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2023/07/19

コンポストがつないだ 京都音楽博覧会と地域のサステナブルな関係性 「資源が“くるり”プロジェクト」の活動から見えてきたものとは?

16回目の開催となった『京都音楽博覧会2022』(以下、京都音博)で環境のための新たなチャレンジが行われていたことをご存じでしょうか。2007年に〈梅小路公園〉で京都音博をはじめた頃から、主催者のくるりの環境に配慮したいという思いは強く、リユース食器を使ったり、フライヤーをつくらずなるべくゴミを出さないなどの活動が行われていました。コロナ禍を経て3年振りとなった〈梅小路公園〉での開催に合わせて、さらに新しい取り組みとしてはじめたのが「資源が"くるり"プロジェクト」です。

京都音博が募ったクラウドファンディングの支援もあり実現した本プロジェクトは、梅小路エリアでまちづくりを行っている株式会社梅小路まちづくりラボ(以下、梅ラボ)の足立毅さん、京都在住のサーキュラーエコノミー専門家の安居昭博さんをはじめ、地域の団体と協力しながら活動をしたことで、これまでにない巻き込み型の実験的なプロジェクトになりました。京都音博の一日だけでは終わらず、どのように地域の人々の中にこの取り組みが伝播していったのか、プロジェクトの全貌についてレポートします。

ごみを資源に新たな価値を生み出す「資源が"くるり"プロジェクト」

数ある環境の取り組みの中で、このプロジェクトが実践したのは「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」という考え方に基づいた、ごみを資源に"くるり"と価値あるモノに変え、活用する取り組みです。今回、資源となったのは「京都音博のフードエリアから出る食べ残しと余った食材」と「京都由来の廃棄食材」の二つ。一つ目の食べ残しや余った食材、いわゆる食品残さは"完熟たい肥"として梅小路公園内で花や木を育てるための肥料になりました。そして二つ目、京都由来の廃棄食材として活用したのは、伏見にある酒蔵の山本本家の酒かすと下京区のアサヒ製餡有限会社の小豆の皮です。提供してもらった廃棄食材を使ったレシピを考案したのは、京都市内に店を構えるmumokuteki cafe&foodsの堀口貴行さんとLURRA°の宮下拓己さん。酒かすや小豆の皮を使ったソースをトッピングした濃厚なアイスが誕生し、京都音博の当日に"しげくるアイス"として販売されました。

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京都音博由来、梅小路公園育ちの完熟たい肥ができるまで

今回、京都音博由来の食品残さから完熟たい肥をつくったのですが、これは一日で出来上がるような簡単な作業ではありません。食品残さを微生物にしっかり発酵・分解させ、すぐに肥料として使える完熟たい肥にするまでにかかった時間は約4カ月。では、どのような行程で完熟たい肥がつくられていったのかをご紹介します。

①規制を逆手に実現。ユニークな「コンポスト・ステーション」

最初に行ったのは完熟たい肥をつくるための場所づくり。梅小路公園内につくることが決定しましたが、使える場所はバックヤードで駐車場として利用されていた一画のみ。細長く、狭いスペースに「コンポスト・ステーション」をどうやってつくるのか、今までにない試みに頭を悩ませたといいます。

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完成した「コンポスト・ステーション」

この難問に取り組んだのが、京都市北区にある北山ホールセンターでグラフィックデザインを行っている水迫涼汰さんと木村吉成さんをはじめとする木村松本建築設計事務所の皆さんです。京都音博の開催に間に合うようにと、アイデアを出し合い、工夫が詰まった「コンポスト・ステーション」が完成したのです。ここに使われた素材には廃材や余剰品が活用され、今後解体する必要があっても転用ができるようなサーキュラーデザインを目指してつくられました。

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②ごみを 完熟たい肥に変える「床材」は京都由来の余りもの

生ごみを入れる「コンポスト・ステーション」ができても、ごみだけでは完熟たい肥をつくることができません。例えば、ぬか漬けをつくるときにぬか床が必要なように、ごみを分解してくれる微生物が働く環境を用意する必要があるのです。このぬか床の役割をする素材が「床材」です。今回の取り組みに協力をしてもらったコンポスト・アドバイザーである鴨志田農園の鴨志田純さんに教えてもらい「CNBM分類」という方法で、C(炭素)、N(窒素)、B(微生物)、M(ミネラル)に該当する4つの素材を使い「床材」をつくることになりました。できるだけ京都にある資源を活用したいと考え、声をかけて4つの素材を集めることができたと言います。

