【第4期卒業生:土井実桜さん】食の豊かさにふれられる機会を広げるため、新規事業の立ち上げに挑戦
COM-PJの対象者は、創業2年未満の起業家や起業準備中の方ですが、中にはスタートアップ企業のNo.2の立場で新規事業にチャレンジする参加者もいます。株式会社omochiの土井実桜さんもその1人。COM-PJ1期生の土井仁吾さんが設立したomochiに、大学在学中から関わっていた実桜さんは、大学を卒業した2023年に4期生として参加しました。プログラムで得た経験が、事業づくりや自身の成長にどうつながったのか、お話を伺いました。
経営者の目線に近づくためのチャレンジ
大学在学中からスローフードに関心を持ち、間借り出店や食育ワークショップなど食にまつわる活動をしていた実桜さん。「食の豊かさにふれられる場所・時間・人をひろげる」ことを目指してomochiを設立した仁吾さんと出会い、事業に携わりはじめたのは大学4年生の春でした。卒業と同時に管理栄養士の資格を取得し、のちに仁吾さんと結婚。現在は夫婦でomochiを経営しています。
実桜さんがCOM-PJに参加したのは、大学を卒業して正式にomochiにジョインした2023年。仁吾さんが1期生だったこともあり、プログラムの存在は以前から知っていたそうですが、なぜこのタイミングで挑戦しようと思ったのでしょうか。
「きっかけは、COM-PJの3期生だった株式会社ブイクック 取締役/COOの吉川夕葉さんの参加レポートでした。『No.2として代表と同じ目線で考えることが日々求められるけれど、それに応えられずに悩んでいた。COM-PJに参加して事業づくりに対する理解や判断力が高まった』という内容で。私もまさに同じことで悩んでいたので、挑戦してみたいと思いました」
omochiのWebサイト
アクセラレータープログラムに参加するのは全く初めて。事業づくりを学んだ経験はなく、「代表との知識や実力の差を感じて、どうすれば追いつけるのか知りたくて。でも何がわからないのかもわからない状態でした」と当時を振り返ります。
COM-PJに参加するにあたり、実桜さんが目標として定めたのは、自分で新規事業を1つ作ること。それまでのomochiでは、教育機関での授業、学外でのイベントやワークショップなど、子ども向けの事業が中心だったため、大人にアプローチできるような事業を作ろうと考えました。
「プログラムの参加当初に想定していたのは、飲食店の紹介サービスです。金額や立地といったわかりやすい指標ではなく、お店の雰囲気や作り手のこだわりを知って飲食店に出会えるようなサービスを作りたいと考えていました。でも、自分がやりたいという気持ちをベースにして生まれたアイデアだったので、進めていくうちに『誰かの困りごとを解決できているのだろうか』と違和感を持つようになって。途中で迷子になってしまいました」
進むべき方向を見失いそうになったとき、支えになったのはメンターや参加者との対話でした。
「いろんな人と話して、『なぜその事業をやりたいの?』『そもそも食の豊かさって何なの?』とたくさんの問いを投げかけてもらったことで、思考が深まり、整理されていきました。そこで、『食の豊かさにふれられる機会を広げたい』というomochiのビジョンに立ち返って、アプローチを考え直すことにしたんです。ヒアリング方法も変更し、『毎日3食食べているか』『どれくらいの頻度で自炊をしているか』など、食に関して幅広く調査してみました」
新たなヒアリングから見えてきたのは、「一食一食を大切にしたいけれど、仕事が忙しくて食事が疎かになってしまう」という人たちの存在。そして実桜さんは、この人たちの食生活の1つの傾向に注目しました。
「ごはんを炊いてお肉を焼くなど、主食と主菜は用意できる。でもそれだけでは寂しいから、買って来たサラダやカット野菜を添えて、何とか品数を増やそうとする。そんな傾向が見えたんです。じゃあ気軽にもう一品増やせるようなサービスがあればいいんじゃないかと考えて、有機野菜を使った副菜の宅食サービスを思いつきました」
中間発表後に大きく方向転換した実桜さんは、最終発表の「BEYOND」でこの事業についてピッチを行い、COM-PJ賞を受賞しました。
意思決定を積み重ねた経験が、成長につながった
実桜さんは、プログラムの3ヶ月間を通して、丁寧に仮説検証を繰り返したことで、事業づくりの基礎となる力が身に付いたと語ります。特に、自分自身を大きく変えてくれたのは、メンターとの1on1でした。
「初めは、自分が困っていることを相談して、メンターから答えをもらおうとしていたんです。その頃は、なかなか思うように進まないのがしんどくて、でもどうしたら良いのかわからなくて。そんなとき、メンターの方から『答えを求めるのではなく、自分の意志でやってみたことを報告する場にしたら?』とアドバイスをもらいました。すぐに実行してみたら、自分で意思決定して行動し、そのフィードバックを受けられるようになったので、自信を持って進められるようになりました」
