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同志社ビジネススクールMBA公開講座「経済安全保障環境の変化と製造業の国内回帰のゆくえ」結果報告終了

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同志社大学大学院ビジネス研究科

202285日開催の標記MBA公開講座の結果について以下のとおり報告します。

1.開催概要

開催日時:202285日(金)13:30-16:50
場所:京都リサーチパーク西地区4号館ルーム1(京都リサーチパーク株式会社によるKRP フェス2022730日(土)~86日(土))の一環として開催。会場の収容能力120名のところ定員60名として募集し会場にて対面での開催)
主催:同志社大学大学院ビジネス研究科(同志社ビジネススクール)
後援:京都リサーチパーク株式会社(以下では「KRP(株)」)
開催趣旨:近年の米中対立およびコロナ禍に加えロシアのウクライナ侵攻による経済安全保障環境の急変に伴い、サプライチェーンを強靱化する必要性が高まっている。本公開講座は、わが国製造業を巡る経済安全保障環境を考察するとともに、サプライチェーンや製造拠点に国内回帰の動きは見られるのか、それに伴う国内中小企業の事業機会はどのように変化しているのかという観点から開催した。
主対象層:大企業、中小企業、行政・産業支援機関の方
参加者数:事前申込み29名、当日参加16名(主催者人員および登壇者を除く)

2.登壇者

村山裕三(むらやま ゆうぞう)氏/同志社大学名誉教授「経済安全保障とサプライチェーンの強靭化問題」
井沢晃将(いざわ こうすけ)氏/オムロンヘルスケア株式会社 生産SCM統轄部グローバルSCM革新部 部長「サプライチェーン改革」                        
鈴木礼子(すずき れいこ)氏/オムロンヘルスケア株式会社 生産SCM統轄部 生産戦略部(兼)購買戦略部 部長「拠点戦略の1つとしての国内回帰」
鈴木三朗(すずき さぶろう)氏/株式会社最上インクス相談役「京都中小製造業から見た受注環境の変化」(オンライン)
児玉俊洋(こだま としひろ)/同志社大学大学院ビジネス研究科教授 総合司会、イントロダクションおよびパネルディスカッション司会

3. 講演とディスカッション

(1)講演

冒頭、総合司会の児玉から、本公開講座のねらいとして以下のとおり紹介があった。

児玉:経済安全保障環境の変化に伴うサプライチェーンの強靱化やその一環としての製造業の国内回帰の動きには、一面では国内で活動する中小・ベンチャーにとっては事業機会として期待できる面がある。しかし、サプライチェーンの見直しや国内回帰への大手メーカーの具体的取り組みはあまり明らかになっておらず。中小企業側も少数の事例を除いて、仕事は増えていてもその要因ははっきり認識できないところが多い。そこで、本公開講座では、経済安全保障環境の現状認識を整理するとともに、サプライチェーンや製造拠点の国内回帰の動きは見られるのか、それに伴う国内中小企業の事業機会はどのように変化しているのかを考察したい。

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これに対して、4名の講演者から概略以下のとおりの講演があった。

村山裕三氏:米中の技術覇権競争が鮮明となる中で、新型コロナウィルスによる医薬品不足や、半導体不足による製造業への打撃、ロシアのウクライナ侵攻に伴う経済制裁やエネルギー・食料安全保障問題の発生などを背景として、日本でも経済安全保障推進法が制定され、経済安全保障に中長期的に取り組める体制が整備された。企業にとっては、このような法制度環境の変化も踏まえ、民生技術の軍民両用性を認識するとともに、地政学的要素を考慮してサプライチェーンの再編を図る必要性が強まっている。グローバル化の時代には相互依存を進めることがリスクを軽減することにつながると考えられていたが、現在は地政学的要素を考慮し特定国への依存を回避することが必要となっている。このような環境変化の下で、企業としては安全保障観点を経営戦略の中に組み込むことが重要であり、このため、複雑化しているサプライチェーンのリスク分析を行い、同盟国・友好国間での再構築も視野にサプライチェーンの強靱化を図ること、さらに、経済と安全保障の両方の知識を持つ経営者の育成が急務となっている。

