2022/11/04

街づくりと一体となった「課題解決」のためのレンタルラボ〜「三井リンクラボ柏の葉1」

「世界の未来のための課題解決」を目指す街「柏の葉スマートシティ」に誕生したレンタルラボ、「三井リンクラボ柏の葉1」(千葉県柏市)。東京大学・千葉大学・国立がん研究センターなど国内有数のアカデミア・先端医療施設への近さと、柏の葉の街に醸成されつつある「公・民・学」の強力な連携を背景に、ライフサイエンス分野の企業を強力に支援する新しいオープンイノベーション拠点として活動を始めた。
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目次

  • 課題解決のまち「柏の葉スマートシティ」
  • 学民の距離が近い「シーズ近接型」レンタルラボ
  • ライフサイエンスは「オープンイノベーションが必須」の時代へ
  • 柏の葉の街を再生治療研究開発の一大拠点に
  • スタートアップを支援する研究開発環境を提供
  • 研究開発を超えた「出会い」のある街へ


課題解決のまち「柏の葉スマートシティ」

東京都心の秋葉原から「つくばエクスプレス」に約30分乗ると「柏の葉キャンパス駅」に着く。駅の改札を出て少し歩くと、商業施設や住宅の街並みの中に、大学のキャンパスや研究・医療機関の建物があることに気がつく。「柏の葉スマートシティ」と呼ばれるこの街は、「公・民・学」の強力な連携をベースに、オープンなプラットフォームを通じて「世界の未来像」を具現化しようという、全国でもユニークなコンセプトのもとに作られた新しい街だ。

「柏の葉の街づくりは、もともとこの場所にあった東京大学や千葉大学と、柏市などの行政、われわれ三井不動産が一緒になって、世界の先駆けとなる街を作ろう、という大きな目標のもとにはじまったんです」。

そう説明するのは、三井不動産株式会社・柏の葉まちづくり推進部の野村俊之さん。武田薬品工業で長年、医薬品の研究に携わり、産学官の連携拠点「湘南ヘルスイノベーションパーク」でオープンイノベーションを推進してきた経験と実績を持つ。「柏の葉の街づくりの基本となっているのは、『課題先進国日本』を『課題解決先進国日本』に変えようという思いです」

「未来のため、世界のための課題解決」にむけて、柏の葉スマートシティが掲げるテーマは「新産業創出」、「健康長寿」、「環境共生」の3つ。それぞれの分野で、研究者、企業、行政、住民が一体となった新しい取り組みをおこなっている。たとえば、新たにモビリティ研究のためのテストコース(KOIL MOBILITY FIELD)を作り、自動運転・遠隔運転の技術を開発支援したり、自動運転バスを実際のバス路線上で走らせたり、太陽光パネルとスマートグリッドを使って有事の際の街の電力の確保や平常時は電力を近隣の商業やオフィスビルで効率的に使用する、といった実証実験が、これまで街ぐるみで行われてきた。

 また、健康分野では、生活者の暮らしがより健康的でスマートになるためのサービスを提供するためのポータルサイト「スマートライフパス柏の葉」を提供している。ここでは参画企業との連携で食事管理や医療相談、自身の健康データ管理などのヘルスケアサービスを提供している※。実証の参加者を本ポータルで募集し、住民に「Fitbit」を装着してもらい、歩数や睡眠などの活動データと心拍などのバイタルデータを記録して、寝具と睡眠の質を分析するプロジェクトもおこなわれている。

NTTデータ、NTTドコモ、リンクアンドコミュニケーション、メディカルノートなどがサービス提供パートナーとして参画。

 「スマートライフパス柏の葉」にはこの街の人口約5万人のうち、現在約2,000 人の方に登録いただいています。駅前の街づくり拠点にITコンシェルジュが常駐し、サービスの意義やプライバシーに関する説明もしながら、安心して参加できる工夫もしています。その結果、若い方から高齢者まで幅広い方々に参加してもらえるようになりました」。

 このような取り組みは、街づくりを、そのコンセプト段階から「公・民・学」が一体となって進めてきたからこそできる、新しい「課題解決」の手法といえる。柏の葉の街の取り組みに関心をもち、その活動に参画する企業も増えつつあるという。

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柏の葉スマートシティ。「新産業創造」「環境共生」「健康長寿」の3つのテーマを掲げ、この街に集う大学・研究機関、民間企業、行政、住民が一体となって「世界の未来像」を具現化することを目指す。


学民の距離が近い「シーズ近接型」レンタルラボ

このように、公・民・学のさまざまな人・組織が参加する新しい街づくりの中で、「次の産業」の中核として期待されているのがライフサイエンス分野だ。このエリアには、東京大学柏キャンパス、千葉大学柏の葉キャンパス、国立がんセンター東病院があり、近隣には筑波大学もある。これらの大学・医療機関での研究を「シーズ」としたベンチャー企業も出はじめているという。そのようなライフサイエンス・ビジネスの胎動の中で、企業がさらに成長する場として作られたのが、「三井リンクラボ柏の葉1」だ。

