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2023/11/09

次世代の京都スタートアップエコシステムについてIVS2023から考える、「KYOTO Startups JUNCTION #2」開催レポート

── 国内外から1万人以上が参加した「IVS・IVS Crypto 2023 KYOTO(以下、IVS2023)」。あれから数か月がたった今、改めて京都市のスタートアップエコシステムの再定義や、「IVS2024」を見据えてどう動くべきかについて考えることが求められています。

2023年9月25日(月)、京都リサーチパークで、「KYOTO Startups JUNCTION #2」が開催されました。スタートアップエコシステムを構築していくためには、つながり(=コネクト)と結合(=ジャンクション)を起こし、大きなうねりにする仕掛けが重要です。同イベントには、京都の企業家や行政機関、地域金融機関、支援機関などが一同に集結。京都のスタートアップエコシステムの参加者がつながり、結合を生む場として、ピッチやトークセッション、交流会などが実施されました。

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(一般社団法人交通都市型まちづくり研究所代表理事 漆畑慶将氏)

主催者を代表して、一般社団法人交通都市型まちづくり研究所の代表理事・漆畑慶将氏は「2022年に京阪神のスタートアップエコシステムに携わる機会があり、魅力的なスタートアップや支援機関、参加者の方々が多いと実感した。これらをより大きなうねりにしていくために、さまざまな機関と連携しながらオープンイノベーションにつながる場をつくり続けていきたい」と語りました。
本記事では「第2部:オープニングピッチ」と「第3部:IVSを通して考える〜行政・VC・支援機関と考える京都のこれから〜」の模様をダイジェストで紹介します。

まずは「第2部:オープニングピッチ」です。当ピッチには、共催機関による推薦の中から選抜された、京都につながりのあるスタートアップ3社が登壇しました。

次世代糖尿病フットケアソリューション「Steplife」を開発、石田プロダクツ合同会社

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(石田プロダクツ合同会社代表社員 石田幸広氏)

石田プロダクツのミッションは「糖尿病患者の足を守り、足切断を0にする」ことです。糖尿病は世界的に増加し続けています。2021年に5億人を突破し、2030年には6億人、2045年には8億人近くまで増えると予想されています。

糖尿病の3大合併症は、網膜症、腎症、神経障害です。これらを放置した場合、失明や人工透析、足の切断などにつながるリスクがあります。なかでも足を切断した場合の5年死亡率は、人工透析の23%をはるかに上回る70%です。

石田プロダクツは、足の切断に至る原因を、患者が自分の身に起こり得るリスクを正しく把握できていないことであると定義しました。療養生活が長期間にわたるなかで、いつ起こるかわからないリスクを認識し続けることは困難です。

そこで患者に自己管理を促すサービスを開発しています。自己管理のポイントは、患者自身による動機付けと、重要な他者の存在です。自己管理に対する動機付けをVRの患者教育教材で、重要な他者の存在を医療スタッフが担う形で、フットケアアプリを提供しています。教材にVRを用いることで、患者は能動的に学ぶことが可能です。

また一般的に紙で管理される患者用のフットチェック用紙をアプリ化することで、医療スタッフとの効率的かつ相互的な自己管理が可能になります。将来的には、AIによるリアルタイムのフィードバック機能も搭載予定です。

今後の展望としては、日本で開発や実証、販売を行った後に、マレーシアで事業を展開予定です。石田氏は「この事業に取り組むきっかけをくれたのは、マレーシアの方だった。マレーシアは国民の20%が糖尿病であり、まずはその方々に報いたい。その後は、マレーシアを拠点にASEANにも拡大していく」と語りました。

スタートアップをテクノロジーで支援する、Creww株式会社

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(Creww株式会社 西日本エリアマネージャー 志岐遼介氏)

Crewwは「大挑戦時代をつくる。」をミッションに、テクノロジーでスタートアップを支援するグローステック事業を展開しています。主な事業は2つです。1つめは、オープンイノベーションを通じたスタートアップの成長支援「Creww Growth」。2つめは、本業を続けながら起業準備や仲間集めができるプラットフォーム「STARTUP STUDIO by Creww」です。

「Creww Growth」は新規事業や既存事業のアップデート、DXなどに取り組みたい事業会社と、成長を加速したいスタートアップを結びつけるプラットフォームです。これまでに開催したオープンイノベーションプログラムは350回以上にのぼり、1000件を超える協業を創出してきました。

