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【第5期卒業生:多和実月さん】子どもたちの口腔衛生をサポートするサービスで、お口の健康をもっと身近に

歯科医師・起業家・大学院生という三足のわらじで活動している多和実月さん。学生時代に予防歯科に関心を持ち、子どもたちの口腔衛生をサポートするサービス「お口のテーマパーク」をスタート。20245月に任意団体を法人化し、その年のCOM-PJ5期生として参加しました。プログラムで得た経験がどのように今につながっているのか、お話を伺いました。


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歯科に通う習慣のない人にもアプローチするために

むし歯を持つ子どもの数は、年々減少しています。しかし一方で、多数のむし歯によって食事などの日常生活に支障をきたす「口腔崩壊」という深刻な状態にある子どもたちも一定数います。収入や教育水準といった社会的背景によって生じる健康状態や医療アクセスの差、いわゆる「健康格差」が生まれているのです。

多和さんは「口腔ケアのすべてが家庭任せになっている社会構造」を課題と捉え、子どもたちの口腔衛生をサポートする「お口のテーマパーク」の活動に、歯学生時代から取り組んできました。多和さんが「予防歯科」という概念にふれたのは、学部3年生のときに参加した国際学会がきっかけでした。

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「それまで私は、クリニックで提供されるメンテナンス=予防歯科だと思っていました。でも世界では、そもそも歯科に通う習慣がない人にどうアプローチするのかを考えて、社会に働きかけている人たちがいると知りました。医療現場では結局、さまざまなハードルを越えてきた一部の人としか接点を持てません。そうじゃなくて、私ももっと裾野の広いアプローチをしていきたいと思ったんです」

 そこで多和さんは、子どもたちが遊びを通して口腔衛生を学べるイベントを、ショッピングセンターで開催することに。「思いに共感してくれる人と一緒にイベントを作りたい」と挑戦したクラウドファンディングでは、目標金額を大きく超える支援が集まりました。

 「お口の健康について気軽に楽しく学べる場があったらいいなと思っている人が、私以外にもこんなにたくさんいるんだ、と気づいて。学部6年生のときに任意団体『お口のテーマパーク』を設立し、活動を続けていくことにしました」

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(提供:株式会社I&Company)

病院実習や国家試験の勉強と並行して、各地でイベントを開催する忙しい日々を過ごしたのちに、無事に歯科医師の資格を取得。その後、歯科研修医としての1年間の生活を経て、「予防を通じて多くの人々の健康を守るためには、歯科以外の知識や視点も得る必要がある」と、公衆衛生分野を学ぶために20244月に京都大学大学院に入学しました。そして同じ年の5月には、任意団体を法人化し、株式会社I&Companyを設立しました。

さらに、この年の7月からCOM-PJ5期にも参加した多和さん。どうやってCOM-PJを知り、参加を決めたのでしょうか。

「社会起業家の方が書いた本を読んだのがきっかけで、社会起業に興味を持ちました。『社会起業 京都』で検索すると、talikiが主催するソーシャルカンファレンス『BEYOND』の情報が出てきて。それで、自分が参加する1年前のBEYONDに参加して、COM-PJ4期生の最終ピッチを見たんです。そのとき、舞台を見ながら直感的に『あっ私、来年ここにいそう』と思って(笑)。すぐに翌年のCOM-PJの応募日時を自分のスケジュールに書き込みました」

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自身が予感した通り、翌年のBEYONDの舞台に立った多和さん。ダンスを長年やっていたため、舞台でも全く緊張しないのだとか(提供:株式会社I&Company

直感に導かれるように、COM-PJ5期に応募した多和さんですが、当時は大学院生活も会社経営も始まったばかり。そんな時期に3ヶ月間のプログラムに参加するのは大変だったのでは?と尋ねると、「正直、最初はしんどかったです」と笑います。

「毎週KRPに来ること自体が、なかなか大変でした。メンターとの1on1も毎週あって、そのためのワークシートがあるんですが、私はあんまり書けていなくて。書こうとするとすごく時間がかかってしまうタイプなんです。でも、メンターの真野さんが『自分に合うやり方でいいと思いますよ』と言ってくださって、個性を見極めて伴走してくれたことが、とてもありがたかったです」

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多和さんのメンターを担当したKRPの真野智道さん

一度立ち止まって事業と向き合う、大切な時間に

他のアクセラレータープログラムにもいくつか参加した経験がある多和さんは、COM-PJの特徴や独自性について、どのように感じているのでしょうか。

「運営側も参加者も、社会課題に対する思いが強い方が多いですね。ビジネスに行き着くまでの、解決したい課題の解像度を上げるための時間がとても長かったです。『それって社会課題なんですか?』といった根本的な問いを投げかけられる機会が多くて、学生の頃からずっと取り組んできた私にとっては、そこまで立ち返って考えるのが当時はすごくもどかしくて。『なんで戻らなあかんの?』って思ったこともありました」

ただ、いったん立ち止まって考えたCOM-PJ3ヶ月間は、「今思えば大切な時間だった」と多和さんは笑顔で振り返ります。

「周りの皆さんが本気で課題に向き合っている人ばかりだったので、その熱量を感じて、自分もこのままじゃダメだなと。自分がやろうとしていることを、改めて考えて言語化し直していきました。本質的なところまで戻ることの大切さに気付けたのは、COM-PJで得た1番大きな学びだったのかもしれません。3ヶ月間、事業は恐ろしく進みませんでしたが(笑)」