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③地域の人たちと混ぜて育てた完熟たい肥

最後に、完熟たい肥をつくるために必要なのが人手です。今回は「完熟たい肥ワークショップ」と称して、鴨志田さんに教わりながらたい肥づくりを実践していくという形式でボランティアスタッフを募ることになりました。和束町で同じようなコンポストの取り組みを実践している方々の協力もあり、京都音博開催前の9月30日にワークショップがスタート。鴨志田さんの講義の後に、4つの素材と水を混ぜ合わせ「床材」をつくりました。

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京都音博の当日は生憎の雨模様でしたが、フードエリアを利用する人が少なかったせいもあったのか想定より少なくはありましたが約500Lの食品残さを回収しました。これを「床材」に投入すると、微生物が分解することで発酵が進み、土の中の温度は60℃くらいにまで上昇。この温度を保つために週1回、「切り返し作業」を行いました。ぬか漬けに例えるなら、ぬか床の手入れと言っていいかもしれません。温度とにおい、水分量をチェックし、必要な量のもみがら、米ぬか、落ち葉、瓦土といった養分と水分を追加し、スコップでかき混ぜます。

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最初は、ポテトや肉など原型がわかる食品残さも、一週間するとその形は跡形もなくなっていました。作業をはじめた頃は、においが気になることもありましたが、12月になると微生物が分解するごみもなくなり、フカフカとした土の香りがするように。この頃になるとたい肥の温度が下がり、成熟期間に入るので切り返し作業は終了。あとは、腐っていないか「完熟チェック」を行い「良いにおい」か「においがない」であれば完成です。12月末頃のチェックでは、まだにおいがしましたが、1月に行ったチェックで良いにおいと判断され、完熟たい肥が無事出来上がりました。

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京都音博をきっかけに熟成していった地域との関係

「最初は、ボランティアスタッフが集まるかどうか不安だった」と話していた、このプロジェクトの立役者である梅ラボの足立さん。彼のFacebookを発信源にワークショップへの参加を呼びかけたのですが、回を重ねるうちに新しく参加する人が増え、コンポストに興味のある人たちや、梅小路公園エリアで活動している人が自然と集まってくるようになりました。最終的に、この"完熟たい肥"づくりに関わってくれた人は延べ116人。中でも印象的だったのは、「生分解プラスティックがコンポストの中で分解されるか実験したい」という京都の大学生の卒業研究に協力したことです。ほかにも、梅小路公園で練習しているダブルダッチプレイヤーの方がこのボランティアへの参加がきっかけで、作業後に自身のお店で販売している無添加レモネードを提供してくれるようになり、参加者同士が自然と交流できる時間が生まれていました。このような出会いがあったのも、この場が公園という開かれた場所であったからこそかもしれません。画像15.pngそして、ワークショップの最終日となった2月9日には「完熟たい肥お引渡し会」が開催。ボランティアスタッフだけでなくこの取り組みのきっかけとなったくるりの岸田繁さん、公益財団法人京都市都市緑化協会の石飛英人さん、下京区長の山本亘さんなど関係者が多数集まりました。当初は、梅小路公園を管理している京都市緑化協会に預ける予定だった完熟たい肥も、この取り組みが気になりボランティアに参加してくれた、この園内で緑化活動を行う「京都みどりクラブ」、「梅小路公園花と緑のサポーターの会」にも譲渡されることになったのです。画像16.png ちょうど京都音博開催から4カ月となったこの日、関係者の手によってコンポストから梅小路公園内の市電乗り場前の花壇へと場所を移した完熟たい肥。この4カ月という時間が熟成させたのはたい肥だけではありません。この取り組みの中で生まれた人とのつながりも熟成され、次の動きも見え始めています。第一フェーズが終わったという足立さんが見据えているのは第二フェーズ。今回つながりが深まった京都市都市緑化協会さんと共に、京都音博が開催されない時期にも梅小路公園で開催されるイベントとコラボレーションし、完熟たい肥づくりを続けたいと考えているそうです。そして、岸田さんも「継続的に京都音博としてもこの活動を続けていきたい」と話していました。第一フェーズを振り返ると「コンポスト・ステーション」はたい肥をつくる場所で終わることなく、人と人をつなぐ新たな場所というコンテンツとしての役割も担いはじめたように見えました。

結びに

音楽を聴くためにはプレイヤーが必要になるように、音楽イベントを楽しむためには場所が必要です。今回、気づかされたのは「環境」というキーワードが音楽とイベントを開催する地域を深く結びつけてくれるということ。16回目の京都音博が挑戦した環境への取り組みは、地域の環境に貢献するだけでなく、地域とのサステナブルな関係性を深めたのではないでしょうか。そして、クラウドファンディングの支援でつくられた「コンポスト・ステーション」も一回で終わるものではありません。「コンポスト」がつなぐ音楽と地域とのいい関係性が続くよう、音楽イベントを享受する私たちも考えて行動していく必要があるのではないでしょうか。


text:乾和代
illustration:溝口日向
photo:岡安いつ美