【第3期卒業生:鈴木粋さん】創業者とつながり、奨学金の新たな仕組みづくりを目指す
大学在学中にCOM-PJに参加し、翌年には自身が代表を務める株式会社モクジヤを設立した鈴木粋さん。創業者の半生をグラフィックレコーディングにして提供する「モクジヤレコード」などのサービスを手がけながら、多様な創業者の叡智を後世に残すための創業者データベース事業を展開しています。COM-PJではどのような事業に取り組み、そこで得た経験がどのように今につながっているのか、お話を伺いました。
初めてのアクセラ、初めての事業づくり
鈴木さんが最初に起業を意識したのは、中学3年生のとき。世界の貧困問題を取り上げた授業をきっかけに、「自分が何とかしないと」「いつか自分で基金のようなものを立ち上げたい」と漠然と考えていたのが始まりだったと言います。
その後、大学在学中に、talikiでインターンシップをしていた同級生から聞いてCOM-PJの存在を知り、2022年に3期生として参加することに。当時、友人と二人で事業の立ち上げを目指して準備を進めていたものの、アクセラレータープログラムに挑戦するのは全く初めてでした。「それまではアクセラの存在も知らなかったんですよ。アセロラとの違いもわからないくらいで」と鈴木さんは屈託なく笑います。
鈴木さんがCOM-PJで取り組んだのは、奨学金図鑑「モクジヤスカラビュー」(旧:シュッドリスト)という、日本に6000以上も存在する給付型の奨学金制度を紹介するサービスです。
「行政や財団、企業が展開する給付型奨学金がたくさんあるんですけど、情報が複雑でわかりにくいんですよ。だから、すべての奨学金制度をレーダーチャートに落とし込んで、ビジュアルで比較検討できるようにしたいと考えました」
最終発表の「BEYOND」では、奨学金図鑑についてピッチを行い、COM-PJ賞を受賞した鈴木さん。しかし、そこまでの道のりは決して平坦だったわけではありません。実は、COM-PJに参加した頃に事業化を目指していたのは、全く別のサービスでした。
現在無償で公開されている奨学金図鑑「モクジヤスカラビュー」
鈴木さんが当初考えていたのは、「大学の教科書を時間で売る」サービス。回答に時間のかかるアンケートに学生が答える代わりに、企業が教科書代を支援する仕組みづくりを目指していました。
鈴木さんは、自身が大学に入学した頃、教科書代が高額で買い揃えるのが大変だった経験をもとに、このアイデアを思い付いたそうです。しかし、いざ学生たちにヒアリングをしてみると、結果は予想とは違っていました。
「みんな教科書のことでそんなに困っていなかったんですよね。『どうせ使わないから買わない』という人や、先輩からもらったり、フリマアプリで買ったりする人が多かったんです」
一方、「学生生活の中での困りごとは?」とヒアリングする中で、新たな課題が浮かび上がってきました。
「奨学金のことで困っているという声がたくさんあって。『将来、返していくのが不安』『奨学金を活用したいけど、情報が多すぎるし、仕組みが難しくてよくわからない』といった声を聞くうちに、この課題に対して何かできないかと考えはじめました」
時期は、COM-PJの中間発表の直前。当初の「教科書を時間で売る」サービスでは事業が成り立たないと気づき、「本当にしんどかったです。5kgくらい痩せました」と当時を振り返るほど思い悩んでいた鈴木さんは、COM-PJのある講義をきっかけに、これまで準備してきたプランを手放して方向転換する決意をします。
「介護のスキルシェアサービス『Sketter(スケッター)』を展開する鈴木亮平さんの講義で、鈴木さん自身は介護現場での実体験はなかったと聞いたのがきっかけです。それまでは、自分が奨学金を借りているわけではないし、この課題に踏み込んでいいのかと迷っていたんです。でも鈴木さんの話を聞いて、『当事者じゃなくても胸を張って挑戦していいんや』と思えるようになりました」
「起業家」のつながりではなく「友達」になれた
COM-PJの3ヶ月間を改めて振り返ってみて、参加して良かった点について尋ねると、鈴木さんはまず「実践的な講義」を挙げます。
「事業を進めるためのフレームワークを実践で学べたのが良かったです。今までは本を読んでいても、そのフレームワークが現実のサービスにどう反映されたのかがよくわからなくて。でもCOM-PJでは先輩起業家の人たちの講義で、フレームワークを具体的にどう使っているのかが見えるので、すごくイメージしやすかったです。講義で紹介してもらったヒアリングシートなどは、今でもカスタマイズしながら使っています」
また、参加者同士の関わりも自分にとって大きかったと続けます。
「アクセラに参加するのは初めてだったので、『同世代で事業を立ち上げようとしている人やすでに起業している人がこんなにいるんや』と新鮮な驚きがありました。北海道や新潟など遠方から参加している人もいて、とても刺激を受けましたね。情報交換をしたり、ごはんに行ったりもよくしましたし、すごく助けてもらったなと思います」
