2025/10/17

100年先の心豊かなくらしのための実験場 TAKANAWA GATEWAY Link Scholars' Hub「LiSH」

"街を実験場に"という斬新なコンセプトに、ディープテックベンチャー支援の仕組みを組み合わせる。JR東日本の革新的な構想を、株式会社リバネスがフルサポートして形にした、世界でも珍しい駅直結のシェアラボLiSH。環境と生命科学に関連する技術を調和させ、社会実装に時間のかかりがちなディープテック領域の研究開発を推進する。交通の利便性抜群の立地でありながら、本格的なバイオサイエンスの研究に打ち込めるラボの特長や今後の展開について東日本旅客鉄道株式会社マーケティング本部マネージャーの天内義也氏と株式会社リバネスの中嶋香織氏にお話を伺った。

外観_670×446.jpg<画像提供:JR東日本>

目次

  • 都心に誕生したディープテックのためのラボ
  • 都心部には珍しい水圏や微生物など4つのラボを用意
  • 「職住+研究」近接が社会実装を加速
  • 100年前に開かれた場を、100年先へとつながるゲートウェイに

都心に誕生したディープテックのためのラボ

―そもそも、なぜこのような都心の一等地にシェアラボをつくろうと考えたのですか。

天内氏:高輪ゲートウェイ駅周辺の土地は、旧・国鉄が民営化された際に国から譲り受けたものです。したがって開発プランについては「世の中のためになる使い方、それも未来を見すえたもの」を軸に考えていきました。これから先のくらしを豊かにするために、ここで何ができるのか。議論を重ねた末に生まれたのが「100年先の心豊かなくらしのための実験場」というコンセプトです。
コンセプトの実現可能性を高めるのが、JR東日本が敷地全体の地権者というポジションです。都心の一等地にある広大な土地でありながら地権者が一社だけ、だからこそ思うように新たな取り組みを試していける。これまでラボスペースといえば、基本的に生活圏から隔離された場に設置されがちでした。けれども、この立地であれば入居するスタートアップは、さまざまな企業や生活者までを対象としてまさに「くらしのための実験」を実行していけます。

天内様_670×460.jpgTAKANAWA GATEWAY CITYの運営戦略を統括する、
東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部まちづくり部門品川ユニット
マネージャーの天内 義也氏

―JR東日本のコンセプトを実現する上で、リバネスはどのような役割を担ってきたのでしょう。

中嶋氏:私たちも、立ち上げの構想当初から関わってきました。その際には、ディープテック領域の研究開発支援に重点を置いてきた、専門家集団としての知見をフルに活かしています。都内最大級のウェットシェアラボ「LiSH Lab」で目指すのは、科学技術を基盤とした知識研究経済圏の確立です。抜群の立地の良さを活かして、入居するスタートアップの研究開発と社会実装を加速させていく、これが私たちの役割です。

中嶋様_670×468.jpgラボマネージャーを務める株式会社リバネス 知識創業研究センターの中嶋 香織氏

都心部には珍しい水圏や微生物など4つのラボを用意

―ラボは4種類、都心立地ではほとんど見かけないラボも用意されているようですね。

中嶋氏:一般的なライフサイエンス系のベースラボに加えて水圏ラボ、植物ラボ、微生物ラボと合わせて4つを用意しました。いずれもBSL2/P2に対応し、フリーザー、ショーケース、インキュベーター、クリーンベンチなどを完備していてセキュリティも万全です。

ベースラボでは、細胞実験や遺伝子解析など分子生物学の実験が可能で、創薬系ベンチャーなどが研究から実験までをスピーディに進められる設備を整えています。都心にあるラボとして非常に珍しいのが水圏ラボです。水を大量に扱うラボは、基本的に沿岸部などの水際に設置されます。けれどもLiSH Labでは都市部に水生生物や微生物を対象とする実験フィールドが備えられていて、淡水だけでなく海水にも対応している。このようなラボは世界でも稀な存在です。微生物ラボではバイオマテリアルやヘルスケア、そして食品開発などの研究を安全かつ効率よく進められるように滅菌や廃棄までを一貫してサポートする体制が整備されています。植物ラボは、植物栽培や藻類培養などの実験に特化したラボであり、ここでは土壌も扱えます。

バイオセーフティ委員会についてもリバネスが運営し、安全管理の基本ルールなどを策定しています。私たちはこれまでにも多くの大学発ベンチャーを支援してきているので、知財戦略や共同研究契約などの実務をサポートする士業とのネットワークも持っています。このネットワークも活用しながら、スタートアップのビジネス展開までを伴走していきます。