井沢晃将氏:オムロンヘルスケア株式会社(以下では「オムロンヘルスケア」)では、80年代に欧州、米州にOEM供給を開始して以来、中国、東南アジアを含めグローバルに販売エリアを拡大し、販売拠点も現在18拠点となっている。それを支える生産拠点も国内だけでなく中国、ベトナム、ブラジル、イタリアへと拡充してきた。これに伴い、各販売拠点の在庫管理と各販売拠点と各生産拠点との受発注関係が複雑化し不確実性が高まってきたため、2016年にデータの可視化、オペレーションの集中化を行うサプライチェーンマネジメント戦略を策定し、グローバルSCM革新部でグローバルな生産、在庫、販売のオペレーションを集中管理する体制を構築した。あらかじめ集中管理する体制を整えていたためコロナの発生に伴う物流の混乱にも比較的円滑に対応できるとともに、コロナで明らかになった課題にも対応し、さらにグローバルなオペレーションの体制を深化させている。

鈴木礼子氏:オムロンヘルスケアの生産体制の歴史では、コスト低減のため中国工場を立ち上げ生産を拡大した結果、中国集中リスクが顕在化するとともに日本での「ものづくり技術」の継承にも問題が発生した。これに対処するため、ベトナム新工場を立ち上げ生産の分散化を図るとともに、日本生産の復活、すなわち、日本回帰に取り組んだ。日本生産の復活には、生産技術者の不足とコスト高という問題があったが、折からの「Made in Japan」人気とオムロンの強みである「人と機械の協働」を活かして加工プロセスの改善に取り組んだ結果、日本生産復活に成功した。さらに、コロナ禍において中国調達の部品が多いことのリスクが明らかとなったため、部品についても日本調達に軸足を置き、日本で調達して日本で加工する生産体制を実現しようとしている。そのような日本生産の実現によって、「ものづくりレジリエンス」を向上し、日本商品によってオムロンのミッションである「病気を早期に発見する」、「重症化を防ぐ」、「再発を防ぐ」という社会貢献をしたいという想いがある。この想いに賛同していただけるサプライヤー様を探索している。

鈴木三朗氏:国内中小製造業の現状としては、中小企業経営者の生の声として、「コロナでサプライチェーンが分断しておりリーマンよりも酷い、半導体不足でラインがストップしている」、「国内回帰どころではなく現状の受注環境では全く利益が出ない」等の声がある。一方、「意外にすんなり値上げが通った」、「中国製の金具がはいってこないので国内調達に切り替える動きから建材の受注が増加している」など変化の兆しも見られる。その背景として人件費などで日本での生産コストが安くなっていることも指摘できる。大手自動車メーカーではコロナやウクライナ侵攻でサプライチェーンが混乱することで多大な損失を生じたことに鑑みると、従来の「経済合理性」のみでなく「経済安全保障」の観点から適正な在庫確保や国内でのサプライチェーンへの切り替えが必要であり、それはチャンスでもある。しかし、日本の製造業には労働力不足と国内用地不足などの問題があるとともに、自動車産業についてはEVシフトへの対応も必要であり、また、ものづくりは国の繁栄の基礎であることにも鑑み、「国家戦略」として製造業強化の支援が望まれる。

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(2)パネルディスカッション

パネルディスカッション冒頭、児玉から村山氏に対して、サプライチェーン強靱化の中で日本回帰のウェイトはどのくらいか、井沢氏および鈴木礼子氏には、大手企業ではサプライチェーンの見直しや国内回帰に関して、大手メーカー一般にはそれほど明確にないのに対してオムロンヘルスケアではなぜコロナ以前からサプライチェーンの見直しや日本回帰に明示的に取り組みができているのか、鈴木三朗氏には、大手メーカーからサプライヤーを求める動きに対する京都のものづくり中小企業の対応力はどうなのかとの質問を行った。それに対する講演者の応答概略以下のとおり。

サプライチェーン強靱化において日本回帰のウェイトはどの程度か。

村山氏:サプライチェーンの強靱化は全部が日本回帰ではない。日本一国で回そうとしたら非常に非効率になるしコスト高になる。コスト高と強靱化のバランスをとることが極めて重要。そこで考える必要があるのが、中国依存で危険な部分があれば、そこを避けてどうするかという問題である。国内回帰もあるし同盟国・友好国の間で供給を確保するやりかたもありそこでコスト的に一番よいのはどうするのか検討することが重要。ビジネスチャンスの話としては。中国を避ける動きが出てくるのは明らかでそこに穴が空く。そのマーケットをとりにいったらよい。一つの典型は日本の通信業界。ファーウェイが制裁を受けてブロックされそこに穴が空いている。そこに日本の富士通やNEC、そこにつながるサプライヤーにも大きなビジネスチャンスがあり、そこを取りに行かなければいけない。そこを取りに行くには国際情勢や安全保障環境を見据えて、強靱化の必要もあり、ビジネスチャンスもある。そこを総合的に考えて経営戦略に落とし込むことがきわめて重要になっている。

