2025/09/04(木)
【開催レポート】サイエンスパークサミット2025 ~技術革新企業とともに描く日本のサイエンスパークビジョン~

2025年8月1日、「かながわサイエンスパーク」を運営する株式会社ケイエスピー(KSP)と京都リサーチパーク株式会社(KRP)の共催イベント「サイエンスパークサミット2025 技術革新企業とともに描く日本のサイエンスパークビジョン」が開催されました。
一般社団法人 鶴岡サイエンスパーク代表理事、慶應義塾大学名誉教授の冨田勝氏による基調講演の後、トークセッション、そしてサイエンスパーク関連企業がピッチを実施。
本記事では、イベントの一部をレポートとしてお届けします。
開会挨拶 株式会社ケイエスピー 常務取締役 飯塚豊
「サイエンスパークサミット」の前身は「東西サイエンスパークDAY」です。東西サイエンスパークDAYでは過去3回にわたり、東のケイエスピー、西の京都リサーチパークの企業による東西対抗戦の形式で、ディープテックやライフサイエンス分野で活躍する企業がピッチを行ってきました。
今回から「サイエンスパークサミット」と名称を変え、プログラムを改めた背景について、株式会社ケイエスピー常務取締役の飯塚豊は「全国的なサイエンスパークの広がり、連携を目指したい」と挨拶しました。
冨田勝氏による基調講演
「優等生集団から革新は生まれない~脱・優等生のススメ~」
基調講演を行ったのは、一般社団法人 鶴岡サイエンスパーク代表理事、慶應義塾大学名誉教授の冨田勝氏です。
鶴岡サイエンスパークが拠点を構える山形県鶴岡市は、人口12万人の地方都市。2001年に山形県と鶴岡市を含む庄内地域の14市町村、そして慶應義塾大学が連携し、慶應義塾大学先端生命科学研究所が設立されて以来、この地で世界最先端のバイオテクノロジー研究が行われてきました。
冨田先生は、講演の冒頭にて鶴岡サイエンスパークの変遷を振り返り、「初め(2001年)は2階建ての大学の研究所と十数人のスタッフのみで、あたりは一面田んぼでした。当時サイエンスパークの構想はなく、ベンチャー企業が生まれ、新たな人材が輩出される中で土地が足りなくなり、行政に掛け合いインキュベーション施設が生まれました。結果的に敷地面積は21.5ヘクタールにまで拡大し、現在はスタートアップを含む26の組織、700人の雇用を産んでいます。これは鶴岡市の労働人口7万人の1%に当たる数字です」と説明しました。
研究所から多くのバイオベンチャーが誕生し、大学を核とした独創的な地域活性の成功事例は、国内外から注目を集めるようになりました。
鶴岡サイエンスパーク発スタートアップ
- ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ:メタボローム受託解析のリーディングカンパニー。2013年、東証マザーズ上場。山形県に本社を置く9つ目の庄内地方唯一の上場企業。
- サリバテック:唾液でがんのリスクを推定する「サリバチェッカー」を開発。ディープテックとテクノロジーの世界的スタートアップ・コンテスト「XTC JAPAN 2025」で優勝し、今年11月開催の世界大会への出場を予定。
- Spiber:人工タンパク質素材(Brewed Protein™)を開発。日本に5社しかないユニコーン企業の一つ。ディープテックとして日本唯一のユニコーン企業(1〜4位はIT系企業)。2021年の企業価値ランキング5位。
本当のブレークスルー
「失われた30年」で日本全体の成長が鈍化する中、鶴岡サイエンスパーク拡大の推進力となったのは、新しいことへの挑戦。「『それって普通だよね?』は全否定を意味する」と冨田先生は語ります。
冨田氏 本当のブレークスルーは、最初は法螺に聞こえるものです。例えばSpiber代表の関山くんは2004年のピッチコンテストで最低点をつけられています。でも、8割の人が不可能だと思うものにチャレンジして、うまくいくからイノベーションなわけです。計画通りにやって計画通りにできたものはイノベーションとは言いません。
冨田先生は、福澤諭吉が残した言葉『異端妄説の譏(そしり)を恐るゝことなく、勇を振て我思ふ所の説を吐く可し』を引用し、次のように説明しました。
冨田氏 私なりに現代語訳すると、『流行や権威に迎合して点数を稼ぐ優等生ではなく、批判や失敗を恐れず勇気を持ってやれ』ということ。前例がないことへの挑戦は失敗する確率が高いから多くの人が避けようとしますが、人と違うことをやらない限り社会は進歩しません。そういう人材が必要だから福澤諭吉は慶應大学を作ったのだと私は理解しています。
脱・優等生
前出の鶴岡サイエンスパーク発ベンチャーに共通しているのは、審査員からのダメ出しや批判をスルーしてきたこと。まさに「脱優等生」と冨田先生は続けます。