1on1をうまく活用できるようになったことで事業が前進し、何度も意思決定を積み重ねた経験が自己成長にもつながったと笑顔で振り返ります。また、先輩起業家や支援事業者による実践的な講義や、参加者同士の関わりも大きな支えになったそうです。
「事業づくりを進める中で何度も課題に直面しましたが、『今まさに悩んでいる』というタイミングで、その課題を解決してくれるような講義があるんです。プログラムがしっかりと設計されているんだなと思いましたし、毎回すごく救われました。講師の方も参加者も、いろいろなジャンルの人たちが集まっているので、多様な視点で意見やアドバイスをいただけたのもありがたかったですね。対面やSlack上でのやり取りから、たくさんのヒントをもらいました」
COM-PJというコミュニティに関わる上で、実桜さんが何か意識したことや心がけていたことはあるのでしょうか。
「私はパートナーと2人で会社を経営していますが、1人で起業して1人で戦っている参加者の方も多かったので、やっぱりみんな不安になるときがあるんですよね。でも私は事業づくりの経験や知識がないから、なかなかうまくアドバイスできなくて。じゃあ私に何ができるかなと考えて、『めっちゃいいと思うよ』『大丈夫、大丈夫!』と、とにかくたくさん励ましていました(笑)」
最終ピッチを終えた後、「いいよいいよって、いつも言ってくれてありがとう」と声をかけてくれた人もいたのだとか。COM-PJは「GIVEしあうコミュニティ」を目指していますが、単に知識や経験を共有するだけでなく、お互いを認め合って励まし合うことも、「GIVE」の1つの形なのでしょう。
試行錯誤しながら、まずは地元で一歩ずつ
「代表の目線に近づきたい」とCOM-PJに参加した実桜さんは、プログラムの前と後の自分自身の変化をどのように捉えているのでしょうか。
「プログラム前は自分に自信がなくて、不安ばかりでした。代表の背中を追いかけて、コピーになろうとしていた気がします。でも今では、それぞれ持っている強みが違うと認識できて、対等な立場で話せるようになりました。COM-PJを通して、自分自身とも向き合えたし、代表とも向き合えた。プログラム中に2人で何時間も話し合って、改めて会社のビジョンを見つめ直せたのも良かったと思います」
COM-PJで取り組んだ大人向けの新規事業は、少しずつ形を変えつつ現在も進行中。最終発表の「BEYOND」で審査員からもらったアドバイスも参考にしながら、試行錯誤を重ねています。
最終ピッチでは、セントラルキッチンで製造して全国に届ける形を想定していましたが、「地産地消に力を入れている人たちと組んで、地元の野菜を地元で消費する仕組みを作って、各地に広げていったらどうか」という審査員の声をきっかけに、まずは地元の神戸で小さくスタートしてみることにしました。
「シェアキッチンでの間借り出店、駅前での有機野菜や惣菜販売など、さまざまなアプローチを試しながら模索しているうちに、ケータリングの依頼を受けて、コワーキングスペースのイベント参加者への料理提供も行いました。現在は、コワーキングに来られる方たちを対象としたケータリングサービスの仕組みを作ろうと準備を進めています」
また、シェアキッチンでのつながりから派生して、子どもたちと一緒に有機野菜を使ったポップアップレストランを行う取り組みも生まれました。この活動も引き続き継続していく予定です。さらに今後は、「食×エンターテインメント」など、食と何かを掛け合わせた変化球の事業も生み出していきたいと楽しそうに話してくれました。
最後に、COM-PJに参加したい人へのメッセージをお願いすると、「参加するかどうか迷っている人がいたら、ぜひ勇気を出してチャレンジしてほしいです。得られるものが多すぎるので」と力強く話してくれた実桜さん。やわらかな雰囲気の奥に、プログラムを通して得た確かな自信が感じられました。
執筆:藤原 朋
撮影:中田 絢子
編集:北川 由依
株式会社omochi・土井実桜
管理栄養士 / 株式会社omochi 共同創業者
大学在学中にスローフードに出会い、食べ物を裏側まであじわうことの楽しさを知る。 学生時代から間借り出店や食育ワークショップなどの取り組みを通して食に携わる。2022年に株式会社omochiを共同創業。管理栄養士の資格を取得し、現在は兵庫県神戸市にて夫婦で会社を経営している。事業内容としては、学内・学外での食に関する学びづくりや、食を切り口とした探究学習の支援などに取り組んでいる。また、食のあじわい方の多様性を楽しむ、「おいしい研究所ワークショップ」の実施などを担当。
