです。改めて今日、この取り組みではじめて、近隣の方や有志を巻き込んだ京都音博から派生した一つの取り組みが十何年やってはじめて実現した。

イノベーションを生む時に大事なのは小さな動きだと思っていて。自分がここで生活している以上は、市民一人ひとりの動きだったり、その地域の方たちの動きだったり、そこをなんらかの形でサポートすることができたらなぁと。京都音博をやってる側としてはお返しじゃないですけど、そんな取り組みの一つとしてこのようなプロジェクトを自分は考えていければなと思っています。


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ーー 2008年から12年まで、京都音博は株式会社SCRAPの加藤さんと謎解きイベントを通じて、京都の街とのつながりを生み出すような活動をされていたと思います。今回は、それとは違い街とのつながりが自然と派生していくような流れが生まれたと思うのですが、なぜ、このタイミングで新しい取り組みをしようと思ったのでしょうか。

岸田 時代の流れもあるんだと思うんですが、十数年前は京都自体が他の地域から来た人にお金を落としてもらうようなムードもあって、京都音博自体も他の都道府県からお越しのお客さんが多かった。でも、ここ5、6年くらいはほぼ京阪神というか京都、大阪が大半なんですよ。主催する身としては、地元に根付いてきているのだと思っています。僕らの商売だけでいうとできるだけ多くの人を巻き込むという考え方があるんですけど、それとは違う、小さく濃くやっていくみたいなことですかね。やっぱり自分がいる京都でちょっと規模が大きいことをやるときに、外を向くんやなくて京都の内を向く。今、京都音博に関してはこうしたらええんちゃうかなというアイデアは、内側に出していこうと考えているところがあります。

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photo:井上義和

一日で消費されて終わらない、京都音博をいつまでも続くイベントに

足立 梅小路公園の管理をされている 京都市都市緑化協会さんにうかがうと、春や秋の公園内で開催されるイベントのいくつかではフードコートも出店されるそうです。そのイベントと連携して、京都音博のない期間にもたい肥づくりをやっていきたいなって思っています。私、最近、たい肥づくりの専門家って思われて始めてます(笑)

岸田 コンポストおじさん(笑)

足立 そう呼ぶ方が多くて(笑)。その代わり、いろんな京都のコンポストに関する取り組みを知ることができるんです。例えば、上賀茂神社さんは昔から落ち葉たい肥をつくってるとか、町内会や自治会で段ボールでたい肥づくりをしていますとかね。たい肥づくりの取り組みを通じて、いい連携が京都の中でできるかもしれない。そんなことを今回の京都音博で勉強させてもらった。京都に根付きそうな活動がはじめられた気がしています。

画像3.jpg岸田 この梅小路公園から丹波口の方にかけて、再開発を重点的にやってるエリアやと思うんです。だから、ここから10年経ったらかなり周りが変わっていくと思うんですよ。京都市内の中心部や東山の方とかと違って、新しい景色とか新しい街の役割がこれからどんどんできていくと思うんで。京都ってこういう感じですよねっていうのとまた全然違う顔のエリアとして、ここからどう発展というか、どんな色がついていくのか、私も共存しながら、京都音博のあり方というか、エリアのイメージに合うものもどんどん考えていきたいと思っています。

足立 あまり知られてないんですけど、2025年で公園ができて30年。実は、東西線の御池通の拡張の時に伐採されたケヤキが、この公園内の「いのちの森」に移植、定植されているんです。それって、すごいメソッドやなと思っていて、もっと学習観光コンテンツとして活用したらと思っていました。この京都音博を機会に、京都市都市緑化協会さんと深い話ができていて、この4月以降に今後どのように情報を発信していくかや、どんなイベントに参加するとか一緒に考えようという話になってきているんです。ちょっと、岸田さんと京都音博のことを一緒に話しましょうというのと似た感じで。これが相乗効果となって、京都音博を契機としたいい発信ができると思っています。京都音博が開催されていない時も、梅小路公園に行く動機も増やしていけるんじゃないかなって。

岸田 くるりの佐藤さんとも話しているんですけど、我々が主催しなくても続くようなイベントになるのが理想やって最初から言ってたんですよね。もちろん僕らは自分らのコンサートを京都音博でやりますけど、それよりもふらっと遊びに来た人にこういう音楽もあるというのをプレゼンしたい。いろんな音楽フェスが全国津々浦々ありますけども、それとは全然違う形というか、「博覧会」と言ってますから、国内外問わず、ジャンル、ボーダーもない、フラットにいい音楽を奏でる人たちを紹介することに関してはどんどん幅広くやっていきたいですね。

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足立 梅小路公園から京都リサーチパーク※1のあるエリアとか、京都市中央市場の場外とか島原とか。梅小路公園周辺は、狭い中にまったく違う街並みのブロックが集まっていて結構面白いんですよ。いつかできたらいいなと思っているのは京都音博を起点に周辺エリア全体で、ライブを楽しめるような期間をつくることですかね。種まき、ではないんですが昨年から京都リサーチパークエリアにある〈GOCONC(ゴコンク)〉というイベントができるカフェで、月1回クラシック中心の『KRP創発ライブ』をやっています。あとは、京都音博の今までのアーカイブが常設で観に行けるような、博物館ができたらいいなというふうに中学生的に思っています(笑)

岸田 僕も小学生的に思っています(笑)どうしても京都音博のような大きいことをやる時って大儀名分が必要になってくると思います。環境にやさしくしましょうとか、多様性を認める社会にしましょうとか。それってあたり前のことやと思うんですけど、イベントの中身自体がそういうものになるようにしていけば、今回の取り組みのようないい出会いもある。小さいことから結果、そういうことにつながる動きもしていけるんじゃないかと思うんです。

コンポストの話も1年でやろうということではなくて、足立さんもそうやと思うんですけど、「これはいい」とか「これは楽しい」と思ったら続くと思います。僕もそう思ってもらえるように、やれることはやろうと思っています。今日、集まってくれはったみなさん、すごくいい顔してはったんで、結構楽しんでくれてはるのかなって気がしました。これからも、楽しく続けられる場をできるだけ提供したいなと思っています。


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※1 京都リサーチパーク(通称、KRP)全国初の民間運営によるサイエンスパークとして1989年に開設。京都府・京都市の産業支援機関などを含めて520組織・6,000人が集積。オフィス・ラボ賃貸、貸会議室に加え、起業家育成、オープンイノベーション支援、セミナー・交流イベント開催など、新ビジネス・新産業創出に繋がる様々な活動を実施。


interview & text:乾和代
photo:岡安いつ美