一方の「STARTUP STUDIO by Creww」は、創業初期のファウンダーや新規事業に取り組みたい事業会社と、事業開発やエンジニアリングなどの知見があるイノベーター人材をマッチングするプラットフォームです。8500人以上のイノベーター人材が登録しており、そのうちの20%はゼロイチの事業立ち上げ経験があるといいます。

また2022年11月より、米国Googeのスタートアップ支援プログラム「Google for Startups」における日本で唯一の公式パートナーとなり、国内スタートアップの海外展開を支援しています。さらに国内向けには、地域のイノベーションを推進する「47クルーズプロジェクト」を運営。自治体や地域金融機関と連携することで、地域の事業会社とスタートアップをマッチングしています。

志岐氏は「地域の強みを活かしつつ、外部の力が必要な際には、弊社をうまく活用してほしい。関西をはじめとする西日本エリアでの支援体制も強化しているので、気軽にご相談いただきたい」とピッチを締めくくりました。

がん患者や闘病者家族の支援プラットフォーム「CureMind」を開発、MiaLuce

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MiaLuce 代表 久保とくみ氏

MiaLuceはがん患者やその家族をサポートするアプリ「CureMind」を開発しています。日本人の2人に1人が、がんにかかる時代です。代表の久保氏は看護師でありながら、自身もがんの闘病経験があります。また久保氏と同時期に、母親もがんを発症し、闘病者家族も経験しました。

がん患者や闘病者家族として、久保氏が感じた最大の課題は、精神的な苦痛を相談する相手がいないことです。久保氏は闘病中、家族もがんだったため、Twitter(現X)で闘病仲間を探しました。しかし、同年代の女性で、同じような状況下にある人が見つからず、孤独や不安がさらに募ったといいます。また、身近な友人や多忙なドクターや看護師にも、気軽に相談できなかったそうです。

上記の経験から、現在、がん患者や闘病者家族向けのプラットフォーム「CureMind」を開発中です。主な機能は3つあります。まずはがん患者同士、また、がん患者と入院している病院外の医療従事者とのマッチングです。次に闘病経験者によるカウンセリング。そして闘病後の再発防止やキャリア支援をするプログラムです。

ビジネスモデルは、ユーザーに対する月額課金に加え、医療機関や製薬・保険会社などへのデータ提供も検討しています。また、がん患者は世界で増加傾向にあるため、海外展開も視野に入れています。チームメンバーの半分が外国人で、開発段階からグローバル展開を見据えた体制です。

久保氏は「私たちのビジョンでもある、がん闘病中の苦痛を軽減し、がん患者が自分らしく生きられる社会を実現していきたい」と決意を語りました。

IVS2023から考える、京都スタートアップエコシステムの今と未来

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ここからは第3部トークセッション「IVSを通して考える〜行政・VC・支援機関と考える京都のこれから〜」の模様を紹介します。当セッションでは、IVS2023の成功や失敗を振り返りながら、京都スタートアップエコシステムの拡大に向けて、どう活かしていくべきかを議論しました。登壇者は以下の4名です。
〈ゲスト〉
京都府 商工労働観光部 中原真里氏
株式会社taliki 取締役 原田岳氏
EVER株式会社 代表取締役 都地耕喜氏
〈モデレーター〉
京都リサーチパーク株式会社 井上雅登

なぜ、IVS2023と京都は連携したのか

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井上 はじめにIVS2023の数値的な振り返りからお願いできますでしょうか。

中原氏(以下、敬称略) まず参加者1万500人が集まりましたが、この数字が述べ数ではなく実数であることがポイントです。そのうち海外からの参加者が2200人、学生が700人で、今までリーチできていなかった層にも届けられたと思います。また、250個のセッションや150個のサイドイベントなど、コンテンツの豊富さも話題になりました。

井上 実数で1万500人!それは会場近辺でもタクシーが捕まらなくなるわけですよね...。IVS2023は招待制を廃止して、京都とコラボ開催したことも盛況の理由だったと思うのですが、なぜ京都とIVS2023のコラボは実現したのでしょうか?

