2021/06/04

ベンチャー企業を多面的に支援する都心の「シェアラボ」:Beyond BioLAB TOKYO

東京都心に近い日本橋にあるシェア型のレンタルラボ、Beyond BioLAB TOKYO。ライフサイエンス分野の研究開発に適した実験室や機器を揃えるだけでなく、「くすりの街」日本橋の地の利を活かし、事業化プログラムの提供やネットワーキングの支援など、ライフサイエンス領域のベンチャー企業を多面的に支援する、日本でも数少ない本格的なシェアラボだ。開業時から運営に携わるラボマネージャー、杉崎麻友さんに話を聞いた。

Beyond BioLAB TOKYO BNVラボ外観_画像1min.jpgBeyond BioLAB TOKYOエントランス


目次
  • 国内で希少な「シェアラボ」が都心に
  • ベンチャー企業に最適な共有設備
  • 多面的なネットワーキングの機会
  • シェアラボから飛躍するベンチャー企業

国内で希少な「シェアラボ」が都心に

こんな都会にレンタルラボがあるの?─そんな驚きをもって訪れたのが、日本ではまだ珍しいシェア型のレンタルラボ、Beyond BioLAB TOKYOだ。東京メトロ三越前駅から東へ徒歩3分の日本橋エリアは、江戸時代には多くの薬問屋が、現在は多数の製薬会社が本社を構える「くすりの街」。その一角にある「日本橋ライフサイエンスビルディング」の地下1階に、Beyond BioLAB TOKYOがある。

「ここはもとも大手製薬企業の建物で、その地下にあった食堂を改修してラボを作ったんです」。Beyond BioLAB TOKYOのラボマネージャー、杉崎さんは施設を案内しながら、そう教えてくれた。

「シェアラボ」とは、ラボスペースに加えて、ラボで使う基本的な機器類も備えたレンタルラボのこと。潤沢な資金がないベンチャー企業にとって、最初からすべての機器を自前で揃えてスケルトンのラボに入るのは難しいことも多く、米国などではシェアラボの活用がスタンダードになっているという。しかし、日本ではまだ、Beyond BioLAB TOKYOのような本格的な設備や環境を備えるシェアラボは数少ないのが実情だ。

また、規模の小さい企業が技術開発と事業化を同時に、効率よく進めるためには、研究部門とビジネス部門の距離が近いことも重要になる。「研究所が遠いと、商談のために都心に来て、また研究所に戻る必要があります。ラボが都心にあればその時間を節約できます」と、杉崎さんは都心型ラボのメリットを述べる。


杉崎様_800.pngBeyond BioLAB TOKYOのラボマネージャー、杉崎麻友さん。大学時代、ライフサイエンスの研究を行なっていた経験を活かし、共有機器の選定やメンテナンスから、入居企業の相談支援、イベント企画まで、Beyond BioLAB TOKYO運営の「要」だ。


ベンチャー企業に最適な共有設備

エレベータで地下へ降りると、目の前のガラス越しに広い実験室が見える。P1共通実験室だ。部屋の中には実験ベンチが6つの「島」にレイアウトされて並び、その奥にはP2共通実験室と3つの個室がある。ラボの入居者は、実験ベンチの1区画から個室まで、目的や規模にあわせて利用形態を選択できるようになっていて、短期間の試用から数年にわたる本格的なプロジェクトまで、さまざまなニーズに柔軟に対応できる。

P1共通実験室に隣接するエリアには、超低温フリーザー、クリーンベンチ、PCR、ゲル撮影装置、超微量分光光度計、遠心分離機など、入居者が共同で利用できる機器類がおかれている。これらの機器の選定にあたっては、大学でライフサイエンスを研究していた杉崎さんが、母校の研究室や他の研究室などにヒアリングを行ったそうだ。機器類の共有方法も工夫したという。「入居者の多くは基本的な知識をもっておられるのですが、それぞれ畑が違いますから。大学の先生にも話を聞きながら、どのような共有ルールを作ればいいのかを考えました」。