冨田氏 日本に足りないのは「脱・優等生」です。日本は戦後一貫してテストで完璧な答えを出す優等生を量産してきましたが、テストは点数で序列が簡単につき、点数を取ることが最終目的になってしまう。実態を客観的に把握するツールとして数字を見るのは重要ですが、数字を上げることを目的にすると本質を見失います。そして、それは社会の衰退につながるのではないでしょうか
ビジネスも売上や時価総額など数字を意識するあまり、「何のためにビジネスをやっているのか」を忘れがちだと指摘。次の2社による調査を引用し、日本人の仕事に対する意欲への危機感をあらわにしました。
- 「『仕事に強い熱意を感じますか?』という質問にYESと答えた日本人はわずか5%。145カ国中最下位。」(米ギャラップ社「グローバル職場環境調査」2023年発表)
- 「仕事への情熱がなく、生活のためにやむを得ず仕事をしている『静かな退職者』と言われる人の割合は44.5%に達し、しかも20代が一番多い。」(マイナビ社「正社員の静かな退職に関する調査2025年」)
そこで冨田先生が着目するのが、高度経済成長期を支えた世代です。本田宗一郎や松下幸之助といった腹の座った脱優等生がトップにいて、それを支える副社長や事務局長に優等生がいる。このコンビネーションこそ完璧であり、「優等生だけで会社を回すようになった結果が今の日本の現状ではないか」と警鐘を鳴らします。
冨田氏 優等生は組織にとって不可欠ですが、100人中100人が優等生では国力を落とします。こうした問題意識から1990年に慶應義塾大学が初めて導入したのが、書類と面接で人間的魅力を評価するAO入試。人間的魅力をアピールして人生を切り開いていく人が増えるほど、日本は良くなるのだと私は思います。
特に、日々進化するAIは優等生的な仕事において人間をはるかに上回ります。テストで完璧な答えを出すために日々努力するのは完全に時代遅れであり、感動や面白さといったAIが理解できない人間臭いことにこそ注力すべきではないでしょうか。
夢中は努力に勝る
最後に「夢中は努力に勝る」と参加者にメッセージを送り、講演を締めくくりました。
冨田氏 日本人は努力が得意であり、努力は不可欠です。ただし、努力だけでたどり着けるところは限られています。必要なのは、夢中になること。日本人は夢中になることが苦手な傾向がありますが、ぜひ努力を超え、夢中になりましょう。
トークセッション
トークセッションでは冨田先生、かながわサイエンスパーク(KSP)の水野雄介氏、京都リサーチパーク(KRP)から水野成容氏が登壇。KRPとKSPの紹介後、鶴岡サイエンスパークの歩みも交え、三者で各サイエンスパークの進展についてフリートークが行われました。
かながわサイエンスパーク/水野雄介氏
はじめに、サイエンスパークの機能と種類、KSP創設の経緯の説明後、KSPユーザーの2社(株式会社インクス、株式会社ちとせ研究所)について事例を紹介。一時的な成功だけではサイエンスパークの成果とは言えず、そこから派生する技術や人材、精神が承継されることで証明されます。優れた施設やサポートよりも、継続的なイノベーションを推進する機運とコミュニティの醸成が重要であるとまとめました。
京都リサーチパーク/水野成容氏
KRPが国内唯一加盟しているIASP(国際的なサイエンスパーク組織)によるサイエンスパークの定義を前提に、KRPの成り立ちやイノベーション創発の考え方を紹介。地区内の産業支援機関とのパートナーシップを強化し、KRPが重視してきたイノベーション創発活動を通じたスタートアップ支援の発展や海外との連携を図る中で、国内外の関係者との協力体制・相互作用を促進し、イノベーションを生む場としての役割を果たすアプローチを示しました。
サイエンスパークはどのようにして拡がったか
冨田氏 予算がついて、関係組織や委員会を作り、その枠組みの中で、ベンチャーへの入居を誘致していくという流れではなく、鶴岡の場合は、スタートアップの場所が足りなくなったからハードの整備等が進み、オンデマンドで展開していきました。5年後の鶴岡サイエンスパークは?という質問に対しては、いつも「わからない」と答えている。若い人がドキドキしながら取り組んでいる、わからないから面白いと考えています。
水野(成)氏 KRPも当初は東地区のみが開発計画として許可されました。状況を見て、次の開発の実施を判断するものでした。実績を見ながら拡げていくということ。マスタープラン通りに進めていたら、今のKRPはなかったと考えています。
冨田氏 サイエンスパークの主役は中に入っているベンチャーです。ベンチャーが活躍し、経済や地域を引っ張っていく。それなのに、今は各サイエンスパークが企業に声をかける状態になっている。これは順番が違うと思います。また、鶴岡の卒業生の中には資金調達面で有利だからと、東京に本社を置く人もいます。要するに、地方間競争やプレイヤーの奪い合いが起きているわけです。サイエンスパーク側は拡大が重要かもしれませんが、国全体から見れば無駄な疲弊。そこがポイントだと思います。
