川崎の国際戦略拠点からグローバルネットワークにつながるシェアラボ :iCONM in collaboration with BioLabs
神奈川県川崎市キングスカイフロントにある「ナノ医療イノベーションセンター(略称:iCONM)」。公益財団法人川崎市産業振興財団が運営し、「スマートナノマシン」や「体内病院」などスマートライフケア社会の実現に向けたナノ医療の研究施設として世界的にも知られている。この建物の3階には、米国BioLabs社と事業連携したスタートアップ向けのラボがあるという。
iCONMにスタートアップ向けのラボを作った経緯や特徴などについて、iCONM with BioLabs サイトディレクターの厚見宙志さんにお話を聞いてみた。

目次
- スタートアップの情熱をiCONMから
- ハード面とソフト面+コミュニティの支援
- スタートアップが研究&ビジネスに集中するために
- 環境もネットワークも活用して世界へ
スタートアップの情熱をiCONMから
iCONMは2015年にオープンし、現在は主に大手企業やアカデミア、スタートアップなどが入居。バイオ系・化学系研究者たちが研究を続けています。
1~4階には多くの共有機器・実験機器を備え、入居企業はそれらを使用できるシステムです。2022年、3階フロアにスタートアップ向けインキュベーションラボ(シェアラボ)を開設しました。
―そもそも何故iCONMにシェアラボを作ったのですか?
厚見さん:もともと、iCONMの建物は、産学連携による国際科学イノベーション拠点を整備する文科省の事業に採択され、2015年にはiCONMが設立され、その中でアカデミアの研究が本格稼働し、さらに共同研究する企業がiCONMへ入居し始めてコミュニティを形成し始めました。ここでは、JSTの「センターオブイノベーション(COI)」という、基礎研究段階から実用化を目指した産学連携による研究開発を支援するプログラムの対象として2022年まで利用され、その後も同じくJSTの産学官共創拠点の形成を目指す「COI-NEXT」の拠点としても選定されています。前プログラムのCOIの中でも、学術研究の社会実装支援を担う研究グループが存在し、多くのスタートアップを設立することが出来ましたが、赤ん坊のようなスタートアップは設立後も支援するべきだという声がありました。
議論した結果、iCONMの共有機器施設をスタートアップへ開放することで、彼らの研究開発を支援することとなりました。彼らは自分たちのアイデアを社会実装していこうと情熱を燃やしていますが、資金はもちろん、時間の使い方や、優秀な人材を探すなど課題は山積です。そこで、iCONMの施設を使って少しでも効率的な研究開発ができるよう支援をしよう。ライフサイエンス系スタートアップにiCONMの共有機器を利用してもらって、どんどん成果を出してもらい実装させていこうとなったのです。また、そのタイミングでBioLabs社とコラボレーションの準備を開始し、スタートアップへのソフト面の支援を準備し始めました。
ハード面とソフト面+コミュニティの支援
―シェアラボの特徴などを教えてください。
厚見さん:3階のiCONM in collaboration with BioLabsが、スタートアップ向けのラボです。
現在iCONMの中には、共有機器が約300種類以上あり、微細加工や化学合成、細胞培養、疾患モデル実験が可能なので、ライフサイエンス系スタートアップに最適な環境です。
基本的には、ほぼ全ての共有機器をスタートアップにも開放しています。また、スタートアップが1日も早くかつ実験しやすいように、ルール作りから工夫してシェアラボを作りました。
一方で、スタートアップはアカデミアではないので、黙々と研究だけをしていれば良いというものではありません。研究者がCEOになることもあるので、ビジネスのための基本的な勉強も必要です。そこで私たちは、iCONMで実験をしながらビジネスを学べる場を作りたいと思いました。
研究をする場、ビジネス、ネットワーキング、デベロップメントができるような環境を揃えてあげたい。かつ、創薬系ですと日本の市場だけで収まることは難しく、グローバルに展開していくための知識を身につけなければなりません。
もう一つの支援として、ハード面とソフト面をつなぐような「コミュニティ」を大事にしています。特に、入居者間のコミュニティづくりです。入居者間で情報を提供・共有できる環境を作りたいと思っています。スタートアップ間のコミュニティができれば、個社の成長だけでなく、日本全体のスタートアップの底上げにもつながると思います。
※BioLabs社は、アメリカ内に11拠点、ドイツ・フランスに3拠点を持つ、グローバルなインキュベーター。彼らのところに入居しているスタートアップは500社以上だといわれる。「BioLabsがもつスタートアップ支援のノウハウを日本に持ってきたかったことが、このコラボレーションのきっかけでした」(厚見さん)。
スタートアップ向けのシェアラボ。シェアラボの利用者は他にiCONMのクリーンルーム、合成実験室、生化学実験室、動物実験室なども使用可能。
―ソフト面ではどういった支援をされていますか?また、BioLabsと事業連携したことのメリットは?
厚見さん:ソフト面の支援として、BioLabsとのネットワークを通じたグローバル展開支援やスタートアップに有益な情報を提供するためのイベントを実施しています。
ネットワーキングイベントでは、著名なスタートアップの経営者を招いて、経験談などをお話しいただいています。たとえば、オリシロジェノミクス株式会社の元CEO/CTOのバシルディン様や、サイアス株式会社(現:シノビ・セラピューティクス株式会社)COO/CFOの五ノ坪様などもご登壇いただきました。
ピッチイベントでは、オンサイトで日本のファーマや投資家からアドバイスをいただき、さらにオンラインでアメリカとつなぎ、アメリカのファーマや投資家のアドバイスをもらう、といった取り組みをしています。
日本とアメリカでは、実はそこまで状況は変わらないかもしれないのですが、「変わらないことを知ること」も大事だと思っており、アメリカで活躍するための情報などをスタートアップに提供できればと考えています。全てのイベントはBioLabsと設計していますし、シェアラボの運営やスタートアップの支援方法もBioLabsのノウハウを活かしています。イベントの登壇者を探す際は、BioLabsのネットワークも活用しています。
2023年12月のイベントにはオリシロジェノミクスのバシルディン氏、シノビ・セラピューティクスの五ノ坪氏もご登壇
スタートアップが研究&ビジネスに集中するために
―具体的に、どのようなサービスがあるのか教えてください。
厚見さん:まず、初期投資ゼロで研究を開始することができます。費用は月々のランニングコストだけです。
iCONMの多くの共有機器が使用でき、さらに動物施設もあるので、ライフサイエンス系のスタートアップにとって、非常に良い研究環境だといえます。
また、メンターや専門家、研究者人材の紹介、必要なネットワークへの紹介なども行います。他方で、雑務からできる限り解放し、自分たちの研究やビジネスに集中させてあげたいと思っています。
そして「Peer- to- Peer」つまり同僚同士のコミュニティです。互いの悩みや課題を共有し、簡単な失敗を防ぐための情報共有です。たとえば、学校の定期試験で過去問を手に入れるための友人を増やすイメージでしょうか。
その他にも、スタートアップの状況の変化にフレキシブルに対応できるようなルール作りをしています。さらに、入居者のIP(知財)は入居者自身で所有することができます。
また、実験での廃液・毒劇物などの規制などは、iCONMのルールにのっとってもらえば、運営側が担いますのでスタートアップは自分で管理する必要がありません。遺伝子組み換え委員会などもこちらで請け負います。大学にいると気づきにくい規制関係の作業から解放されるので、この点を気に入ってくれるスタートアップもいます。
ラップトップパソコン1台でローンチできるIT系スタートアップと違い、バイオテックのスタートアップは、規制に則した研究設備でないと彼らの実験をサポートすることはできません(逆に手間を増やしてしまいます)。
研究する上でのトラブルを最小限に抑えてくれるのが「実験管理チーム」です。機器の故障や、安全性委員会、またiCONMに入居して実験をスタートするための講習会などをマネージしてくれます。自社で対応するには負担が重い、基本的な動物の飼育管理も代行してくれます。
このような点で、iCONMは清潔で、非常にスムーズに研究ができる環境だといえます。
共有機器は基本的に時間単位で予約・課金するシステム。さまざまな研究者が利用しているが「人気機器なので予約できない」といったクレームは今のところほとんど無いという(時期によっては多少あり)。
「入居者がもっと増えると、そのような事態も問題になるかもしれません。また、時期によっては細胞培養スペースが混むことがたまにあるので、拡張も思案中です」と厚見さん。