「このエリアには起業のための公的なインキュベーション施設もありますが、ライフサイエンス分野の企業がさらに事業規模を拡大しようとする時、その成長に応じたレンタルラボがあることはとても重要です。また、ここは国立がんセンターのすぐ隣で、東京大学柏キャンパスも近いので、これらの機関と共同研究を行うためには素晴らしい立地です」

「リンクラボ柏の葉1」の特長を、野村さんはそう説明する。そして「シーズ近接型」のラボは、オープンイノベーションの実現にもとても重要だ、と続ける。

「たとえば、米国のボストンは、ひとつの街の中にハーバード大学やMITといった大学があり、マサチューセッツ総合病院など研究を行っている病院もあります。そして、それらの大学・医療機関から出てくる新しいアイデアを具現化するベンチャー企業もどんどん出てきています。大学や研究機関のすぐ近くに起業する場所があるという環境は、新しいライフサイエンス産業の創出にとって、すごく大事なことだと思います」

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「リンクラボ柏の葉1」の企画・運営を率いる三井不動産株式会社・柏の葉まちづくり推進部の野村俊之さん。


ライフサイエンスは「オープンイノベーションが必須」の時代へ

「リンクラボ柏の葉1」の「地の利」を活かし、学民が一体となった取り組みに先陣を切って取り組むのが、最上階の6階フロアに入居する「FS CREATION」だ。 「FS CREATION」は、東京大学の藤田誠卓越教授、佐藤宗太特任教授らのアカデミアグループと、国内の3大分析機器メーカー(日本電子、リガク、島津製作所)などの民間企業がタッグを組むオープンイノベーション拠点。藤田教授は分子構造解析の100年問題を解決する「結晶スポンジ法」を開発し、この分野で世界的に知られる研究者だ。「FS CREATION」は、藤田教授の分子構造解析技術を中核に、大学と民間企業が一体となった新しい産業技術の創出を目指している。

「藤田教授は以前から企業の方々と連携した研究活動を行われていますが、それをさらに発展する場、あたらしい共創の場として、リンクラボを選んでいただきました。一方、企業の方々にとっても、新しい解析手法をいち早く自分たちの製品に取り入れられることは、大きなメリットになると思います」

リンクラボの6階で活動する「FS CREATION」は、そのフロア設計にもオープンイノベーションを促す様々な工夫が取り入れられている。大学の「アカデミアラボ」と各企業が合同で入居する「開発ラボ」はすべてガラス張りになっていて、お互いの活動をいつでも見ることできる。それら2つのラボの間には、「ラボ・リビング」と呼ばれる、広い共有空間があり、日常的な会話や情報交換を繰り返しながら、大学・企業の枠を超えたオープンイノベーションが推進されている。このようなフロア・レイアウトもまた、研究者と建築家がお互いに知恵を出し合って設計したものだ。「FS CREATION」には、分析機器メーカー3社以外にも、食品メーカーや製薬企業など数多くの企業が共同研究者として参加し、オープンなフロアで、大学のスタッフと一体となって研究活動を行っている。

「各企業はお互いにライバルという面もあるのですが、あるところまではお互いに情報を開示して一緒にアイデアを出していきましょう、という動きも進んでいます。欧米では2000年頃からすでに、そのようなコラボレーションが広がってきました。日本でも、以前に比べると、共創による研究開発は進みつつありますが、欧米に追いつくには、もっと進める必要があると思います」

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リンクラボ柏の葉1の6階に入居する「FS CREATION」。東京大学の藤田誠卓越教授と佐藤宗太特任教授を中心とするアカデミアグループと、国内3大分析装置メーカーを中心とする民間企業が集う、ライフサイエンスの基盤研究を行うオープンイノベーション拠点だ。ガラス張りのラボや広い共用空間など、大学・企業間を超えた交流を促すフロア設計が取り入れられている。


このようなコラボレーションの動きの背景にあるのは、ライフサイエンス分野では、単独の企業が解決できる課題はすでに解決されてしまっていて、残っているのは非常に困難な問題しかないという現実がある、と野村さんはいう。

「たとえば、再生細胞医療や遺伝子治療や、最近ワクチンで話題になったm-RNA医薬品など、『ニュー・モダリティ』と呼ばれるこれまで利用できなかった技術を医薬品として使おうという取り組みが始まっています。そういう分野にチャレンジするのは、一社だけでは限界があります」

この状況を打開するためには、研究から製造までの医薬品開発のあらゆるステップで、それぞれを得意とする企業と協力しながら次のステップへ進む、という連携が非常に重要になってくる、という。

「もはや製薬メーカーだけでは最新の研究をフォローしきれなくなっています。これからの事業モデルは、研究を行っているアカデミアが知見や技術を提供して、製薬メーカーやベンチャー企業と提携しながら開発までもっていく、というものにならざるを得ません。そういう共創が必須な時代に、すでに入っていると思います」