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プログラム期間中、事業がなかなか進まないもどかしさに落ち込んでいた多和さんを支えてくれたのは、メンターの真野さんの「大きな階段を上るときほど、助走期間が長くなる」という言葉でした。

「私の場合は、コミュニティを運営しながら、チームメンバーと一緒に作っていく事業形態なので、やっぱり階段をぴょんぴょん上れるほうが、みんなも楽しいしモチベーションが上がるんですよ。逆に、私が階段を上れないとみんなの士気が下がってしまうので、それも辛くて。でも真野さんの言葉を聞いて、大きな階段の図を描いてメンバーに話をしたんです。『私は今この階段の下にいて、でもちゃんと上るから、少し待っていてください』って。それで自分自身も楽になったし、メンバーとも気持ちを共有できました」

「あのときはありがとうございました」と改めてお礼を言う多和さんに、「僕、そんないいこと言っていました?」と笑って応じる真野さん。メンターが一人ひとりにとことん寄り添って伴走する、COM-PJの温かい空気感が伝わってきます。

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2人で一緒に「お口のテーマパーク」の決めポーズである「お口ポーズ」をしてくれた多和さんと真野さん

「もう1つ、COM-PJの特徴だと思うのは『人』が良いところ。親身になってくださる運営の方々はもちろん、参加者の皆さんも良い方ばかり。それぞれが取り組む領域は違っても、お互いに興味関心を持ってフィードバックし合える大切な仲間ができました。それから、運営の方が引き合わせてくれる外部メンターの方たちの存在もとても大きくて、COM-PJから1年ほど経った今でもお世話になっている方が何人もいます。プログラム期間だけでは終わらないつながりができたことは本当に良かったなと思います」

リアルとオンラインを掛け合わせ、より多くの人に届ける

COM-PJを経て、現在は起業2年目、修士2年生として、さらに精力的に活動している多和さんの現在の目標は、歯科のマーケットプレイスを作ること。歯科業界では、メーカーから商社、ディーラー、歯科医院などを経て、商品を実際に使う人の手に渡るという流通構造が一般的ですが、多和さんは顧客に1番近い場所として独自のマーケットプレイスを作ろうとしています。

「今までの流通構造では、顧客とメーカーの距離が遠かったので、違うチャンネルを私たちが作れないかと考えています。これまではリアルでのイベントを中心に活動していましたが、この秋からはオンライン上でもグッズの販売などを行っていく予定です。最終的には、その人の口腔ケアの習慣や検診のデータを蓄積して、次に歯科医院に相談するときに活用できるような仕組みを作れたらと思っています」

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遊びを通して歯磨きの大切さやコツが学べるワークショップ「お口のこうさく」(提供:株式会社I&Company

オンラインでの展開に注力する一方で、「リアルのイベントも引き続き大事にしていきたい」と多和さんは続けます。

「最初の接点は、やっぱりリアルで持ちたいなと思っていて。私たちが行うイベントだけだと数に限界があるので、地域の医療機関や保育・教育機関との連携にも力を入れています。今年の夏から、私たちが小学校で授業をさせていただく活動を始めました。継続的に実施していくために、ゆくゆくは学校の先生が自分たちで口腔衛生の授業ができるような仕組みを作っていきたいです」

そもそも歯科に通う習慣がない人にも届くように、裾野の広いアプローチを。その思いで活動の幅を広げてきた多和さんの視線の先には、日本だけでなく世界中の人々がいます。

「任意団体の頃から一貫して、『お口のテーマパークを日本全国、そして世界へ』という目標を掲げています。日本にも健康格差によって取り残されている子どもたちがいるという事実がありますが、そもそも医療資源が足りていない国、若年層が多い国では、口腔衛生の課題はより深刻です。まずは日本でモデルを作ってから、将来的には海外とのパートナーシップを結んで、各地で展開していきたいと思っています」

最後に、COM-PJへの参加を考えている人たちに向けてメッセージをお願いすると、自身を振り返りながらこんなふうに話してくれました。

「私のように最終ピッチを見て『この舞台に立ちたい』と思う人もいれば、『私にはまだできない。来年にしようかな』と参加をためらう人もいるかもしれません。でも、COM-PJは参加者一人ひとりが持っている思いをすごく大切にしてくれるので、『社会課題にアプローチしたい。その1つの手段として起業を考えている』といった本当に初期の段階の人にこそ、ぜひ参加してもらいたいです」

執筆:藤原 朋
撮影:中田 絢子
編集:北川 由依


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株式会社I&Company•多和実月

広島大学在学中に「お口の健康をもっと身近に」という想いから任意団体お口のテーマパークを設立し、学生主体で地域住民向けの啓発活動を行う。卒業後、歯科医師として勤務した後、株式会社I&Companyを創業。京都大学大学院医学研究科に在学して研究活動も行う。
任意団体の運営ノウハウを引き継いだコミュニティ事業、リアルでのタッチポイントを作るイベント事業の他、現在デジタルツールの開発に着手。歯科から予防医療のインフラ構築を目指す。
https://okuchinothemepark.com

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