【第3期卒業生:作野充さん】家族の悩みに寄り添うサービスを通じて、誰もがお互いを頼れる社会を目指す
家族のあらゆる問題に寄り添い続ける。そんな思いのもと、オンライン伴走支援サービス「チルディッシュ」を運営する株式会社OhMyFamily。共同代表を務める作野充さんは、このサービスの前身となる事業を大学在学中に立ち上げ、その年のCOM-PJに第3期生として参加しました。プログラムで得た経験が、現在の事業にどうつながっているのか、お話を伺いました。
家族の問題にアプローチするため、同級生とともに起業
3歳のときにサッカーを始め、プロ選手を志して練習に打ち込んできた作野さん。しかし、大学2年生のときの怪我でその道が閉ざされてしまいます。「ずっとサッカーしかしてこなかった。プロになれないならもう生きている意味がない」。一時はそこまで思い詰めていたものの、自分の人生を改めて振り返る中で、起業という新たな目標を見つけたと言います。
「もともとプロ選手を目指したきっかけは、小さい頃に幼馴染の家族が病気で亡くなったことでした。その幼馴染たちが、周囲に心配をかけまいと、学校では悲しみを見せずに元気に振る舞っている姿を見て、自分はスポーツの力で周りの人たちに勇気を与えられる存在になりたいと考えるようになったんです。その後の人生でも、自殺してしまった同級生、失踪した仲間、窃盗を繰り返す友人など、家庭環境の問題が根底にあるケースを何度も目にしていて。それらを思い返す中で、『家族』をテーマに自分の手で社会にアクションを起こしたいという気持ちが芽生えました」

「家族」を軸に起業を考えるにあたり、作野さんがもう一つのテーマとしたのは「食」でした。立命館大学の食マネジメント学部に在籍していたこと、親戚が島根で農家を営んでいること、サッカーをする上で栄養面を意識してきたことなどが重なり、「食を入り口に、家族の問題にアプローチしていきたい」と事業の方向性を固めていきました。
「当時は会う人会う人に、ひたすら起業の話をしていました。そこで93人目に出会ったのが、大学在学中に一緒に起業した柳陽菜です。語学の授業で知り合って起業の話をしたところ『面白そう!私も一緒にやりたい』と言ってくれて、すぐに意気投合しました」
作野さんと柳さんは、学内のビジネスコンテストに挑戦し、最優秀賞を獲得。その賞金を元手にして、2022年3月に株式会社FoodFulを立ち上げました。

課題を深く掘り下げ、本質に向き合い続けた3ヶ月
株式会社FoodFulの創業当初は、「保護者の食育への意識が特に高まる、離乳食の時期にアプローチしよう」と、ベビーフードを製造・販売する事業の立ち上げを目指していました。しかし、子育て世代へのヒアリングを重ねていく中で、「ベビーフードは良いものがすでに世の中にたくさんある。その選択肢を増やすよりも、保護者が抱える離乳食の悩みや困りごとを相談できる場のほうが必要ではないか」と考えるように。そこで、管理栄養士や保育士といった専門家にオンラインで相談できるサービス「チルディッシュ」を立ち上げることにしました。
「サービスのプロトタイプができて、これからどうやって伸ばしていこうかと考えていた頃に、COM-PJの存在を知りました。京都信用金庫の共創施設『QUESTION』に行ったら、COM-PJを運営するtalikiやKRPのことを教えてもらって。当時は起業したばかりで何もわからない状態だったので、とにかく事業について話せる人、頼れる人がほしくて、すぐに参加を決めました」

COM-PJで作野さんのメンターを担当したのは、taliki取締役の原田岳さん。原田さんから「もっといろんな人の話を聞いて、課題を深掘りしたほうがいい」と助言をもらった作野さんは、夜行バスで全国を巡って保育園や幼稚園を訪問したり、子育てコミュニティに参加したりして、積極的にヒアリングを行いました。しかし、プログラムの3ヶ月間では思うような成果を出せなかったと、少し悔しそうに当時を振り返ります。
「事業を成長させようと思って参加したのに、『それよりもまず、顕在化されていない課題をもっと深掘りすべき』という気付きを得ていく段階でプログラム期間が終わってしまって。当時は後悔しかなかったです。他の参加者と比べると、自分は何もできなかったなっていう感覚でした」
ただし、悔いが残っただけではありません。今思い返してみると、COM-PJの3ヶ月は事業にとっても自分自身にとっても大切な時間だったと、作野さんは笑顔で続けます。
「当時の自分は、サービスを作ろう、事業を成長させようという方向に走りすぎていた気がします。むしろストップしてくれて良かったのかもしれません。COM-PJの期間に改めて本質に立ち返る機会を持てたことが、今の自分につながっていると思います」

