2021/08/24

ベンチャー企業を「生み出す」ことが大学内インキュベーション施設の使命。イノベーションハブ京都

京都の真ん中、京阪電車・神宮丸太町駅から徒歩5分という抜群のアクセス。ここは京都大学の医学部キャンパス。京大附属病院やiPS細胞研究所といった施設のすぐ近くで、ひときわ新しく目を引く建物が「医薬系総合研究棟」。この中にあるインキュベーション施設が「イノベーションハブ京都」です。2017年、この研究棟の完成と同時に開所して、現在は再生医療、創薬、医療機器のスタートアップ、研究者など26社が入居しています。

☆イノベーションハブ京都_画像1_800.jpg

目次

  • 京大医学研究科が作ったインキュベーション施設
  • 動物実験施設に高度解析機器や工作機器まで!設備面の3つの特徴
  • 各種セミナーや人材育成プログラムでベンチャーを創出・育成したい
  • ベンチャー企業を「生み出すこと」と「成長させること」優先すべきは?


京大医学研究科が作ったインキュベーション施設

イノベーションハブ京都(以下、IHK)は、医薬系総合研究棟の3・4Fにあります。医薬研究に特化した環境で、京大医学研究科による京大発ベンチャーのためのインキュベーション施設です。入居条件として、京大の研究シーズを基に起業したベンチャー、京大研究者と共同研究を行っている企業、京大から知財ライセンスを受けているなどがあります。管理・運営は京都大学医学研究科の「医学領域」産学連携推進機構(以下、KUMBL)という組織で、大学教授や講師といった大学職員によって構成されています。いわば京都大学医学研究科が自らの技術を世の中に発表するために用意した施設ともいえます。こちらに常駐する京都大学大学院特定講師の山口太郎先生に施設内をご案内いただきました。

IHK には、P2レベルのラボが20m2~150m2超まで25室あり、共用設備としてセミナー室や、高度解析機器を設置する医学研究支援センター、飼育も可能な地下動物実験施設など、医薬研究のための設備がずらりと並びます。最近オープンした「工房」は3Dプリンター等を備え、医療機器のプロトタイプ制作に活用できます。この他にも各フロアにミーティングスペースなどが完備されています。レンタルラボは数種類用意されていて、企業のステージによって選択できるようになっています。たとえば、起業間もない研究者1人でもシェアタイプの「インキュベーションコア・ラボ」を借りることが可能。このラボを借りると、ラボ内の設置装置を他のメンバーと共同利用できるのはもちろん、5Fの医学研究支援センターにある高度解析機器類も追加料金不要で使うことが可能なのです。何も装置を持っていなくても、入居後迅速にデータ取得に取り掛かることができます。

☆インキュベーションコアラボ_800.jpg「インキュベーションコア・ラボ」に設置してある機器類は、入居者同士で共同利用が可能。また医薬研究支援センターの共通機器も追加料金なしで使用が可能。(設置機器=セーフティキャビネット、クリーンベンチ、バイオインキュベーター、位相差顕微鏡、ドラフトチャンバー、高速冷却遠心機、ディープフリーザー、薬用ショーケース、オートクレーブ、震・培養器、UVゲル撮影機、PCR装置など。)


動物実験施設に高度解析機器や工作機器まで!設備面の3つの特徴

一緒にお話をうかがったのが、京都大学大学院の特任教授寺西豊先生、同じく京都大学大学院の特任教授・山本博一先生。
IHKの設備の中でも特に注目できるのが地下動物実験施設です。動物実験ができる環境を確保するのに苦労されている研究者も多いとうかがいます。動物実験施設が整備されているインキュベーション施設は全国でも数少なく、非常に珍しいといえるでしょう。

「ある程度成長した企業は必ず動物実験が必要になりますから」と山口先生。

入居企業がIHKから移転を検討する際に、動物実験ができるレンタルラボについて相談されることも少なくないと言います。

山本先生からは「どこか大きな工場の端にでも動物実験施設を作ってくれたらいいんだけど......」という'お願い'の声も。

IMG_2669.jpg京都大学大学院 医学研究科 医学領域」産学連携推進機構 副機構長 特任教授寺西豊先生

また、医学研究支援センターの共有機器類も特筆すべきものが。この支援センターには、医学研究の最先端の研究をするための高度解析機器をそろえています。ベンチャーでも最先端の研究成果を基にすれば、どんどん前に進むことも可能。

