2025/10/15

確かなスペックのラボと多様な支援で明日の新産業を創造 かながわサイエンスパーク

神奈川県川崎市の「かながわサイエンスパーク」。ここは36年前に設立された日本初の都市型サイエンスパークだ。55,000㎡超の敷地は3棟のビルで構成されている。ラボ・オフィス向け施設であるR&Dビジネスパークビル(以下R&D棟)とイノベーションセンタービル東棟(以下東棟)、そして主にサービス施設やオフィスが入るイノベーションセンタービル西棟(以下西棟)と多様な機能を有し、化学メーカーを中心に多くの研究開発型企業が入居しているという。

かながわサイエンスパークのラボは、大企業向けのR&D棟と、ベンチャー企業向けの東棟に分かれている。R&D棟のリーシングは、ビル管理会社(株式会社ケイエスピーコミュニティ)が行い、東棟は株式会社ケイエスピーが行っている。ベンチャーから大企業まで対応するかながわサイエンスパークを探ってみる。

外観670.jpg

目次

  • かながわサイエンスパークと株式会社ケイエスピー
  • ラボとしての確かなスペック
  • 変化する多様なインキュベーションサービス
  • 魅力的な研究環境から新産業創出へ

 

かながわサイエンスパークと株式会社ケイエスピー

かながわサイエンスパークの最寄り駅は東急田園都市線溝の口駅、またはJR南武線武蔵溝ノ口駅。最寄り駅からかながわサイエンスパークまで無料のシャトルバスがある。ここから渋谷まで、東急田園都市線を使えば15分ほど。さらに東京駅や羽田空港へのアクセスも良く、この川崎市には、電子機器メーカーや電気・ガス、石油会社などあらゆる企業の研究所や工場などが集まっている。

株式会社ケイエスピー経営管理部の白石大成さんに説明して頂いた。

株式会社ケイエスピーでは、「サイエンスパークとは研究開発拠点・集交共創拠点・事業化拠点という3つの機能を兼ね備えた場所である」と定義している。その中でも、かながわサイエンスパークは地域の新産業形成に向けた「都市型」サイエンスパークと位置付けられている。

株式会社ケイエスピーとは、かながわサイエンスパークのために設立された第三セクターで、同施設の中核的運営主体でもある。

中核事業はかながわサイエンスパークの運営とインキュベート事業。不動産賃貸をしつつ、研究開発型ベンチャーのサポートに取り組んでいる。

株式会社ケイエスピーは、設立当初からずっと「ベンチャー支援」というスタンスで、幅広い支援プログラムを持っている。ベンチャー向けファンドでの支援をはじめ、ビジネススクールによる人材育成、ビジネスプランの作成と支援。さらに販路開拓や事業開発のためのマッチングなど、さまざまな支援システムを構築している。

単に部屋を貸すだけではなく、研究開発型ベンチャーの成長を目標に掲げているのだ。

入居したベンチャー企業は、株式会社ケイエスピーによる投資を含めた支援を受けながら、ここで事業を拡大させ、夢を実現する環境が整っている。

 

ラボとしての確かなスペック

かながわサイエンスパークの特長の一つは、ラボとして確かなスペックを備えている点である。比較的都市部にありながら、グローバルトップの化学メーカーが多数入居しており、業種では化学薬品や化粧品、飲料・食料品開発、計測器、次世代燃料開発など、多様な企業が入居していることはその裏付けと言える。

東棟.670.jpgベンチャー向けのラボ・オフィスが入る東棟

ラボがある東棟・RD棟の天井裏にはドラフトチャンバーなどに用いる排気ダクトが設置可能で、ダクトを外に通すスリーブ(穴)が全室に設置されている。理論上は全室でドラフトチャンバーが設置可能ということだ(実際は屋上のスクラバー設置場所の制限はある)。また、施設内に排水処理棟があり、研究用排水の処理が可能。各部屋でも床下にさや管が配置されており、排水管を設置するために床を上げる工事も不要で取り回しもしやすい。これらのスペックは、東棟・RD棟いずれも同じ水準で備えている、ということも付け加えたい。

スクリーンショット_ビルスペック情報670.jpg

また、竣工から36年経っても設備が陳腐化しないように、大規模改修も含めて維持管理も欠かさない。

「東棟は設備バルコニーがあってよかった。でもR&D棟にもあるんですよ。中央のクロス部分にあります。美観を保つために外からは見えないのですが。そして、東棟とR&D棟の一室当たりのスペックは同じなんです。違うのは、各部屋の大きさだけです」と白石さん。