オムロンヘルスケアではなぜコロナ以前からサプライチェーンの見直しや日本回帰の取り組みができているのか。

井沢氏:サプライチェーンが先進国、新興国含めて広がるにつれて複雑化しコントロールが難しくなるので集中管理が必要だと考えた。

鈴木礼子氏:もし中国の工場が災害等でつぶれたら当社の事業が止まってしまう。それを避ける必要があった。もう一つはオムロンはものづくりの企業であるのに技術が日本からなくなっているという危機感もあった。他社の動きとしては、当時、キャノンの日本回帰の動きをモデルとした。それも見つつ、われわれとしてはものづくりを力づけつつ日本国内に日本で作ったものを供給していきたいという想いを込めて日本回帰を進めてきた。

国内回帰の動きに対する京都のものづくり中小企業の対応力

鈴木三朗氏:京都のものづくりの特徴として、大量のものを低コストで作ることにはあまり向いていない。コスト勝負では中国やベトナムにかなわない。しかし、京都試作ネットのように自社だけで解決できないことを連携を組んでやれるという強みがある。新しい商品に必要とされる中核的部品や革新的な部品製作についての課題を企業間で力を合わせて解決していくことについては非常に対応力がある。

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次いで、各講演者相互に概略以下のとおりの質問応答が行われた。

各生産拠点で調達する部品のサプライチェーンマネジメント

村山氏からオムロンヘルスケアへの質問:サプライチェーンマネジメントのうち工場から販売へは集中化で対応されたが、工場につながる部品のサプライチェーンについても対策を講じていらっしゃるのか。。

鈴木礼子氏:工場に紐付く部品の調達も重要な課題である。部品調達に関しても中国集中を分散するため、部品調達先の中国以外への分散、中国以外の国の工場と組み合わせる複社購買が可能な部品を選んでおく、オムロン本社で一括集中することによる在庫の確保などの取り組みを考えている。

井沢氏:グローバルなサプライチェーンマネジメントにおいても、製品の供給体制だけでなく、部品調達に関しても共通部品について工場間での在庫を最適化する取り組みを行っている。

村山氏:その中で中国に依存することのリスクが大きいか、他にも考慮しているリスクがあるか。

鈴木礼子氏:中国依存のリスクが大きい。当社の工場は大連にあるので上海ロックダウンの影響を直接に受けたわけではないが、上海から輸出されている部品が多いので、大連の工場は動いているが上海から部品が出てこないこととなった。そのような意味で中国に部品を依存していることはリスクであり、分散を考えていくことは大きな課題である。

経済安全保障に関する日本政府の取り組みと企業に求められる対応

井沢氏から村山氏への質問:経済安全保障に関して日本政府はこれから何をしようとしているか、企業としてはどのように連携したらよいか。また、米国、中国等が経済安全保障に伴う対応を行っているのに対して日本政府はあまりうまくやっているイメージがないがどうか。

村山氏:米中技術覇権競争になって急速に経済に安全保障の視点からの対応が求められるようになった。現在は、安全保障の観点からの対応を急ぐあまり、市場取引に影響を与える可能性があり、経済界はそれに対して企業の経済的利害の観点から言い返す必要があるが、現状それは不十分であり、それに対して企業がもっと声を上げる必要がある。それによって、経済的利害と安全保障利害をバランスさせることが可能となる。

経済安全保障に関して、海外と比べて日本政府の対応が遅れているかというと、外資規制については10年程前に法制的な穴を埋めたので国際的なレベルになっている。輸出管理については私自身点数付けしたことがあるが日本はトップクラスであり米国と同水準である。ただし、中小企業と大学の認識が不足しておりそこから技術流出してしまう可能性がある。

国におけるリスク対応に関する関係部署間の連携

鈴木礼子氏から村山氏への質問:コロナが始まったころ、当社商品である体温計が大欠品となった。これに対して当社は供給責任を果たすべく体温計生産の設備投資を行ったが、支えていただく下請け企業や部品メーカーに設備投資の余力がなかった点が厳しかった。また、体温計を生産できても薬事法上の国の許認可は平時並みのスケジュールで対応が行われジレンマを感じた。国としてリスク対応する際の関係者間の連携の必要を感じた。

