2021/04/23

ゲノム編集をより実用的に、正確に。Nexuspiral株式会社

Nexuspiral株式会社はアカデミアで生まれたゲノム編集に関する研究成果を社会実装するために設立されたベンチャー企業。ノーベル化学賞を受賞した「CRISPR/Cas9」よりもさらに実用的で正確な希少疾患の根治療法の確立に挑んでいます。そんな同社が研究拠点として選んだのは、国内最大級のバイオメディカルクラスターとしても注目される神戸・ポートアイランドエリアに誕生したシェアラボでした。

masudamini.jpgNexuspiral株式会社 代表取締役 増田直之氏 

目 次

●アカデミア発の研究成果を社会実装するために

●将来の事業の成長にはネットワークが不可欠

●必要な実験機器が揃った研究環境

●初期投資を抑えられるシェアラボは理想的

 

アカデミア発の研究成果を社会実装するために

生物が持つ特定の塩基配列の情報を意図的に書き換える「ゲノム編集」技術。近年、農業、工業、医療など、幅広いシーンで研究段階から実用段階へと進み、そのさらなる応用が期待されている技術です。2020年には「CRISPR/Cas9」というゲノム編集手法を開発した2名の女性研究者がノーベル化学賞を受賞したことでも話題を呼びました。

顕微鏡で観察中のゲノム編集細胞の様子mini.jpg顕微鏡で観察中のゲノム編集細胞の様子

Nexuspiral株式会社は、そんなゲノム編集に新しいアプローチで取り組むスタートアップ企業。ベースとなる技術は、産業技術総合研究所・間世田英明博士が徳島大学在職中に発見した「ST法」で、それを応用することで遺伝性の希少疾患の根治療法を確立することに挑んでいます。特徴的なのはこれまで当たり前とされてきた外来タンパク質を必要とせず、オリゴ核酸のみでゲノム編集を可能にすること。CRISPR/Cas9と比べてもより実用的で、正確にゲノム編集を行えることから、医療者から大きな期待を集めています。

 

将来の事業の成長にはネットワークが不可欠

そんなNexuspiralが研究拠点に選んだのが、「スタートアップ・クリエイティブラボ(SCL)」でした。ここは、国内最大級のバイオメディカルクラスターとして注目を集める神戸の人工島・ポートアイランドに誕生したシェアタイプのラボ。研究機関、大学、高度専門病院、医療関連企業など、約370の企業・団体が集積する地に拠点を置いた理由を、増田直之代表取締役は次のように語ります。

003_1645_北西側外観min.jpg神戸医療産業都市のクリエイティブラボ神戸の2階にスタートアップ・クリエイティブラボはあります

「私たちのような創薬系スタートアップが、すべての研究開発を自社で実施するのは非現実的。たとえば、リスクヘッジのために複数の研究を同時に走らせたり、研究が進んだときにGLPに準拠した毒性試験を実施するといったときには、協力を仰げるパートナーの存在が欠かせません。このエリアには実績もノウハウも豊富な研究機関がたくさん進出していますし、コーディネーションを依頼できる仕組みも整っています。そうした事実は、拠点選びの際の大きなポイントになりました」

 

必要な実験機器が揃った研究環境

現在、NexuspiralがSCLで契約するのが1ベンチ&1デスクのミニマムなもの。しかし、リアルタイムPCRやオールインワン蛍光顕微鏡、安全キャビネットといった充実した実験設備のほか、会議室やキッチン、カフェスペースなど、共有施設を自由に利用することができます。「入居してまだ数ヶ月ですが、初期の研究環境としては非常に満足しています」とは、同社で実際に実験業務を担う矢島伸之主任研究員の声。

yajimamini.jpg主任研究員の矢島伸之氏

「他の研究者さんたちとスペースや機器を共有するので、実験ノートを開いたままにしておかない、実験後は元通りに片付けておくといったことに気を配る必要はあります。しかし、研究者にとってはそれよりも高額な機器を自由に使えるメリットの方がはるかに大きいと感じています。また、SCLには研究経験のあるラボマネージャーやラボアシスタントが常駐しているのも魅力です。私たちのリクエストにもきちんと耳を傾け、解決するためのアイデアを考えていただけるのでとても心強い存在です」

 

初期投資を抑えられるシェアラボは理想的

増田代表取締役は「ライフサイエンス系のスタートアップにとって、シェアラボは賢い選択肢だと思います」とつづけました。「この領域で起業しようとすると、理化学機器に試薬、そのほかの消耗品の購入、そしてそれらを設置するための工事など、とにかく初期コストがかかります。しかし、シェアラボなら、それらはほとんど必要なくなる。はじめようと思えば入居初日から実験を開始できますし、メリットは非常に大きいと思います」

masuda,yajimamini.jpg


また、コスト面以外の魅力も見逃せないポイントのようです。「私たちと同じようにSCLに入居する企業、いわゆる『お隣さん』との意見交換も有意義です。我々の技術に対するリアルなニーズを知れたり、コラボレーションの可能性を探れたり。これからも積極的に交流を図っていきたいですね」

オリゴ核酸で、ゲノム情報を書き換える。その実用化に向けた最低限のデータの取得はすでに終え、いよいよ遺伝性希少疾患への有効性を証明することを本格化していくNexuspiral。このシェアラボの小さなデスク、ベンチから、未来の医療がどんなふうに書き換わっていくのか。今からとても楽しみです。