2020/12/08

新型コロナ検査キットで800%の資金を調達!株式会社ビズジーン

大阪大学産業科学研究所 企業リサーチパークに入居する株式会社ビズジーン。同社は、大阪大学産業科学研究所での研究成果を実用化するために生まれた、大学スタートアップ企業です。あらゆる遺伝子情報を可視化するという独自技術を武器に、新型コロナウィルス(COVID-19)感染症でも注目を集める企業の今と、これからとは?

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株式会社ビズジーン 開發邦宏 代表取締役

目 次

●あらゆる遺伝子情報を可視化する、大学発スタートアップ

●実験許可が下りるまでの空白の4ヶ月

●心強かったマーケティング面でのサポート

●新型コロナ検査キットは、800%の資金を調達

 

あらゆる遺伝子情報を可視化する、大学発スタートアップ

株式会社ビズジーンで代表取締役を務める開發邦宏さんは、大阪大学産業科学研究所、大阪大学微生物病研究所、国立感染症研究所、タイ保健省などとの共同研究も実績豊富な、遺伝子解析のスペシャリスト。近年、感染の拡大が深刻化しているデング熱の簡易検査キットは臨床治験がすでに開始され、世界からの期待も集める研究者でもあります。そんな開發さんが大阪大学発のスタートアップとして2018年に立ち上げた同社では、「ミル・シル・カエル」を理念に、あらゆる遺伝子の情報を目的に応じて可視化。リスクやベネフィットを知ることで、人々の生活をよりよく変えるための技術とサービスを提供しています。

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実験許可が下りるまでの空白の4ヶ月

創業して3年目を迎えた今、同社は遺伝子情報の可視化技術を武器に、ヒトや家畜に対する病原体の検出技術開発、果実の新しい保存法の確立、酵母やヒトの遺伝子解析など、幅広い分野で第一線を走っています。しかし、すべてが順風満帆に進んだわけではありません。特に起業当初は予想外の状況に陥ったと開發さんは振り返ります。

「実験排水の許可、病原体の使用許諾が出るまでに時間がかったんです。当初は2ヶ月くらいかなと想像していたのですが、実際は4ヶ月以上。その時点でこれまで勤めていた大学はすでに辞めていた。ラボはすでに契約している。スタッフも雇っている。しかし、研究はできない。本当に途方に暮れましたね」

しかし、そこは幾多もの難問をひらめきで解決してきた、百戦錬磨の研究者。転んでもただでは起き上がりません。

「実験排水を出せない間、病原体を使わずに、遺伝子に関わることを研究する。悩んだ末にたどり着いたのが、お酒の強い・弱いを遺伝子的に検査できるキットの開発でした。おかげでなんとか食いつなぐことができました」

 

心強かったマーケティング面でのサポート

同社が入居する企業リサーチパークは、入居企業へのサポートが手厚いことでも知られるインキュベーション施設。創業間もない同社も、マーケティング面を中心にさまざまなバックアップを受けてきたと言います。

「営業のことはほとんど素人に近い状態でしたらから、販路開拓を手伝ってもらえることは心強かったですね」

なかでも貴重だったのが、展示会への出展の支援だったそうです。

「大学発のスタートアップなので、技術面には自信がある。それをアピールすることはできるのですが、それと市場のニーズが一致するかは別物ですよね。そのあたりの感覚を得て、どのようにすれば話を聞いてもらえるか、商談につなげられるか、少しずつチューニングしていく。その訓練をする場所としても展示会に参加したことは大きかったです。もちろん、のちのパートナーとなるような企業ともたくさん出会うことができました」

 

新型コロナ検査キットは、800%の資金を調達

入居する施設からの支援を受けながら、順調に販路を拡大。そしてさらなる成長を期した今年、大きな出来事がありました。それが、新型コロナウィルス(COVID-19)感染症の流行です。

「私たちの技術があれば、現在のPCR検査よりも簡単に陽性かどうか調べられるキットをつくれる。じっとしていられませんでした」

しかし、当時はまだ流行の初期段階で、国の補助金制度も整っていませんでした。開發さんは銀行に融資を求めますが、断られてしまいます。そこで目をつけたのが、クラウドファンディングでした。

「銀行に断られた翌日には、プロジェクトチームを立ち上げました」

自分たちが動かなければ。その一心で挑戦したクラウドファンディング。その結果は目標金額の300万円に対して、2,500万円を超える支援を獲得。目標の800%でのプロジェクト成立になりました。

「支援してくださった方おひとりずつのコメントを読んでいると、目頭が熱くなります。自分たちのこれまでの研究が、これほど世の中から必要とされている。本当に嬉しかったです」

同社が開発に取り組んでいる検査キットは、使い切りのタイプで、唾液をたらすだけで陽性判定できるというもの。実現すれば、インフルエンザのようにすぐに調べられると言います。現在は、来年の販売開始に向けた準備を着々と進めているところ。すでに数十万単位のオーダーが届いているそうです。

「ミル・シル・カエル」を理念に掲げる同社。その未来は、この小さなレンタルラボから確かに変わりはじめているようです。そして開發さんは、取材の最後にこんな言葉を残してくれました。

「大学での仕事に区切りをつけ、研究開発型ベンチャーを起業する。自分も、家族も、不安でいっぱいでした。だけど、社会に求められる技術を持っていれば、リスクだけを特別意識する必要はない。今も、大学にいた頃と同じように研究はできている。研究費も下りている。論文も書けるし、特許だって取れている。軸足の置き場所が、学術ではなくなっただけ。これからは、ビジネスという舞台で、世の中の役に立っていきたいですね。

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