2026/02/25(水)
【日本アイ・ビー・エム株式会社】世界を牽引するテクノロジーで、半導体産業のエコシステムを広げる。
100年を超える歴史の中で、技術革新を重ねてきたIBM。その日本法人である日本アイ・ビー・エム株式会社は、2025年7月、首都圏以外では初となる研究拠点を京都リサーチパークに開設した。本稿では、事業所長の髙橋志津氏と副所長の山口禎裕氏に、同拠点での活動内容や研究拠点開設に込めた想い、今後の目指す方向について伺った。
日本アイ・ビー・エム株式会社/理事・京都リサーチパーク事業所長 髙橋 志津氏
日本アイ・ビー・エム株式会社/統括部長・京都リサーチパーク事業副所長 山口 禎裕氏
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首都圏外初の研究拠点で、半導体工場の製造実行システムを開発。
ー会社の主な事業内容について教えてください。
髙橋氏:ニューヨークに本社を構えるIBMは1911年に米国で設立し、1924年に現在の社名となって以来、コンピュータ黎明期からAI・量子コンピューティング時代に至るまで、テクノロジーの革新をリードしてきました。現在は世界175カ国以上に展開しています。
その日本法人である日本IBMは東京に本社を構えています。弊社では大きく分けて、リサーチ、テクノロジー、コンサルティングの3つの部門があります。先端技術の研究・開発を行うのがリサーチ部門で、ここ京都の KRPに拠点を置く私たちのチームもその一員として、研究開発に取り組んでいます。
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山口氏:当事業所は、半導体研究と半導体生産を支える製造実行システムの開発拠点です。非常に複雑なプロセスを経て作られる半導体の製造ラインは完全自動化され、24時間365日動いているため、制御システムがないと工場は稼働しません。弊社が開発した「IBM IndustryView for Semi-Conductor Standard (IBM SiView Standard)」は、半導体の製造プロセスを管理・制御するためのMES(製造実行システム)です。現在、世界の半数近くの半導体工場で導入され、MES市場で高いシェアを占めています。
髙橋氏:半導体工場では、天井部を走る搬送機器や多数の製造装置が稼働しており、それらすべてが連携しながら動いています。どこか一箇所でも不具合が起きると、製造ライン全体に影響が及び大きな損失につながります。各工程では詳細な製造条件が記されたレシピがあり、細やかなパラメーター調整が必要で、人が計算し入力できるレベルを超えています。そのため、これらの条件設定はすべてシステムが自動処理を行なっています。
山口氏:特に大規模な工場では、数百台から数千台の製造装置が並んでおり、稼働率をいかに高く維持するかが重要になります。また、製造工程ごとのサイクルタイムの短縮化も求められるため、自動化された製造実行システムが必要不可欠となるのです。それでも一つの製品が完成するまでには、1~2カ月を要します。
ー会社の強みは何であるとお考えでしょうか?
髙橋氏:IBM全体としての強みは、ハードウェアとソフトウェア、さらにそれらをお客様に届けるコンサルティングまでを一気通貫で提供できる点にあります。研究所で生まれた最先端のテクノロジーをお客様のビジネスの現場に実装できる企業は、それほど多くはありません。
山口氏:具体的には、半導体チップから、それを搭載するサーバーといったハードウェア層、データベースやAI基盤などのミドルウェア層、製造実行システム「IBM SiView Standard」に代表されるアプリケーション層と、それぞれにプロフェッショナルがいます。フルスタックでの対応力こそがIBMの強みで、そのような点を、IBMならではの価値として多くのお客様に評価いただいていると感じています。
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ーいま急速に進化を続けるAIについては、どのようにお考えでしょうか?
髙橋氏:IBMのAIが社会的に大きな注目を集めたのは、2011年に「Watson」がクイズに答えるAIとして話題になったことがきっかけでした。当時からIBMが大切にしてきたのは「Augmented Intelligence(機能拡張)」という考え方です。これは、AIが人間に取って代わる存在ではなく、人の力を拡張して意思決定や業務を支援する存在であるという思想です。
その後、AI=「Artificial Intelligence(人工知能)」と広く認知され、AIが人を支配するかのようなイメージが先行した時期もありました。テクノロジーによって人が支配されるのでは?という恐れは、新しい技術が生まれたときに助長されがちです。しかし、AIを適切に活用することで、人の仕事や暮らしをより便利で豊かなものにできるという「Augmented Intelligence」という側面も改めて見直されているのではないでしょうか。弊社では、AIの倫理や信頼性といった側面の研究にも力を入れています。より良いテクノロジーで社会課題を解決していくことは、AI研究を含むIBMリサーチの基本姿勢です。
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山口氏:半導体工場は、製造業の中でも早くからスマートファクトリー化が進み、装置から収集した大量のデータを分析することで、生産の最適化が行われてきました。従来は、統計や数理モデルによる大規模解析が中心でしたが、現在ではAIやマシンラーニング(機械学習)を活用することで、従来は実現できなかった高度な分析や制御をより効率的に実行できるようになっています。「IBM SiView Standard」も製造装置から収集される膨大なデータを蓄積し、AIを活用した高度な分析や制御を実現しています。
