2026/03/11(水)
【SPACECOOL株式会社】宇宙へ熱を逃がすゼロエネルギー冷却で、世界へ挑む
宇宙に熱を逃がし、ゼロエネルギーで冷却を実現する革新的な放射冷却素材「SPACECOOL」を開発・事業化するスタートアップのSPACECOOL株式会社。同社は開発拠点をKRPへ移転し、研究開発と社会実装の加速に取り組んでいる。本記事では代表取締役CEO兼CTOの末光真大氏に、事業の概要と今後の展望について話を伺った。
SPACECOOL株式会社/代表取締役CEO兼CTO 末光 真大氏
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昼間でも冷える「放射冷却技術」で、暑熱と温暖化対策に貢献。
ー会社の主な事業内容や独自の技術について教えてください。
弊社は、放射冷却素材「SPACECOOL」の研究と事業化に取り組むクライメートテックスタートアップです。元々、私は大阪ガスに在籍し2013年にフォトニクス(光工学)分野の研究開発を立ち上げ、2017年に「SPACECOOL」に繋がる放射冷却素材の研究を開始しました。その成果を研究にとどめず、社会実装と事業化を加速させるため、2021年にWiLと大阪ガスの出資を受けてSPACECOOL株式会社を設立し、CTOに就任しました。2024年からはCEOとして、技術の普及と事業成長を牽引しています。
「SPACECOOL」は直射日光下でもエネルギーを使わずに冷却できる革新的な素材です。熱の移動には対流・伝導・放射の3原則があるのですが、本素材は「放射」、つまり光として熱を宇宙空間へ逃がす仕組みを利用し、素材に貼り付けた物体の熱を光エネルギーに変換し、宇宙へ放出することで冷却します。物を冷やすには温度差が必要であり、熱を逃がす先がなければ冷却できません。「SPACECOOL」は−270度という極低温の宇宙空間を放熱先として活用することで、冷却効果を生み出しているのです。
「放射冷却」は、私たちの身の回りでも見られる現象です。例えば、冬場の植物などに「霜が降りる」という現象も、同じ「放射冷却」によるものです。冬の夜の晴れた日に屋根のない場所に車を停めると、フロントガラスのみが凍る場合がありますが、これも表面の熱が赤外線として宇宙空間へ放出されることで冷却が進むために起こる現象です。
通常、「放射冷却」は夜に起こりやすく、昼は太陽光の熱が大きいため物体は温まってしまいます。「SPACECOOL」の新規性は、遮熱と放射冷却を両立させた多層構造フィルムによって、昼間の直射日光下でも冷却を可能にした点にあります。吸収する熱より宇宙へ赤外線として逃がす熱を大きくし、夜と同じように「昼でも冷える状態」を実現しているのです。
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量産性と実用性を備えた放射冷却素材で、パートナー企業と社会実装を推進。
ー会社の強みは何であるとお考えでしょうか?
「SPACECOOL」は、コスト・量産性・耐久性のバランスに優れた放射冷却素材として評価されています。また弊社は、素材を単体で販売するのではなく、防水シートやテント生地、建材など既存製品に組み込む形でパートナー企業と展開しています。既存の市場や販路を持つ企業と連携することで、幅広い用途への展開をスピーディーに進められる点が弊社の強みです。
昨年に開催された大阪・関西万博では、日本ガス協会が運営する「ガスパビリオン おばけワンダーランド」の外膜材すべてに「SPACECOOL」が採用されました。その結果、一般素材に比べて最大で約4割の省エネルギー効果を実現しています。また万博期間限定モデルとして日傘も販売し、テレビ番組でも紹介されたことで大きな反響を呼び、完売となりました。地球温暖化の影響で夏の暑さが年々厳しくなる中、「温度」を切り口にした日傘の需要を確認できたことで、今後、暑さ対策への社会的な関心がさらに高まることを期待しています。
KRPの充実した設備とワーク環境が魅力。実証実験や国際交流拠点としても活用。
ーKRPに研究拠点を移転された経緯についてお聞かせください。
会社の規模拡大のため、2025年5月に研究開発拠点を京都リサーチパーク(KRP)へ移転しました。KRPに集積する公的産業支援機関では、研究開発を支援するため電子顕微鏡や耐候試験装置などの設備が整備されていて、しかもメンテナンスされた状態で利用できます。新たに設備を購入する必要がなく、初期投資を大幅に削減できたことが大きなメリットです。
また、人材確保の面でも大きな効果がありました。一般的に企業の研究所の多くは郊外にあり、生活利便性が限られてしまいます。KRPは交通アクセスも良く、周辺にも飲食店、カフェ、コンビニなどが多くあり、ワーク環境の良さを理由に弊社に入社した研究者もいます。また、最近は海外顧客の訪問も増えているので、家族連れで来日される場合も、京都という立地に魅力を感じていただけます。