中原 最大の理由は、京都のスタートアップ支援が、新たなフェーズに進んだためです。2019年に京都のスタートアップエコシステムを盛り上げる目的で、「京都スタートアップエコシステム推進協議会」を設立しました。そこから、スタートアップの増加や投資家からの支援拡充を進め、2023年上半期には、東京に次いで全国2位の資金調達額を誇るエコシステムにまで成長しました。

そして、さらなるスタートアップエコシステム発展のために、京都には何が必要なのかを議論しました。そこでたどり着いた結論が、海外投資家や事業会社からの投資です。京都の強みであるディープテック領域のスタートアップを支援するためには、海外からの投資が集まる環境が必要だと考えました。

ただ、京都はビジネス面で海外とのつながりが薄かったので、できることに限界がありました。その打開策として浮上したのがIVSとのコラボです。IVSはグローバルの投資家・起業家ネットワークを構築していたので、外国人から人気の京都とコラボすることで、相互に良い影響を与えられるということで話がまとまりました。

井上 なるほど。2019年からスタートアップエコシステムを発展させてきたなかで、よりグローバルな環境づくりが必要となり、IVSとのコラボに至ったわけですね。

IVS2023は京都のスタートアップが注目される絶好の機会に

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井上 実際に登壇した原田さんと都地さんにお伺いしたいのですが、IVS2023を振り返って良かったところと、もし改善点もあればあわせて教えてください。

原田氏(以下、敬称略) 良かったところは主に2つあります。1つめはネットワーキング効果です。会場には決裁者や業界の大物がたくさんいて、これまでのスタートアップカンファレンスで、最も良い出会いの場となったといっても過言ではありません。

2つめは「SOCIAL INNOVATION AREA」が盛況だったことです。社会課題の解決に特化したエリアはIVS2023で初めて設置されました。このエリアで起業家や投資家、研究者、エンジニアが混ざり合って活発に議論していたことは、京都のスタートアップエコシステムをグローバル化していく観点からも、非常に大きな成果ですよね。

都地氏(以下、敬称略) 私も1万人以上の来場者数や、そこから生まれるネットワーク効果は凄まじいものを感じました。普段はイベントに登壇してもそこまで緊張しないのですが、今回は共同代表から「めちゃくちゃ緊張してたね」と言われて、やはり桁違いの規模感だったんだろうなと思います。

登壇後には共感や応援したいという声をたくさんいただき、IVS2023が終わってから3週間くらいは、ネットワーキングでつながった方々とのミーティングで潰れましたね。

井上 なるほど。あえて意地悪な質問をするのですが、全国的にスタートアップカンファレンスが増えているなかで、ネットワーキングの場は東京や大阪にもあると言えます。そこで他のカンファレンスと比較して、IVS2023の良かったところを挙げるとすれば、どこになるでしょうか?

都地 京都で大規模イベントを開催できたこと自体が、良かったんじゃないかと思います。なぜなら、参加者の多くが「京都のスタートアップやスタートアップエコシステムについて知りたい」という気持ちで訪れていますよね。そのため、京都を拠点にするスタートアップというだけで、注目してもらえた企業は多かったんじゃないかと思います。

原田 私も京都で開催したことに関連して言うと、京都はまちの魅力がコンパクトにまとまっているので、各所でサイドイベントが開催されても、人が分散し過ぎないんですよね。期間中はまちを歩いているだけでスタートアップ関係者と交流できたので、結果的に400人くらいと名刺交換をしました。

井上 なるほど。中原さんにも伺いたいのですが、行政目線で、IVS2023の反響はいかがでしたか?

中原 まず、京都府内の話をすると、地元企業や地域の行政機関に向けて、京都のスタートアップエコシステムの盛り上がりをアピールできたことは大きな成果だったと思います。京都の強みであるディープテック分野をはじめ、社会課題解決型のスタートアップには産官学の連携が不可欠です。そういう意味で、IVS2023をきっかけに、京都府内で各機関とスタートアップの連携が強化されていくことを期待しています。

また京都府外について言えば、スタートアップ支援係として府外に出向いたときに、「IVS2023に行きました」と声をかけられたりと、京都スタートアップエコシステムの存在感が全国規模で高まっていると感じます。ただ、当初の目的である世界に向けたアピールという意味では、まだまだ課題も多い状況です。

IVS2024を見据えて、鍵はグローバル人材の「定着」

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井上 最後に、アフターIVS2023の今、どんなネクストアクションを起こそうとしているのか。IVS2024も見据えてお話しいただければと思いますが、いかがでしょうか?