同じスペックを提供していることは、かながわサイエンスパーク内でラボ移転などをする際、入居者にとっては大きなメリットになるだろう。

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一般企業向けのラボ・オフィスが入るR&D棟

 

変化する多様なインキュベーションサービス

株式会社ケイエスピーでは、ビジネスインキュベーションに加え、研究開発型ベンチャーの成長過程で必要となる資金調達、販路開拓、人材育成などのサービスを組み合わせて提供している。これらは支援先ベンチャーのニーズや社会情勢に応じて柔軟に変化させている点が特徴である。

資金面では、ベンチャーキャピタルとしての活動を展開している。2000年代にはアーリーステージのIT・エレクトロニクス分野を中心に投資を行っていたが、20229月に組成した「KSP Next Generationファンド」では、ミドルステージも対象に含め、ライフサイエンスをはじめとするディープテック分野へ幅広く投資を拡大している。

ビジネスマッチングにおいては、全国の産業支援機関とのネットワークを通じて推薦されたコア技術を持つ中小企業・ベンチャーが参加する。ここでは他に知られていない新技術やビジネスモデルが数多く登場するため、面談に臨む中堅・大企業からの期待も高い。

人材育成の面では「KSPビジネスイノベーションスクール」を運営している。上場企業の創業者らを講師・メンターに迎え、半年間にわたり仮説と検証を繰り返し、戦略的な事業構想を導き出す実践的なプログラムとなっている。受講者の約6割は財務やマーケティングに触れた経験のない研究・開発者だが、このプログラムを通じてマネジメント感覚を飛躍的に成長させることができるという。

そして、入居企業や投資先企業を経営面でサポートする存在として、インキュベーションマネージャー(以下、IM)がいる。IMは、それぞれの専門的なキャリアに加え、幅広いサービスを通じて養った視野と、多くのベンチャーに伴走してきた経験を活かしながら、成長を支えている。

IMがそれぞれの入居者を担当します。入居時に、この企業ならこのIMが強みとする分野で支援できる、などの観点で選ばれます。定期的な面談もあります」(白石さん)

 

魅力的な研究環境から新産業創出へ

入居者にとっての魅力は、ラボのスペックや株式会社ケイエスピーの支援だけにとどまらない。最寄り駅である溝の口駅までシャトルバスで5分、東京都心方面、国内・海外に向かう主要な移動拠点(鉄道駅・空港)へのアクセスが良好であることはもちろん魅力的だが、川崎市には研究者が多いという土地特性もあるという。周辺にあらゆる企業や研究所があることで、川崎市はIT関係者や研究者が密集する場所となっているようだ。かながわサイエンスパークは、研究に集中できるさまざまな条件が整っていたこの場所を選んだようにもみえる。

「川崎市は研究開発型の企業が多く、就業者に占める研究者の割合が日本でも一番多い都市です。かながわサイエンスパークに入居される理由の一つとして、研究者の採用のしやすさもあります」(白石さん)

また、かながわサイエンスパークには研究開発に集中できる利便施設が複数入居していることも魅力の一つ。全73室のホテル「HOTEL ARU KSP」は、遠方から会議や商談に訪れる人にとって非常に便利だ。加えて400名の利用が可能な大規模なホールは株主総会にも利用され、中小規模の会議室もビジネスには必要な機能だ。他にも喫茶店やレストランなど複数の飲食店、健康診断にも対応可能なクリニック、コンビニエンスストア、郵便局や理容店、保育所まで揃っている。

地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)が入居していることにも注目したい。ここは、公設試験場としてものづくり企業の研究開発や技術的なトラブル解決について各種支援をしている施設だ。企業の人材育成につながる高度な内容の各種講座なども開催している。

さらに、神奈川県立川崎図書館が入っていることも特筆したい。この図書館は当初、「工業図書館」として設立され、工業分野の情報、特に特許に関するさまざまな図書を所蔵。知財に関する相談会やセミナーも定期的に開催されるなど、研究者にとって非常に頼りになる存在だ。

今回の取材を通じ、ラボなどのハードを含むインキュベーションサービスは非常に魅力的に映った。ただし、株式会社ケイエスピーでは優れたサービスの提供だけではなく、継続的にイノベーションに向かう機運やそのためのコミュニティの醸成も大切にしているという。

今後も、かながわサイエンスパークから生まれる新産業への期待は大きい。