iCONM with BioLabs サイトディレクター 厚見宙志さん
環境もネットワークも活用して世界へ
キングスカイフロント地区は、JR川崎駅から少々距離があるので地理的には「アクセスが悪い」と感じるが、研究者たちからは「先端研究に集中できる環境」、「グローバルにアクセスするには非常に良い立地」という声が多いとのこと。
また、対岸の「羽田イノベーションシティ」(東京都大田区)には、医大やロボティクス関連企業なども集まり、今後の展開も期待される。
東京国際空港(羽田空港)が非常に近く、まさにグローバルな立地だといえる。
さらにBioLabs社との連携を活かしスタートアップを欧米のファーマ、投資家と接続していくことで、日本だけでなくグローバルに羽ばたけるような橋渡しを可能としうるだろう。
サイトディレクターの厚見さんはちょっと変わった経歴の持ち主。
ボストンでのポスドク時代、多種多様な人たちと出会い、さまざまなテーマでディスカッションをしたことや、現地のスタートアップの「情熱」を目の当たりにしたことが、厚見さんのキャリアチェンジのきっかけになったという。
日本に帰国した厚見さんは、ベンチャーキャピタル「ファスト・トラック・イニシアティブ(FTI)」に転身してベンチャー支援を始める。同社の木村廣道社長(当時)がCOIプロジェクトのリーダーだったことから、厚見さんもiCONMの業務に携わることになった。
自らがリードした「BioLabs社の連携作業」が完了したタイミングでFTIを退職し、iCONM専任のインキュベーターへ。そしてiCONM in collaboration with BioLabsがオープンした。厚見さんが居なかったらこのラボは始まらなかっただろう。
厚見さんは「今、スタートアップのコミュニティを創ることがとても楽しいです。スタートアップとの距離が日常的にとても近く、サイエンスやビジネスの考え方etc. ディスカッションをするのがとても楽しくて。これがインキュベーターの醍醐味です!」と話してくれた。

iCONMから見える羽田空港。「国際線まで車で5分!」とのこと
―最後に、研究者の皆さんにメッセージをお願いします。
厚見さん:iCONM in collaboration with BioLabsでは、スタートアップが成長しやすいコミュニティや環境づくりをしています。最近では、大手企業様との相乗効果を期待し、大手企業様向けにもシェアラボやシェアデスクを提供しています。その他でも、スタートアップを支援したい、一緒に研究・事業をしたい方など、ぜひ私たちのコミュニティに参画いただけたらと思います。
―本日はありがとうございました。