中原 IVS2023で、京都スタートアップエコシステムをグローバル化できるポテンシャルは、十二分に感じられました。IVS2023では、まずは海外の起業家や投資家を呼び込むことができたので、ネクストアクションは、いかに京都に定着してもらうかだと考えています。

具体的な施策としては、今年の秋に「外国人起業家等長期滞在型誘致プログラム」の募集を開始します。これは海外に住む起業家や投資家に向けて、京都での生活拠点や具体的なビジネス案件、ネットワーキングの機会などを3か月間提供し、京都への移住やオフィス移転などを検討してもらう取り組みです。実施期間は2024年1月〜3月を予定しています。

また京都から海外展開を目指すスタートアップに向けて、世界的な海外戦略コンサルタントによるアドバイスや、ドバイでの展示会の機会なども提供しようと計画中です。また、IVS2024に関しても前向きに調整を進めているので、発表があった際にはぜひご注目いただければ幸いです。

原田 京都のスタートアップエコシステムをさらに発展させていくためには、京都府外との共創や連携が不可欠だと考えています。そのためには、京都府内のスタートアップや支援機関が、IVSに全面協力して、積極的に共創機会を生み出していくことが重要です。talikiも来年度は、全社員フルコミットで、IVS2024を盛り上げにいきたいと思っています。

都地 弊社が運営する中小企業とスタートアップを結ぶ「CVC Lab EVER」も、IVS2023で多くの海外起業家や投資家とつながれました。そのなかで、たとえばアメリカでは物価高騰の影響で、150億円規模の資金調達をしてもすぐにキャッシュが尽きてしまうという話も聞きました。

そこで「CVC Lab EVER」がハブとなり、京都に拠点を移したい海外起業家と地元の事業会社、支援機関をマッチングできれば、京都スタートアップエコシステムのグローバル化を、後押しできるんじゃないかと考えています。

井上 皆さまお話いただき、ありがとうございました。IVSがもたらしたものをきっかけに、京都で活動される各機関がこれからどんなアクションを起こしていくのかが大事だと、改めて感じました。本日はありがとうございました。

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(京都リサーチパーク株式会社 イノベーションデザイン部 井上雅登氏)

結びに、主催者でもある京都リサーチパーク株式会社の井上雅登氏は「京都は紹介文化が強い地域だが、各機関の志ある支援者、起業家・事業会社が繋がる場を作り続けることで、京都のエコシステム発展に寄与したいと考えて、このイベントを始めた。今後も継続して開催するので、京都のスタートアップエコシステムに興味ある方は地域に関係なく参加してほしい。」と述べて締めくくりました。

京都は海外に向けて、東京と肩を並べるネームバリューがあります。IVSに来た海外起業家や投資家と信頼関係を構築できれば、京都を挑戦の場に選んでくれる外国人材は増えていくと思います。
来年のIVS2024にも注目です。

文/園田 遼弥

次回の「KYOTO Startups JUNCTION#3」は2024年1月10日夜に京都市四条烏丸経済センター3FのKOINで開催予定です。近日情報解禁予定になりますので、是非ともご参加ください。

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【KYOTO Startups JUNCTION #2】
◆主催
・一般社団法人交通都市型まちづくり研究所
・京都リサーチパーク株式会社
・株式会社OK Junction
◆共催
・一般社団法人京都知恵産業創造の森
◆後援
・経済産業省近畿経済産業局
・独立行政法人中小企業基盤整備機構 近畿本部
・京都府
・京都市
・公益財団法人京都産業21
・公益財団法人京都高度技術研究所
・京都商工会議所
・京都信用金庫
・株式会社京信ソーシャルキャピタル
・株式会社毎日放送
・KBS京都放送
・京都新聞
◆ご登壇者
【第1部:開会のご挨拶と本イベントの趣旨説明】
■一般社団法人交通都市型まちづくり研究所 代表理事 漆畑 慶将 氏
【第2部:オープニングピッチ(ピッチ)】
■石田プロダクツ合同会社 代表社員 石田 幸広 氏
■Creww株式会社 Startup Success Dept. 西日本エリアマネージャー 志岐 遼介 氏
■MiaLuce inc. CEO、闘病コミュニティRe:live founder 久保 とくみ氏
【第3部:IVSを通して考える〜行政・VC・支援機関と考える京都のこれから〜(パネルディスカッション)】
■京都府 商工労働観光部ものづくり振興課スタートアップ支援係 課長補佐兼係長 中原 真里 氏
■株式会社taliki 取締役 原田 岳 氏
■EVER株式会社 代表取締役 都地 耕喜 氏
■京都リサーチパーク株式会社(KRP) イノベーションデザイン部 井上 雅登 氏
【司会】
■京都大学医学部人間健康科学科4年 藤森 弥子氏