柏の葉の街を再生治療の一大拠点に

「リンクラボ柏の葉1」に隣接する国立がんセンター東病院では、日々さまざまな臨床試験が行われている。中でも最近注目が高まっているのが再生細胞医療の分野。その代表が、患者自身の免疫細胞を増やしてがんを攻撃させる「免疫細胞療法(CAR-T細胞療法)」だ。免疫細胞療法の臨床試験では、薬事承認や品質管理のルールに従って細胞を増やすことが必要になるが、これは大学・研究機関の知識や知見だけでは難しい。

「正しい手順に従わないと臨床試験の実施が認められません。また、手順通りにやっても実際に細胞を増やせないこともあります。臨床試験を行う先生たちは医薬品の効果を確かめる専門家であって、細胞を増やす専門家ではありません。事業化まで考えるとなると、さらに別の知見が必要になってきます」

この課題を解決する新しい取り組みを「リンクラボ柏の葉1」を拠点に始めようとしているのが、帝人、ジャパン・ティッシュエンジニアリング、三井不動産、国立がん研究センターの4者が共同で起ち上げた「再生医療プラットフォーム」だ。同プラットフォームが目指すのは、柏の葉エリアを再生医療の研究・開発から事業計画策定、薬事申請までの過程をワンストップで実現できる再生医療の一大拠点にすること。今後、リンクラボに入居を予定する他の企業(たとえば、再生細胞治療の品質試験の受託サービス行う「HUセルズ」等)とも連携を進めながら、「再生医療プラットフォーム」事業を拡大していく計画だ。

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帝人、ジャパン・ティッシュエンジニアリング、三井不動産、国立がん研究センターの4者が共同で起ち上げた「再生医療プラットフォーム」は、柏の葉エリアを再生医療の一大拠点にすることを目指し、リンクラボを拠点に活動を始めた。


スタートアップを支援する研究開発環境を提供

このように、柏の葉スマートシティでは、ライフサイエンス分野の「新産業創出」にむけた、新しい公・学・民の「共創」がうまれつつある。その一方で、解決しなければならない課題も見えてきた。そのひとつが、スタートアップ企業の成長を後押しする、適切な支援だ。一般に、ライフサイエンス分野の企業が研究開発を進めていくためには非常に高額な機器が必要になる。これは、特にスタートアップ企業のような資金力が十分ではない企業にとって大きな障壁になっている。この課題を解決するため、「リンクラボ柏の葉1」では、入居者がすぐに使える共用の研究開発環境を提供する計画を進めている。

「リンクラボの中にスタートアップ企業向けの区画を作って、そこに研究開発に必要な機器を用意しようと計画しています。私たちが適切な研究開発環境を提供することで、スタートアップの後押しをしてあげたい。ライフサイエンスの研究開発に何が必要かはよくわかっているつもりですので、ベンチャーの方々に喜んでもらえる場を提供できると思います」

そう語る野村さんの言葉には、これまで製薬メーカーで研究開発や実用化に携わってきた経験に裏付けされた自信が感じられる。野村さんの「経験と知恵」は、リンクラボの入居者にとって大きな支えになるだろう。


研究開発を超えた「出会い」のある街へ

「リンクラボ柏の葉1」の一階には、食事もできるカフェテリアが設置され、入居者だけでなく、隣接する国立がん研究センターのスタッフなど、外部の人も自由に利用できるようになっている。このような「オープンな環境」が、さらに新しい出会いと共創を生みだすことを期待している、と野村さんはいう。

「ここのカフェテリアだけでなく、柏の葉キャンパス駅前にも小さな『飲み屋』が並んでいます。そういう場所でアカデミア研究者と民間の方が偶然出会って、気軽に話をして、そこから新しいコラボレーションが生まれるかもしれません。そのような機会と環境があることも、街づくりと一体となった柏の葉の大きな魅力だと思います」

野村さんは、ここにやって来た人たちすべてに「楽しく研究ができる環境」を提供したいと、リンクラボ柏の葉1への思いを語る。

「研究だけではなく研究を終えた後の交流も通じて、他の人とのネットワークを築いて、自分の研究や自身のキャリアを拡げていける、そういう場所にしたいですね。『リンクラボに来てよかった』と思ってもらえるような環境を作るのが、私たちの使命だと思っています」

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「リンクラボ柏の葉1」1階にあるカフェテリア。入居者はもちろん、外部の人も自由に利用できる。国立がん研究センターなど近隣の研究者と入居企業の人々が自然と交流する場となることを目指す。

お問い合わせ

お問い合わせ先:三井不動産株式会社
お問い合わせ方法:電話、お問い合わせフォーム
電話番号:0120-49-3131
メール:ls_linklab_all@mitsuifudosan.co.jp
お問い合わせフォーム:https://www.mitsui-linklab.jp/project/kashiwanoha.html
空室情報:直接お問い合わせください。