「それらの機器はみな高価なので個人では買えません。だから大学で最先端研究をやるような機械があればそれを使っていく、それがここのベンチャーさんの考え方だと思います」と話すのは寺西先生。

元々は大学の教授陣が自身の研究のために補助金やプログラム費で購入したもの。それを長年保持する中で、共有・共通化してもらえたものが支援センターの機器類なのです。教授と共有することで、教授が設定した機器の講習会にも無料で参加させてもらえるメリットもあります。

寺西先生「実験機器が、何もなければ買わざるを得ないわけです。それがタイムシェアできるのですから、ベンチャーさんにとってはものすごくメリットあると思います」

大学の中だからこそ可能なのでしょう。初期のコストをできるだけ抑えて、スタートアップ・事業拡大に専念できるのです。

IMG_2673.jpg京都大学大学院医学研究科 医学領域」産学連携推進機構 特任教授山本博一先生

そして、最近オープンした「工房」には、モノづくりベンチャーのHILL TOP株式会社(京都府宇治市)が監修した3Dプリンター、レーザーカッター等の工作機器が設置してあり、医療機器のプロトタイプ制作等が行えます。京都大学内には他にも同様の機器を設置している場所はありますが、IHKの中に置くことで、新たなアイデアのプロトタイピングが期待されています。

☆工房2_800.jpg

工作機器を設置している「工房」。利用はIHKの入居者に限定せず、KUMBALの運営するプログラムの参加者等幅広く想定



各種セミナーや人材育成プログラムでベンチャーを創出・育成したい

設備面の特徴の他にも、ソフト面では、入居企業との連絡会で各社の悩み事を聞いたり、KUMBLが提供する財務・法務のアドバイス、経営での課題に対する対応・人材紹介、外部起業家の講演、成長支援セミナーの開催や起業家育成プログラムを開催するなど、盛んに活動をしています。2017年からは医療ヘルスケア・イノベーション起業家人材育成プログラム「HiDEP(ハイデップ)」がスタート。HiDEPの中から新しいベンチャーが生まれてきてIHKが活性化する、という流れができることが理想的だと先生方は話します。

山口先生「いろいろな起業家の方にも来ていただきました。でもこれは、必ずしも入居企業だけを対象にしているわけではないのです」

KUMBLが開催する一般向けの再生医療セミナーなどはオープンセミナーも多く、一般の方でも参加が可能。同じ分野の勉強がしたい・新しいことをやっている先生とコンタクトを取りたいなど、セミナーに参加するのも学内施設のメリットのひとつかもしれません。(なお、現在はコロナ禍のためオンラインイベントなどに変わっているそうです)

IMG_2664.jpg京都大学大学院医学研究科 医学領域」産学連携推進機構 特定講師山口太郎先生



ベンチャー企業を「生み出すこと」と「成長させること」優先すべきは?

IHKの入居期限は5年。2017年の開所当時から入居する企業は来年には入居期限を迎えます。

寺西先生「我々の使命は、スタートアップが生み出されるのをサポートする。そして生まれたら育てる、ということです。しかしどちらを優先せざるを得ないかといえば、生み出される数を増やすことに主眼を置かざるを得ないと考えています。大学がインキュベーターを作るときはそこだろうと。我々は、ホップ・ステップ・ジャンプの本当に第一歩なのです。その次の段階は、どうか民間の力で、育ててやっていただきたいのです」

山本先生「だって、アカデミアの研究シーズがあるからこそ、大学から出てくる確率が高いのですから。我々は生み出すことに力を入れないと......」

起業を考える研究者の方たちに、ひとこと。
「研究成果が社会の役に立つかどうか、社会に発表する方法として起業が一番良い選択なのかどうか、よく考えてみてほしい」(寺西先生)
「我々はインキュベーターなので、ここからたくさん育ってほしいですね。そのためのできる限りのお手伝いはしたいと思います」(山本先生)

京大医学研究科が力を入れるイノベーションハブ京都。大学発ベンチャーがどんどん生まれてくるラボとして、今後も楽しみです。

☆イノベーションハブ京都_3人_800.jpg左から、山本先生、寺西先生、山口先生。イノベーションハブ京都が入る医薬系総合研究棟前にて