ベースラボ内観_670×446.jpg<画像提供:JR東日本> すぐに実験を始められる設備が整った「ベースラボ」

水圏ラボ内観_670×422.jpg<画像提供:JR東日本> 都市部において淡水に加えて海水も扱える「水圏ラボ」

―研究以外のサポートも充実していますね。

天内氏:研究を進めていく上では、たとえば実験申請書などを関係機関に提出する必要があります。ところが法務関連の知識に詳しい研究者は少なく、専門スタッフなどをスタートアップが抱える余裕もありません。そこで各種の申請業務を私たちのサポートチームがカバーしていきます。約20名のスタッフが各種の法規制対応を含めて、さまざまな事務的な作業をアシストしていきます。

「職住+研究」近接が社会実装を加速

―TAKANAWA GATEWAY Link Scholars' Hubの全体構成はどのようになるのでしょうか。

天内氏:まずTAKANAWA GATEWAY CITYの街全体のコンセプトは「Global Gateway」新たなビジネス・文化が生まれる国際交流拠点です。街のすべてが「未来への実験場」として位置付けられる中で、Link Scholars' Hubは3つのStudioとLabの合わせて4つの施設から構成されます。その中の1つであるLiSH Labに入る、スタートアップにとっての何よりのメリットは、社会実装を加速できる点にあります。
 
中嶋氏:社会実装について説明すると、TAKANAWA GATEWAY CITY全体にはオフィスや住居もあり、多くの人が行き交うくらしの場です。この立地を活かせば、研究の成果をラボ内だけで完結させるのではなく、街とリンクする形で実証実験に取り組めます。街で実験し、その様子を街でくらす人たちが目にすれば、研究に対して興味を持ってもらえます。街にくらす人や街で働く人たちと、つながりながら研究を進めていければ、スタートアップにとっても、自分たちの研究が世の中にどう役立つのかを肌感覚で理解できます。住居棟ができた段階では、入居者に対してLiSHの会員企業が健康サービス提供するプランも企画しています。たとえば腸内フローラの状況を分析して、健康に関するアドバイスを提供するようなサービスです。

―さまざまなスタートアップに加えて、ベンチャーキャピタルやコンサルタントなどの専門家が身近にいるのもメリットですね。

天内氏:専門領域の異なるベンチャーでありながら、環境と生命科学というキーワードの下に研究者たちが集まっています。これまでのように大学の研究室にこもっていれば、まず接する機会のなかった人たちが、ごく自然に出会い語らう場が用意されています。そこでのちょっとした雑談からでもセレンディピティが生まれる可能性がある。縦割り社会の大学ではなかなか接点の見つからない研究が、LiSHでは隣のベンチで行われていたりする。それを見るだけでも大きな刺激となるはずです。日本で初めてプラネタリーヘルスをテーマとする東京大学 GATEWAY Campusもできるので、ここでも有意義な交流ができるはずです。

さらにオープンスペースにキャピタリストやコンサルタントなどがいるから「ちょっと相談に乗ってほしいのですが......」と気軽に話しかけられる。従来なら正装して説明用のパワーポイント資料もまとめて......と肩に力の入りがちだったプレゼンなどの敷居が大幅に下がるのも、社会実装の加速を後押しします。JR本体からもさまざまな業務を熟知したメンバーがサポートに入り、事業化やイグジットまでのプロセスについても実践的なアドバイスをしていきます。

スタジオ1_670×439.jpg<画像提供:JR東日本> 多種多様な人が働くコワーキングスペース「Studio 1」

100年前に開かれた場を、100年先へとつながるゲートウェイに

―改めてゲートウェイという言葉に深い意味を感じます。

天内氏:ゲートウェイとは玄関口であり、高輪のアイデンティティともいえます。もともと江戸の玄関口だった高輪ですが、日本初の鉄道を開通させる際には海に築堤して線路を通しました。その結果、この地は日本各地につながるゲートウェイとなった。そこからさらに世界につながるゲートウェイとなり、さらに未来へとつながるゲートウェイとなる。スタートアップにとっては、飛躍のためのゲートウェイでもあります。「100年先の心豊かなくらしのための実験場」というコンセプトに共感してくれるスタートアップに、ぜひ来てもらいたいし、一緒に実験に取り組みたいと思います。
    
―そんなスタートアップをリバネスとしても全力でサポートされるのですね。

中嶋氏:入居会員に対しては、私たちのコミュニケーターがまずヒアリングを行い、その際にはどんな相談でも気軽にしてほしいと伝えています。スタートアップをサポートするさまざまなプロフェッショナルがいるので、入居すれば次のステージへと着実にステップアップしていける。そんな体制を整えるために、リバネスとしても一丸となってサポートしていきます。

天内氏:付け加えると海外へのゲートウェイも開けていて、まずシンガポール国立大学とのプログラムを進めています。当面はシンガポールのスタートアップと日本企業とのマッチングですが、いずれは世界中にイノベーションを起こすため、日本とシンガポール相互にスタートアップを動かしていく計画も描いています。

天内様&中嶋様_670×420.jpg「100年先の心豊かなくらしのための実験場」への想いを語ってくださった
天内氏(左)と中嶋氏(右)