水野(成)氏 優秀なスタートアップをサイエンスパークが作れるかというと、それは難しい。要するに優秀なスタートアップに選ばれるサイエンスパークであることが大事だと思います。好きなことを地道にやりたい、スケールしたいなど、スタートアップのタイプに合わせた支援を各自が選択できるような多様性が必要かなと思います。
水野(雄)氏 サイエンスパーク側は数字が先立ってしまうこともありますが、チャレンジする人にとっては無意味な話です。寛大に迎え入れながら一緒に成長していく気概を共有する必要があると思います。
サイエンスパーク関連企業ピッチ
後半では全国5カ所のサイエンスパークから推薦された技術革新企業によるピッチが行われました。
サンシード株式会社 代表取締役 桃井秀幸氏(けいはんな推薦)
サンシードは射出成形を中心としたプラスチック製品の企画・開発・製造を行っています。独自技術「Roll to IML」とDXにより、同社製造のプラスチック容器1個あたりのプラスチック使用量を33%削減。2023年に経済産業省が主催する「第9回ものづくり日本大賞」を受賞しました。
桃井氏 当社は過去10年間でDXを進め、従業員数はそのまま、売上高は3倍になりました。人がいなくても動く工場を作らないと、ベタな製造業はやっていけない時代です。皆さんの日常生活を支える製造業が抱える、人を雇えない苦労を解決する方法を今後は提案していきたいと思います
同社を推薦したけいはんな 東 修司氏 は、サンシード社はけいはんな学研都市の企業にノウハウを共有したり、学生と取り組みを行ったり、若手からベテランまで幅広く採用を行ったりと、まさにボーダーを取り払った活動を実践している企業であると説明しました。また、東氏は桃井氏について、インキュベータと企業の心のボーダーを取り払う頼りにできる存在、バディであると桃井氏の魅力も交えて紹介しました。
Veneno Technologies株式会社 CEO&経営企画室 久野孝稔氏(つくば研究支援センター推薦)
Veneno Technologiesは、自然が進化の中で生み出した強力で安全なペプチドを量産するプラットフォーム技術を世界で初めて実現。DRPによるペプチド医薬品開発および農薬成分の開発をミッションに掲げています。
久野氏 製薬会社や化学会社など、多くの方から興味を持っていただいています。それにより新しい研究開発が生まれることで、創薬や安全な農薬の生産、アニマルヘルス、培養肉の培地など、さまざまな分野に踏み込んでいけると考えます。最終的にはグローバルカンパニーとして、世界中にDRPプラットフォームを提案していきたいと思います。
同社を推薦したつくば研究支援センター早瀬 昌輝氏は、Veneno Technologies社がつくばにおける特徴的なスタートアップの一つであり、地域社会から大きな期待を寄せられている企業であると述べました。また、久野氏が再びつくばに戻り経営に参画することで、同社の成長が一層加速すると強調しました。さらに、このプラットフォーム技術は非常に応用範囲が広いため、多くの企業と連携していただきたいと伝えました。
株式会社協同インターナショナル 代表取締役 池田謙伸氏(新川崎創造のもり&かながわサイエンスパーク推薦)
協同インターナショナルでは「今まで世の中になかったモノ」「真似されないモノ」「自分で価値が付けられるモノ」をテーマに、オンリーワンの製品を通してさまざまな課題解決策を提案してきました。酪農畜産機械の輸入からはじまり、現在は機械、電子、食品、ライフサイエンスの4つの事業を展開しています。
池田氏 全く関係のない4つの事業を持っていることから、社内での異分野協同開発ができます。半導体製造技術を応用してバイオチップを作ったり、酪農畜産と食品、ライフサイエンスを連携し、豚肉のDNAのトレーサビリティサービスを作ったりと、5年後にどのような会社になっているか分からないことを楽しんでいます。
新川崎創造のもりの荻野真一氏は、協同インターナショナル社について、同社が他の入居企業や大学の先生と共に積極的に事業展開していること、また池田氏が新川崎地区ネットワーク協議会の会長を務めていることを紹介しました。さらに、これらの活動を通じて同社が地域の顔として頼りにされる存在であると評価し、今後もサイエンスパークの活動への協力を期待したいと述べました。
フェルメクテス株式会社 代表取締役 大橋由明氏(鶴岡サイエンスパーク推薦)
次世代のタンパク源として納豆菌に着目し、納豆菌の培養技術、育種技術を使って新しい食品を開発するフェルメクテス。地球の人口増によるタンパク質不足に対応すべく、安心安全でおいしいタンパク質源として納豆菌粉を提案しています。