村山氏:今回のコロナの教訓として、人の健康にも関わることでもあり戦略的に重要な企業活動には国がサポートしていざという時にも機能するようなサプライチェーンを作る必要があることがわかった。医療分野は特にその必要性は高い。政府はそのように動き始めているが、企業活動でどの部分に国の支援が必要かという情報を政府は集める必要がある。同時に、企業側でも政府の動きに関して情報収集するとともに国の支援が必要な点についてアピールしていくことが重要である。

サプライヤー企業への要望

鈴木三朗氏からオムロンヘルスケアへの質問:日本生産で実現したいとされている「モノづくりレジリエンスの向上」とは具体的にどういうことか。また、日本生産において、われわれのようなサプライヤーに要望されることは何か。

鈴木礼子氏:モノづくりレジリエンスの向上とは、地震、災害、紛争等によって供給が途絶えた際にいち早く供給を復活し供給責任を果たせるようにすること。この10年、15年は何が起こっても不思議ではない状況であり、複数国購買、複写購買、在庫確保などによって、ものづくりレジリエンスを向上することが必要となっている。

日本での生産は日本への供給が主対象でありそれほど大量に生産しているわけではない。そこで日本のサプライヤーにお願いしたい点としては、スピーディな生産と革新的な商品の創出のための部品の生産に協力していただけると助かる。

鈴木三朗:われわれもぜひそのような革新的な商品の開発に携わらせていただきたい。中国やベトナムでできるものを同じように作っても意味がなく、商品開発の部分で京都の特性を活かしチャレンジングなものづくりに協力したい。

シンクタンクについて

鈴木三朗氏から村山氏への質問:経済安全保障推進法のところでシンクタンクの設立のお話しがあったが、これまで日本にはきちんとしたシンクタンクがなかったと感じている。このシンクタンクは内閣が替わっても継続していくものなのか。日本の国益のために考え続ける組織が必要と思う。

村山氏:米国では、シンクタンクはその考えている政策を次期政権の政策に反映する活動をしており、研究員の給料は政策実現を期待する支援者の資金によって賄われ、政権交代とともにシンクタンクの研究員が政府にはいるなど、シンクタンクが政策形成に組み込まれている。それに対して日本では官僚がシンクタンクの機能を果たしており、シンクタンクの政策がどのように活用されているかは必ずしも明らかではない。そこで、われわれは民間の技術を政府のニーズに役立つように民間からも政府からも人材がはいって立案した政策を社会実装までもっていくシンクタンクの構想を提案している。

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3)フロア参加者とのディスカッション

フロア参加者から、電子機器製造に従事する立場から、オムロンヘルスケアの講師に、適切なサプライヤーを探すにはどのようにしたらよいか、村山氏に、経済安全保障推進法で特許出願非公開制度を実施することとなったがなぜ今まで行われなかったのか、との質問があった。これに対する各講演者の回答概略以下のとおり。

サプライヤーの探索方法

鈴木礼子氏:電子部品と加工品野2分野があるが、電子部品についてはオムロン本社で他の事業体の部分とまとめて探してもらっている。加工品に関しては、日本国内でもできるだけ近隣の地域から探している。

鈴木三朗氏:そのように適切なサプライヤーを探すのに困られているお客さんがいる一方、われわれは逆にどうやってお客さんに到達できるかで苦労している。京都試作ネットへ試作依頼や問合せ、京都産業21でのマッチングの相談、ビジネス交流フェア等の展示会での声かけなどの方法がある。

児玉:オープンイノベーションにおいては、日本では大手企業が技術シーズ情報は開示してもニーズ情報を開示しない傾向にあり中小企業とのマッチングが進みにくい一つの要因となっているので、ニーズ情報で差し支えない情報は積極的に開示することがシーズ側企業を探す一つの方法である。また、京都試作ネットや京都産業21のような連携仲介機関を活用することも方法である。

特許出願非公開制度

村山氏:特許出願非公開制度がなかなかできなかった理由としては、一つには、以前は安全保障というと反対する人が多かったことがある。今回の国会審議では野党も反対していないのでその点障害でなくなった。もう一つの要因としては、秘密特許にすると特許料があいまいになり、秘密特許の範囲を広げると特許料の不確実性が高まるので反対していた人がいると思う。

以上のディスカッションを終え閉会とした。