2021/01/29

ディープテックも本質はものづくり。マイキャン・テクノロジーズ株式会社

京大桂ベンチャープラザに入居するマイキャン・テクノロジーズ株式会社は、iPS細胞など多能性幹細胞を使用した研究用血球細胞を作製、提供するバイオベンチャー企業。新型コロナウィルス研究用細胞の製品化にもいち早く成功した同社ですが、そのビジネスの成長には技術力だけでは足りなかったと明かします。

宮﨑和雄社長_写真.png               マイキャン・テクノロジーズ株式会社 代表取締役CEO 宮﨑和雄氏

目 次

  • 安定した品質で、研究に適した血球細胞を
  • 副業から専業、そしてラボ探しへ
  • 新型コロナウィルス研究用細胞の作製に成功
  • ディープテックだって、本質はものづくり

安定した品質で、研究に適した血球細胞を

製薬会社の研究員だった宮﨑和雄さんが立ち上げたマイキャン・テクノロジーズ株式会社は、大学や製薬会社などの研究機関に向けて、iPS細胞などの多能性幹細胞を使用した研究用血球細胞を作製、提供する事業を展開。人体から採取する血球細胞とは異なり品質が安定しているほか、人体からは取り出し難かった未成熟血球細胞も扱いやすくすることで、大きな注目を集めています。現在までにマラリアなどの研究用幼若血球細胞(Mpv細胞)、ウイルスや機能性材料を評価するための未成熟血球細胞(Mylc細胞)、そして新型コロナウイルス研究用細胞(cMylc細胞)の3つが製品化されています。

マイキャンテクノロジーズ_商品_low.png        当社の研究用血球細胞は従来の血液での評価に比べ 精度が格段に向上、コストも大幅に削減が可能

副業から専業、そしてラボ探しへ

同社を起業したとき、宮﨑さんはまだ前職の製薬会社に籍を置いていた頃。当時のことをこんなふうに振り返ります。

「事業のアイデアを思いついて、まず会社に相談したんですよね。でも薬をつくることがミッションの会社と、そのための試薬を開発したかった私では、少し方向性がずれていた。それで、会社の資産も、設備も、時間も使わないことを条件に、副業することを認めてもらいました」

起業してしばらくは、ある事業会社のラボを間借りしながら研究開発に取り組んでいた宮﨑さん。しかし、試作品の完成が近づくにつれて、新しい問題と直面することになりました。

「その試作品を顧客に提供するにあたって、きちんと対価を受け取りたかったんです。でも事業会社さんから間借りしている場所でつくったものを売るわけにもいかず、自前のラボを用意する必要が出てきました。潤沢な資金があったわけでもないので、ラボの条件は自宅のある関西圏で、とにかく安いところ。関西にあるバイオ系のレンタルラボは、すべてチェックしたと思います。当時はありませんでしたが、シェアラボがあれば本当にほしかったです」

新型コロナウィルス研究用細胞の作製に成功

関西圏にあって、少しでも安い場所。そんな宮﨑さんのレンタルラボ探しでしたが、実はそれとは別にこだわった条件がひとつあったと言います。

「将来の会社の成長を考えると、遺伝子導入実験がやがて必要になるだろうと考えていました。途中からP2の認可を取るのは非常に難しいので、すでに認可済みの施設に入るのが手っ取り早い。実はその点も重視していたポイントですね」

そして、そのこだわりが功を奏したのが2020年。きっかけは、新型コロナウイルスでした。

「実は前年の2019年から、遺伝子編集を行えるようにと、新しいP2実験室の準備をしていたんです。そこにやってきたのが、新型コロナウイルスの大流行。用意していた場所を転用することで、すぐに新型コロナウイルス研究用血球細胞の開発に取り掛かることができました」

緊急事態宣言期間中はメインクライアントである大学は閉鎖され、研究用血球細胞の注文が減っていたタイミング。研究スタッフのリソースを振り分けると、わずか5ヶ月という短期間で製品化まで結びつけることができました。

「現在は、必要とする研究機関に無償提供しています。少しでも早く治療法や、予防法が見つかることを祈っています」

マイキャンテクノロジーズ_ラボ_low.png               遺伝子組換えを行う実験室(京大桂ベンチャープラザ内)

ディープテックだって、本質はものづくり

2018年、3人で自社ラボを設置した同社は約3年の間にインターン生も含めて17人が働く場所へと拡大してきました。一見すると順調そうなその足跡。最も苦労されたのはいつですか?という質問に、宮﨑さんは微笑みながら答えました。

「レンタルラボに入って最初の一年は、本当に苦しかったですね。当たり前ですが、研究開発は計画通りに進むわけじゃありません。だけど、固定費や材料品はどんどんかさんでいく。それで新しい資金を調達しようと奔走するのですが、それもなかなかうまくいかなくて」

そんな時期に大きな支えとなったのが、京大桂ベンチャープラザを運営する中小機構の存在。地場でのコネクションづくりから資金調達のアドバイスまで、幅広いシーンでバックアップを受けられたと言います。

「スタートアップやディープテックと言えば新しく聞こえますが、私たちのやっていることは昔ながらのものづくりと同じ。設備投資をして、サンプルをつくって、買ってもらって......、そんなことはずっと以前からあったビジネスモデルなんですよね。そして、そうしたことに取り組む企業のための制度や仕組み、ノウハウは先輩たちがたくさんつくってきました。だからそれをいかに活用するか。それこそが自分たちのビジネスを成長軌道に乗せるためのポイントだと思っています」