大橋氏 納豆菌粉はタンパク質が73.8%、炭水化物が10.2%と非常に高タンパク。さらに納豆菌は増殖速度が早く、発酵タンクで培養でき、生産効率が良いという特徴があります。今年6月には、新設された新しい食産業・食文化創造に取り組む研究組織『鶴岡ガストロノミックイノベーション研究所』に当社も参加しました。山形から新しい食文化を作っていきたいと思います。
鶴岡サイエンスパークの坂井明子氏は、フェルメクテス社が意欲的な研究人材に人気を集めている理由として、大橋氏の人間的魅力が大きいことを挙げました。続いて、大橋氏が鶴岡市のまちづくりを企画する総合計画審議会の委員を務めており、地域からの信頼も厚い存在であること、ガストロノミックイノベーション計画を通じて、大学や関連企業を幅広く巻き込んだ新たな展開が期待されていると語りました。
株式会社ピューズ 代表取締役副社長 宮下泉氏(京都リサーチパーク推薦)
ピューズはハイブリッド・電気自動車に必要なバッテリパックやモータなどの要素部品の提供や、開発支援などの技術サービスを提供するエンジニアリング会社。神奈川県に本社を置き、京都では「ピューズイノベーションセンター京都」として研究活動を行っています。
宮下氏 電動モビリティを使って豊かな社会を実現するのが当社の目標です。これまでは電気自動車の受託開発や製造のお手伝いをしてきましたが、今後は当社のコア技術である電動車両を使ったサービス提供を検討しています。その可能性を探って事業を目指すのが京都の役割。車両を各種用途に適合させるのは最も得意としていることですので、さまざまな問題解決に寄与したいと考えています。
同社を推薦した京都リサーチパークの金谷研一氏は、ピューズ社が試作EV車を展示品としてご提供いただくなど、KRP地区内のイベントを盛り上げていただける企業であると紹介しました。さらに、宮下氏はKRP地区に拠点を構えるメリットについて、普段は接点のない企業との交流を通じて新しいアイデアが得られ、若手社員にとっても積極的な異文化交流の場が得られたことは大きいと述べました。また、金谷氏は同社が実際に地区内企業との協業につながっていることを補足しました。
閉会挨拶 京都リサーチパーク株式会社 代表取締役社長 浅野貢男
全国各地のサイエンスパークから技術革新企業が一堂に会した「サイエンスパークサミット2025」。京都リサーチパーク代表の浅野貢男は「産業界、アカデミア、行政と関係が深いサインスパークだからやれることはいろいろあると再認識した。ネットワークをしっかり強く持つことでビジネスの発展につなげていきたい」という抱負で最後を締めくくりました。
ご来場およびオンライン参加の皆さま、登壇企業の皆さま、多くの関係者の皆さま、ありがとうございました。
開催プログラム
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日時 |
プログラム |
登壇者 |
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14:00~14:05 |
開会挨拶 |
株式会社ケイエスピー |
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14:05~14:50 |
基調講演 |
一般社団法人 鶴岡サイエンスパーク/慶應義塾大学 名誉教授 |
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14:50~15:15 |
トークセッション/Q&A |
一般社団法人 鶴岡サイエンスパーク/慶應義塾大学 名誉教授 かながわサイエンスパーク 京都リサーチパーク |
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15:15~15:30 |
休憩/併設展 |
京都試作ネットによる技術展示 |
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15:30~17:10 |
サイエンスパーク関連企業ピッチ |
サンシード株式会社 <けいはんな> Veneno Technologies株式会社 <つくば研究支援センター> 株式会社協同インターナショナル <新川崎創造のもり&かながわサイエンスパーク> フェルメクテス株式会社 <鶴岡サイエンスパーク> 株式会社ピューズ <京都リサーチパーク> |
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17:10~17:15 |
閉会挨拶 |
京都リサーチパーク株式会社 |
|
17:30~18:30 |
全体ネットワーキング |
主催
株式会社ケイエスピー 京都リサーチパーク株式会社
後援
京都府 京都市 ASTEM 京都産業21 神奈川県 川崎市 KISTEC 神奈川県立川崎図書館
協賛
飛島建設株式会社 株式会社ミクロスソフトウエア
協力
株式会社リヨンド 日本サイエンスパーク協会(JASPA)