COM-PJを経験した後は、他のプログラムにも積極的に参加するようになった鈴木さん。さまざまな経験を経て、改めてCOM-PJの独自性を感じることはあったのでしょうか。
「COM-PJは、参加者もメンターの方たちも含めて、長く付き合いが続いている人がすごく多いですね。プログラムを終えて2年くらい経つんですけど、今でも人を紹介し合ったり、イベントに呼んだり呼んでもらったり。ただ連絡を取っているだけじゃなくて、実際の行動を伴うやり取りが多いです」
3ヶ月でそこまでの関係性を築くことができた理由は?と尋ねると、「3ヶ月っていうのが信じられないほど濃くて。2年くらいやったかな?と思うくらいです」と鈴木さんは笑顔で答えます。
「3ヶ月間、濃い時間を過ごしたからこそ、今でも続いているのかなと思いますね。COM-PJの期間中に一度バーベキューをしたんですけど、そこでは事業以外の話もして、お互いの違う一面も知ることができて。起業家としてつながったというより、ちゃんと友達になれたのが良かったなと思います」
鈴木さんのメンターを務めたKRPの杉山智織さんは、「COM-PJは『GIVERであろう』を一つの合言葉にしていますが、鈴木さんは3期生の中でもトップオブトップのGIVER。Slackでも誰よりも反応してくれていた」と当時を振り返ります。
メンターとして鈴木さんの成長を見守ってきた杉山さん(右)
杉山さんの言葉を聞いて、「もともと地域でも自分から挨拶するタイプだったから」と笑いつつ、鈴木さんはこう話します。
「挨拶、コメント、スタンプなど、自分がしてもらったらうれしいなと思うことはしていましたね。あとは、みんなの投稿に反応しているだけでは自信を失ってしまいそうだったので、自分が読んだ本とか得た知識はなるべくアウトプットして、受けるばっかりにならないように心がけました」
こうした日々のやり取りから、COM-PJが「GIVEし合うコミュニティ」であることが伝わってきます。
創業者データベースを構築し、次のステージへ
COM-PJを経て、奨学金図鑑のサービスを立ち上げた鈴木さんは、その後さらに沖縄県久米島町の奨学金制度設計アドバイザーも経験。奨学金に関する知見を深めていく中で、新たな課題にぶつかります。
「奨学金制度を持っている財団などの多くは、受給者の顔が見えていないし、実際に奨学金がどのように使われているかも把握できていない。財団への還元もできていないという現状に気づきました。奨学金図鑑でわかりやすく情報提供をするだけでは、この課題は解決しない。もっとやるべきことがあるはずだと思ったんです」
そこで、鈴木さんが現在構想しているのは、奨学金や支援金の新しいプラットフォームづくりです。
「既存の奨学金は、創業者の方が作った財団がほとんどです。だから、創業者の色に合わせて、例えばその人が貢献してきた業界に還元されるような、財団にとってもメリットがある奨学金の仕組みを作れないかと考えています」
もともと「創業者オタク」を自称するほど、さまざまな創業者を調べて掘り下げるのが好きだったという鈴木さん。現在は、「創業者データベース」の研究開発を事業の軸として、創業者の半生をグラフィックレコーディングにして提供する「モジクヤレコード」の提供や、Webメディア運営、動画配信、イベント企画・運営といった発信活動をしながら、将来的には奨学金のプラットフォームづくりを目指しています。
「今は多くの創業者とつながることを第一の目標に、そのきっかけづくりとしてモクジヤレコードのサービスを提供しています。将来はプラットフォームの中で一緒にやっていく人たちに、今少しずつ出会えているのかなと思いますね。今は発信しながら創業者データベースを厚くしていって、次にプラットフォームを作る段階では資金調達も考えています」
いきいきと楽しそうに、着実に歩みを進めている鈴木さんに、これからCOM-PJに参加したい人へのメッセージをお願いしました。
「アクセラに参加する人は、やっぱり自分の事業に向き合うのが最優先になるとは思います。でも、参加者の人たちをよく観察していたことも、今の自分の糧になっていると感じていて。『事業をする上で、こんな心持ちが大切なんだな』『こういう状況に陥ったときはこう考えればいいんだな』など、後で役に立つことはたくさんあるはずです。COM-PJは合宿もありますし、交流の機会をぜひ生かしてほしいですね」
執筆:藤原 朋
撮影:中田 絢子
編集:北川 由依
株式会社モクジヤ・鈴木粋
2000年、京都に生まれる。創業者オタク。2023年8月、株式会社モクジヤを設立。創業者向けのサービスとして、創業者ご自身の半生をグラフィックレコーディングにして提供。そのグラレコ制作の過程で得られた創業者のロールモデルを「キャリアへの考え方」「お金/時間の使い方」「挑む心持ち」の三軸で分析し、創業者データベースを作成中。それらのデータを切り出して、創業者オタクサイト「FOUNDER’s FANPAGE(ファウンダーズ・ファンページ)」にて発信も行う。