KRPを拠点に全国から優れた人材を集め、産学連携を強化していく。
ー新たに京都に研究拠点をおかれた経緯についてお聞かせください。
髙橋氏:IBMの研究拠点は、これまで東京を中心とした関東圏に集約されていました。そのため、西日本の大学とは物理的な距離があり、十分な交流が難しい側面がありました。より気軽に教員や学生の皆さんに研究所を訪れていただき、IBMの研究現場に触れてもらいながら、全国の大学と幅広く連携していくために、西日本にも研究拠点を設けたいと考えていました。
また弊社の半導体部門では、滋賀県・野洲工場時代からの開発チームが京都を拠点に活動を続けてきました。京都周辺には半導体関連のお客様企業も多く、KRPは研究開発拠点として恵まれた環境であると感じました。研究所では機密性の高い情報を扱うため、十分なセキュリティと研究に集中できる環境が欠かせません。この点を総合的に判断し、KRPでの開設を決定しました。
山口氏:KRPに入居して感じる魅力のひとつは、やはり京都という街のブランド力です。特に本社の社員や海外のお客様をお招きする際に、「京都に行きたい」と思ってもらえる点は大きなメリットです。京都駅にも近くアクセスが良い点も魅力だと感じます。
髙橋氏:KRPさんに温かくサポートいただいたり、入居者同士の交流を推進いただいているので、ネットワークを広げていくことができています。また、KRPは京都でとても存在感のある拠点なので、入居することで弊社の認知度も向上していると感じます。
事業所開設を記念し、KRPのホールで「サイエンスシンポジウム」を開催しました。企業や学生、子どもたちもお招きしてAIの実験なども行いましたが、たくさんの人に参加いただき大盛況となりました。KRPが主催の「技術イノベーションフォーラム」のポスターセッションや「賀詞交歓会」にも参加しましたが、KRPでは日々さまざまなイベントが開催されていて刺激になります。社内ではフットサルや最近流行りのモルックを楽しむ社員もいるのですが、KRPでモルックのイベントがあるのもタイムリーで面白いですね。
「KRP賀詞交歓会2026」の様子
半導体産業のネットワークを拡大し、お客様に多彩な価値を提供する。
ー今後の目標についてお聞かせください。
髙橋氏:京都リサーチパーク事業所は「IBM SiView Standard」の開発チームの拠点でもあるので、さらにこのシステムを進化させ、製造ラインの最適化や生産効率向上などを通じてより多くのお客様に貢献していきたいと考えます。
山口氏:京都には半導体工場の装置メーカーなど、多くの専門企業が集まっています。IBMだけで研究開発を進めるのではなく、京都のさまざまな企業と連携しながら、半導体産業のエコシステムを広げていきたいと考えます。
髙橋氏:学生の方々にもぜひIBMに興味を持っていただきたいです。半導体だけでなく量子コンピュータやAIなどさまざまな研究分野があるので、幅広く関心を持ってもらい、一緒に働ける仲間を増やしていきたいです。さらに言えば、IBM全体のテクノロジーやコンサルティングなどの分野にも目を向けてもらえれば嬉しいです。
山口氏:個人的には、弊社の後輩たちに、私のこれまでの経験、特に失敗談を伝えていきたいと考えます。成功には「偶然」の要素も含まれますが、「失敗」から学ぶことは多くの人にとっても参考になるはずです。いわば「しくじり先生」のように、ちょっと先を歩んできた先輩として、自分の経験を共有し、若い人にとっての学びに貢献できればと思っています。
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髙橋氏:後進を育てることは非常に重要と感じています。私は京都リサーチパーク事業所の所長として、この地が研究拠点となることで、IBMの認知度や存在感も高まることを期待しています。お客様にさまざまなカタチで価値を提供できるよう、より良いリレーションを深めていきたいと願います。
企業情報
髙橋 志津氏
日本IBMにシステムズ・エンジニアとして入社後、マーケティングを経て2011年よりIBMリサーチにてストラテジー&オペレーションを担当。現在は研究開発部門Technology Engagement & Acceleration 担当理事および半導体の研究開発と製造実行システムに注力するIBM京都リサーチパーク事業所の責任者を務める。またIBM Research Think Lab Tokyoの運営を統括し、AI、量子コンピューティング、半導体などの先進的なIBMテクノロジーを中心に、クライアント、学生、社員の交流を推進している。職場におけるダイバーシティとインクルージョンの推進に取り組む非営利団体「Japan Women's Innovative Network(J-Win)」のアドバイザーを務める。
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山口 禎裕氏
キャリア採用で日本IBMに入社し、滋賀県・野洲工場にて半導体からメインフレームまで一貫生産を支えるITシステムを担当。2000年代には、半導体ウェハーの200ミリから300ミリへの大型化に対応する製造実行システム(MES)の研究・開発に注力。国内外の半導体工場におけるMESの立ち上げ支援や、工場全体のデータ統合、さらにはデジタルツイン化の推進をコンサルタントとして経験。現在は「IBM SiView Standard」の開発責任者として、次世代の製造現場を支えるソリューションづくりに取り組んでいる。
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企業名:日本アイ・ビー・エム株式会社
代表者:代表取締役社長 山口 明夫
所在地:1号館
事業内容:情報システムに関わる製品、サービスの提供
URL:https://www.ibm.com/jp-ja