KRPでは海外のサイエンスパークや大使館関係者など国際的な訪問団と入居企業が交流できる場も整っています。2026年1月には駐日エジプト大使が来訪され意見交換をさせていただきました。また、KRPでは多彩なイベントを開催されており、「ヘルシンキ・スタートアップ エコシステム交流プログラム」に参加するなど、海外のビジネス機会を広げられる点にもメリットを感じています。他にも落語会やビアガーデンなど、ユニークなイベントが多数開催されており、社員同士のコミュニケーションも深まり、出社する楽しみになっていると聞きます。
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「ヘルシンキ・スタートアップ エコシステム交流プログラム」の様子
KRPは実証実験フィールドとしての活用を推進されていますが、弊社も6号館の屋上にSPACECOOLを施工した分電盤を導入させていただいています。自社拠点で導入実績を示せることは、国内外の顧客に説明する上で非常に重要です。今後も床材など新たな用途でのフィールドテストを含め、KRPに実証の場としてご協力いただければと思います。
政策連携と技術革新を武器に、グローバル市場を切り拓く。
ー今後の目標についてお聞かせください。
今後の成長戦略として海外市場の開拓をさらに本格化させ、ただ、海外展開においては日本と同じマーケティング手法やバリューチェーンをそのまま適用できるわけではありません。国や地域によっていわば"市場ごとの言語"があるので、何をどう伝えると受け入れられるのかを見極めながら展開する必要があります。そこが大きなチャレンジだと感じています。
その中で弊社が重視しているのが政策との連動です。「SPACECOOL」の技術は、省エネルギーや脱炭素、暑熱対策といった社会課題に直結するものであり、各国の政策や公共領域に組み込みやすいという特徴があります。日本政府や国際機関とも連携して導入を進めていくことが、グローバル展開において非常に有効であると考えています。弊社は、現地で生産し雇用を生む「地産地消型」の展開が可能です。単なる技術輸出にとどまらず、各国の産業振興につながるストーリーを描ける点が強みと考えています。
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もちろん、海外で競争力を維持するため、国や用途ごとに異なるニーズに応じて研究開発と製品改良を継続していきます。世界中で競合の参入が進んでいますが、新市場の形成において競争は不可欠であり、むしろ歓迎しています。その上で、技術だけではなくビジネスモデルや供給体制の工夫で差別化を図り、誰も追いつけないスピードで社会実装を加速させたいと考えます。KRPのネットワークと研究環境も活用させていただき、海外展開と技術革新の両輪で次の成長ステージに挑んでいきます。
末光 真大氏
2012年大阪大学大学院工学研究科を修了後、大阪ガス(株)に入社し、同時並行で複数の研究テーマを立案・遂行し、基礎研究からメーカーや大学との共同開発まで幅広く経験。
2013年より大阪ガスにとって新領域であったフォトニクス(光工学)分野の研究開発の立ち上げを行い、京都大学大学院電子工学専攻野田進教授と共同実施した熱光発電(TPV)の研究ではフォトニック結晶を用いた光制御によって、当時MITが保有していた発電効率の世界記録を大きく超える効率を記録し、Nature Photonicsをはじめ数々の媒体で成果が取り上げられる。社会人博士として京都大学大学院に進学し、2019年に博士(工学)を取得。
SPACECOOL(株)に繋がる「放射冷却素材」の研究開発は2017年に大阪ガスで独自に立ち上げ。事業化のために2021年4月に(株)WiLと大阪ガスの出資を受けスタートアップSPACECOOLを設立し、出向する形でCTOに就任。2023年12月に大阪ガスを退職。2024年4月より代表取締役CEOに就任。
受賞歴:SPIE Green Photonics Award (2016), 応用物理学会奨励賞(2019), Forbes JAPAN『日本の起業家ランキング2026 BEST 10』選出(2025)、Japan Venture Awards 『経済産業大臣賞』(2025)、省エネ大賞(2025)など。
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企業情報
企業名:SPACECOOL株式会社
代表者:代表取締役CEO兼CTO 末光 真大
所在地:6号館1階
URL:https://www.spacecool.jp/
事業内容
宇宙に熱を逃がし"ゼロエネルギー"の冷却を実現する、放射冷却素材「SPACECOOL」を開発・販売するクライメートテックスタートアップです。
●技術概要
放射冷却素材「SPACECOOL」は、独自の光学設計により、太陽光からの熱をブロックする遮熱性能に加え、吸収した熱を赤外線に変換して宇宙に放射するという放射冷却性能を両立することで、"ゼロエネルギー"の冷却を可能にした新素材です。
※「SPACECOOL」は登録商標です。
●導入事例と実現する効果
建物屋根:空調エネルギー消費量、CO2排出量の削減
屋外機器:機器の故障抑制による安定稼働、寿命延長
人・動植物の生活環境:熱中症予防、労働生産性・食糧生産性の向上
●お問い合わせ、購入依頼はこちら
https://spacecool.jp/contact/