KRPの運営メンバーや取材チームと共にCOM-PJの資料を振り返り、「とにかく一生懸命でしたね。考えていることは当時も今もあまり変わらないかも」と作野さん
COM-PJを終えた後も、いくつかの起業家支援プログラムに参加してきた作野さんに、他のプログラムとCOM-PJの違いについて尋ねると、「本質的な問いかけ」と「心理的安全性の高さ」の2つを挙げてくれました。
「他のプログラムではどうしても、事業成長を目的としたコミュニケーションがメインになります。でもCOM-PJでは『そもそもなぜ起業するのか』『自分が取り組んでいる社会課題が解決した先にどんな未来があるのか』など、本質的な問いを投げかけられる機会が多くて。COM-PJというコミュニティの心理的安全性がとても高いからこそ、他の参加者や運営の方たちに自分の内をさらけ出して話し合うことができたんだと思います」
本質と向き合う苦しさや事業が思うように進まないもどかしさはあったものの、「COM-PJ自体はすごく楽しかったです」と作野さん。一緒に過ごした同期のメンバーは、卒業から4年経った今でも事業の相談や進捗報告のやり取りをするような心強い仲間になっているそうです。

COM-PJの中間発表にて、同期メンバーと審査員のみなさんと撮影した一枚(提供:作野充さん)
事業を再構築してリスタート。誰もが助け合える社会を目指して
COM-PJを終えた後、株式会社FoodFul共同創業者の柳さんとは別々の道へ。作野さんは別のプログラムで出会った加治木基洋さんと共に、2025年6月に株式会社OhMyFamilyを設立しました。
加治木さんと2人で事業を再構築し、COM-PJの時期には主に離乳食に特化して提供していたサービス「チルディッシュ」を、家族のあらゆる問題に寄り添うオンライン伴走支援サービスとしてアップデート。現在は、子育て・介護・夫婦関係・義実家との関係・キャリアなど、さまざまな相談にLINEで24時間対応しています。相談相手となる「バディ」は、保育士・助産師・管理栄養士・保健師・歯科衛生士といった資格を持つ専門家たちですが、あくまでその人自身の経験や価値観を重視してマッチングを行います。
「国や自治体、企業による既存の支援は、縦割りになっていることが多くて。例えば、子育てと介護で相談窓口は異なるし、子どもの年齢によってもサービスが分かれていますよね。でも実際は、問題を一つずつ切り分けるのは難しいし、家庭の中でいくつもの問題が複雑に積み重なっているケースが多いんです。だから僕たちは、あえて属性を絞らずに、家族に関するあらゆる悩みやモヤモヤに対して、1人のバディがしっかりと寄り添うことを大切にしています」

事業を通じて、「当たり前のように悩みをさらけ出せる社会」「お互いに助け合い、支え合う文化」をつくっていきたいと話す作野さん。そのために、自社サービスの成長だけを目標とするのではなく、自分たちの世界観に共感してくれる人たちを増やしていきたいと言います。
「僕たちに共感して応援してくれる人たちや企業に、『ファミリーメンバー』としてサポートしていただく制度をスタートしました。また、チルディッシュを企業の福利厚生として導入していただき、集まった匿名データを人事制度や経営戦略の見直しに活用していく取り組みも始まっています。今後は大学との連携やまちづくりへの活用なども考えていきたいですね」
※ファミリーメンバー制度とは:https://ohmyfamily.jp/Supporters
「家族」が幸福な人生形成につながる仕組みを共に目指し社会実装させていく仲間を募るための制度です。金銭的なご支援を元に、サービスの開発/普及や社会資源の効果を最大化し 家族の問題をみんなで解決するためのデータベースを構築するために活用されています。

「COM-PJの時期に一度立ち止まって自分自身や事業とじっくり向き合ったおかげで、活動の幅が広がっても本質は見失わないですね」と笑顔で語る作野さんは、自分が目指す社会の実現に向けて着実に歩みを進めています。最後に、COM-PJに興味を持つ人たちに温かいメッセージを送ってくれました。
「COM-PJには、自分がやりたいこと、解決したい課題に対して、ブレないようにサポートしてくれる人たちがいます。どんな小さな目標でも、真剣に話を聞いて伴走してくれます。だから、自信がない人、不安を抱えている人にこそ、参加をおすすめしたいですね」
