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2025/03/24

【Almaprism株式会社】 ゲーム技術を活用し、ADHDの子どもの特性に合わせた支援を可能に。

発達障害の一つである「注意欠陥多動性障害(ADHD)」を抱える子どもたちの困り事を解消し、個々の特性を活かした生き方を支援するために、診断や治療において活用できるプログラム医療機器の開発に取り組むAlmaprism。その開発に至った想いや今後の目標などについて、CEOの糟野新一氏とCOOの小野富大氏に話を伺った。

Almaprism株式会社/CEO・ゲームデザイナー 糟野 新一(かすの しんいち)氏(左)
Almaprism株式会社/COO・データサイエンティスト 小野 富大(おの とみひろ)氏(右)

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ADHDの子どもが持つ個性を矯正するのではなく、前向きに生きる方法を共に考えるための医療機器。

■御社の技術とプロダクトについて教えてください。

糟野氏:注意欠陥多動性障害(ADHD)は7歳あたりからその特性が目立ってきます。分かりやすい例として、椅子にじっと座っていられない、忘れ物が多い、集中力が持続しないなどの特性があります。成長するにつれて不注意やミスなどが目立ち、社会に適合できず鬱になったり不登校になったりするケースもあります。また、衝動的に動いて道路に飛び出してしまい、交通事故で亡くなる事もあります。

そのような困り事を抱えるADHDの子どもに対して、親御さんや医師はその子の特性やその子を取り巻く環境を深く理解した上でケアを行う必要があります。弊社が開発するのは、ゲームという仮想空間においてADHDの子どもの行動データを解析し、診断や個別ケアに役立てるプログラム医療機器です。例えば、楽器を弾く子を観察すると、強い音で弾いたり譜面を見ずに自由に弾いたりする子どもの個性や特徴が見られることがあるかと思います。ゲームの遊び方にも同じように個性や特徴が反映されますが、加えて僕らのソフトウェアはその子の行動のデータを収集し、客観的に特性や特徴を出力することができます。

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ADHDの子の個性や取り巻く環境は千差万別で解決方法も無限にあり、一人一人にあわせて調整したケアをする必要があります。しかし、誰もが専門医のいる医療機関に何度も通って特性にあった治療法を提案してもらえるわけではありません。だからこそ誰でも気軽にプレイできるビデオゲームによって、困っている子どもや親御さん、現場の医師に一つの解決策を提示できるのではないかと考えます。

また、「発達障害の問題」は、発達障害の子どもが持つ個性の幅と、社会の幅との間で起きる摩擦のようなものなのです。例えば、忘れ物が多いため先生に酷く怒られて学校に行けなくなり、強迫性障害になったADHDの子がいます。けれども、病院で医師がその子のデータに基づく良いところを伝えると、暗い表情だった親子が笑顔になり、「いかに忘れ物をなくすか」にこだわっていた母親が、その子のペースで変わっていけばいいと思い直したそうです。そのような「気づき」を与えるのも、僕たちの開発するプロダクトの役割だと考えます。

小野氏: ADHDの治療において取れる選択肢としては、子どもへの指導、親御さんへのカウンセリング、環境調整、投薬治療、認知行動療法、ペアレントトレーニングなどがあります。子どもについての情報が少ない段階では、その子にあった治療法を試行錯誤しながら模索する必要があります。僕らの技術を使うことによって、医師や親御さんが「こういう傾向があるから、こういうところから治療を始めてみましょうか」からケアを始め、より早くその子にとってベストなケアの仕方にたどり着けることができればいいなと思っています。

そのため、弊社の開発するゲームはまず、医師がADHDの「診断」に活用できる医療機器となることを目標にしています。その先のステップとして、データに基づいた体系的な治療方針を提案できるツールを目指します。これらが実現すれば、医療現場において限られた時間で診断をしなければならない医師でも、ADHDの特性に合わせた個別ケアを実施することが可能になるのではないでしょうか。

まずは、ゲームの行動データを解析することで症状と特性が正しく測定できることを確認するために、名古屋大学医学部附属病院と浜松医科大学と共同で臨床試験を行いました。今後は、医療機器としての承認をめざして、更なる臨床試験を行なっていきます。

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ゲーム開発で追求してきた「面白さ」と、教育の現場で培った「楽しく学ぶ」を追求。

■お二人の経歴と、出会いをお聞かせください。

糟野氏:任天堂でゲームデザイナーとしてゲームの企画開発に携わっていましたが、他分野とコラボレーションをしたゲームを創りたいと考えるようになりました。ゲームは楽しむものでもあり「子どもが好きなもの」という点から「小児医療」に可能性を見出しました。そこでベンチャー企業に転職し、多くの子どもが遊ぶ「3Dアクションゲーム」と、考えて行動をとる際に使用される「認知機能」に関する学術研究を京都大学とともに行い一定の研究成果を実現しました。

その後、独立を決意して20224月にAlmaprism合同会社を設立しました。また、名古屋大学医学部附属病院の高橋長秀准教授(研究当時)と、浜松医科大学の土屋賢治特任教授と共同研究を行い、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「医療機器等研究成果展開事業」に採択され、医療用ゲームのプロトタイプを作り上げたのです。