BBTラボ内観_800.jpg

フロアの中央にあるP1共通実験室。ガラス張りの部屋の中には実験ベンチが並び、さまざまな共有機器も隣接する。奥にはP2共通実験室、個室も備える。入居者はベンチの1区画単位から契約できる。


多面的なネットワーキングの機会

Beyond BioLAB TOKYOが提供するのは、実験環境だけではない。ラボを運営するBeyond Next Venturesが提供するさまざまな事業化プログラムを通じて、資金調達・専門家によるメンタリング・人材のマッチングなどの機会を得ることができる。Beyond Next Ventures は、研究シーズの事業化支援を行ってきたアクセラレータだ。

提供されるプログラムには、たとえば、Beyond社が運営するアクセラレーションプログラム「BRAVE」、経営人材とのマッチングプラットフォーム「Co-founders」がある。また、サイエンスやバイオベンチャーにまつわるトピックについて語るイベント「BEYOND LAB NIGHT」が定期的に開催され、ラボ内外の参加者・専門家とのネットワーキングを広げる機会になっている。これらさまざまなプログラムが、入居企業を多面的に支援する。

さらに、Beyond BioLAB TOKYOが入居するビル内には、一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)の事務局があり、近隣には製薬会社をはじめ、ライフサイエンス分野の企業や大学が多数拠点を構える。これらの組織・人との交流の機会は、ライフサイエンスの拠点・日本橋ならではの「地の利」だ。
「たとえば、上の階でLINK-Jさんのネットワークイベントや、近隣の会社や大学の研究者の講演が日常的に行われています。それらの方々と接する機会が豊富にあるのも、大きなメリットのひとつだと思います」。


BBT新年会_800.jpgラボ内の交流の拠点、オフィスエリア。定期的に「BEYOND LAB NIGHT」などのネットワーキング・イベントが開催されている他、ラボ入居者の日常のコミュニケーションの場にもなっている。2020年1月10日撮影。



シェアラボから飛躍するベンチャー企業

都心の利便性、豊富な共有機器、強力な支援プログラムとネットワーキング。国内には数少ない本格的なシェアラボ、Beyond BioLAB TOKYOには、起業フェーズのベンチャー企業が成長するための要素が揃っている。

「ラボを立ち上げる第一歩としてここを使ってもらって、アイデアを実現できるかどうか試して、実現できることがわかったら『卒業』していく。そんなふうに入居企業がどんどん入れ替わっていくのが理想です」と、杉崎さんが言うとおり、2019年春の開業から2年を経て、実際にここで成長し、事業を拡大する企業も出始めている。

たとえば、顕微観察デバイスの開発を行っている株式会社IDDKは、もともと外部に委託していた細胞観察用デバイスの撮影を自社で行うためにBeyond BioLAB TOKYOに入居した。本社は江東区にあるが、製造した細胞観察用のデバイスを共同研究先や顧客に見てもらうために都心のウェットラボを活用し、事業拡大につなげているという。

また、NEKO PHARMA株式会社は、東京都の創薬・医療系ベンチャー育成支援プログラム「Blockbuster TOKYO」の支援を受けてシェアラボに入居し、起業化を果たしたベンチャーだ。スキャフォールドライブラリのスクリーニングとバイスペシフィック抗体開発の事業は順調に成長し、近々Beyond BioLAB TOKYOを「卒業」して、独り立ちする見込みだという。

「シェアラボでは様々な会社と同居することになるので、ある面ではストレスもあるかもしれませんが、必ず新しい視野を得るきっかけがあると思います。ベンチャーの皆さんには、ここをうまく使って欲しいですね。私たち運営側も試行錯誤を重ねながら、その背中を押してあげられるような存在になりたいと思います」


ロゴ_杉崎様_800.jpgBeyond BioLAB TOKYOのエントランス。ラボのロゴマークは、杉崎さんが大学時代に研究していた、細胞の「中心体」をモチーフにしている。あらゆる方向へ微小管を伸ばす中心体のように、さまざまな会社が多方面へ羽ばたいていく起点の場にしていきたい、という思いが込められている。