小野氏:糟野とはベンチャー企業で働いていた際に出会いました。僕は幼い頃からアメリカで育ち、公立のハイスクールで物理学の教師をしていました。生徒たちに楽しみながら学んでもらうことを意識し、校庭でサッカーボールを蹴ってもらって放物線の計測をするなど、体験型の授業を行っていました。授業の体験の設計を工夫すれば生徒の興味や考え方が大きく変わることを実感し、その考え方は現在の仕事にも共通していると感じます。

5年ほど教師をした後に大学院で教育心理学について学び、その知識は現在行っている行動データの解析と研究に活かされています。そもそも、ADHDの子どもは面白くないとゲームをプレイしてくれず、意味のあるデータを取得することが難しいという背景もあります。ゲームの「面白さ」は糟野が担保し、自分はゲームという複雑な体験の中からどう科学的に信頼性のある、実用に耐えうるデータを出力するかを考えるという役割分担になっています。

糟野氏:僕は元々「ゲーム屋」なので「面白いものを作りたい」という想いが原動力になっています。ただ、面白さを追求するほどどんどん複雑なゲームになってしまい、複雑すぎるとデータの解析は難しくなります。僕たちが開発するプロダクトは、エンターテインメントとしての面白さと、学術的な役割のバランスをいかに両立させる事が重要です。

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プロダクトを実際に活用してもらい、京都のイノベーション活性化に貢献したい。

KRPに入居されたきっかけをお聞かせください。

糟野氏:KRPは、京都でイノベーションを生み出す重要なエコシステムの場であると感じます。ピッチイベントの「HVC KYOTO 2024」や「ヘルシンキ・スタートアップ エコシステム交流プログラム」など様々なイベントに積極的に参加させていただいています。きっかけがあれば雪だるま式に話が進むこともあるので、このような出会いの機会を大切にしています。

小野氏:ピッチイベントだけでなく、相談会、カジュアルにつながるイベントなど、KRPの担当者にお声がけいただいた際は参加するようにしています。KRPには製薬会社や医療機器メーカーなどが多く入居されているので、そのような企業とのつながりができ、弊社の存在もアピールできる貴重な場であると感じます。他社がどのような活動をされているのか知ることも、大変勉強になります。

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糟野氏:会社の認知は高まってきたので、今後は実際にプロダクトを使ってもらうための活動を強化したいと考えます。京都の街で弊社のプロダクトが評価されて、別の地域にどんどん広がっていき、京都におけるイノベーションの活性化にも貢献できればと思います。そのためにも研究開発を進めて、科学的な根拠を示していきたいです。

人の行動を解析するゲームを、多くの人が使える形で広く届けていく。

■今後、会社として注力したいことなど、お聞かせください。

糟野氏:まずは開発中のゲームが医療機器として承認されることを目標としています。世の中にはヘルスケア商品は多くありますが、薬事承認というプロセスを経ていなければ治療効果をうたうことはできません。その結果、困っている子どもや親御さんは何を頼ればいいのかわからなくて困っている現状があります。誰もが手に取れるゲームという形態でありながら、医療機器としての高い信頼性を確立することによって、本当に困っている子どもや親御さんの元へ届ける事ができるのではないかと考えています。

小野氏:弊社が開発をすすめる「診断」に係る測定技術については、医療分野だけではなくさまざまな分野で応用できるのではないかと考えます。他の発達障害や、医療という枠を飛び越えて教育現場などでも活用できるのではないでしょうか。僕は学術的な観点から、この技術の先には、人の心理、学び方、遊び方にもっと理解が及ぶようになると信じています。

糟野氏: 弊社が開発するのは、今まで未解明の部分が多い精神分野において、仮想空間で人間の行動を解析して困り事を解決する事に役立てるツールです。誰でも手軽に楽しめるゲームを介して、弊社のプロダクトを多くの人が活用できる形にして、どんどん広げていきたいです。

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(プロフィール)

糟野 新一氏
京都府出身。京都大学総合人間学部卒業。在学中にグラフィックデザインを独学で学ぶ。大学卒業後は任天堂株式会社に入社。企画制作部ゲームデザイナーとして「Nintendo Labo」をはじめ数々のゲームの企画開発に携わる。その後ベンチャー企業で京都大学と学術研究を行い、ゲームを使用した学術研究プロジェクトにて開発を指揮。20224月にAlmaprism合同会社を設立し、医療用ゲームのプロトタイプの開発に従事。20252月、Almaprism株式会社のCEOに着任。

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小野 富大氏
東京都出身。親の仕事の都合のため小学校1年生の頃からアメリカで育つ。バージニア州立大学で物理化学を専攻し、卒業後は公立のハイスクールで物理学の教師として勤務し、生徒に楽しみながら学んでもらえるような体験型学習の手法を作成。その後、ハーバード教育学大学院で教育心理および行動分析について学ぶ。修士課程修了後はベンチャー企業に入社し、京都大学と共同でビデオゲーム内の行動と認知機能の関連性を研究する。現在はAlmaprism株式会社のCOOおよびリサーチ・ディレクターとして研究開発を指揮。

企業情報
会社名    Almaprism株式会社
代表者    CEO 糟野 新一
所在地    4号館 KRP BIZ NEXT
URL       :https://almaprism.com/

事業内容
ビデオゲーム技術を活用して、ADHD(注意欠如・多動性障害)などの発達障害に深く関連する認知機能の特性を明らかにするための製品を、ヘルスケア・医療機器の両方の市場に向けた研究開発を行う。デジタル空間でのインタラクションを設計・実装し、医療に応用。