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2022/12/23

乳幼児期からはじめる生涯の健康づくり―日本人乳幼児専用腸内細菌データベースの構築~次世代の体と心の健康を目指す2大学・3企業の共同研究~ 終了

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2022年1017()に「乳幼児期からはじめる生涯の健康づくり―日本人乳幼児専用腸内細菌データベースの構築~次世代の体と心の健康を目指す2大学・3企業の共同研究~」が大阪健都会場とオンラインのハイブリッドにて開催されました。

今回は、最新の研究成果や連携・開発の経緯、そして今後の展望等について、詳しくお話をお伺いいたしました。こちらのレポートでは、当日のお話の一部をご紹介させていただきます。


目次

・京都大学 大学院 教育学研究科 教授 明和政子氏 プレゼンテーション
・大阪大学 大学院 医学系研究科 特任教授 萩原圭祐氏 プレゼンテーション
・株式会社サイキンソー 取締役CSO 竹田綾氏 プレゼンテーション
・トークセッション

京都大学 大学院 教育学研究科 教授 明和政子氏 プレゼンテーション

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明和氏:
私は、「ヒト」という生物が、ヒト特有の脳や心をどのように獲得していくのか、どのように創発させていくのか、ということを、概念ではなく科学的な手法で明らかにしたいと追究してきました。
ヒト特有の脳や心の働きが、長い進化の過程でどのように、そして、なぜ獲得されてきたのかを考えることは、ヒトという生物が本来どのような環境に適応しながら生きてきたのか、進化してきたのかを探る非常に重要なヒントを与えてくれるものだと思います。そのようなヒト特有の脳と心の成り立ちについて、様々な分野の研究者の方々と集い、議論し、人間理解のための新しい学問領域を拓く努力をして参りました。

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明和氏:
脳の発達には「感受性期」と呼ばれる、環境の影響を受けて脳がとりわけ顕著に変容しやすい期間があります。実は最近、腸発達にも「感受性期」が存在するということが分かってきました。その腸の「感受性期」をどう過ごすかが生涯にわたる心身の健康を左右する、ということです。
さらに、近年、個人が生涯持つ腸内細菌の環境の原型が、実は3歳から5歳ぐらいで形成されるということが分かってきました。
例えば、大人になってからも「腸活」などを通して食べるものを変えることで、確かに腸内細菌は変化します。しかし、原型は変わらない、という事実はとても重要なポイントです。そこで私は、本人が持つ腸内細菌の特性や、日本の子どもたちが腸内細菌の感受性期をどのように過ごしているのかを科学的に調べることが重要だと考え、萩原先生、竹田様、そして京都大学COI拠点研究推進機構のメンバーと一緒に、これまで4,000組以上の日本人の乳幼児とそのお母様にご協力いただき、腸内細菌と精神機能、身体的な特徴、脳の発達などに関するデータベースを作ることに成功しました。

大阪大学 大学院 医学系研究科 特任教授 萩原圭祐氏 プレゼンテーション


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萩原氏:
私が漢方内科に移った2011年ごろは、超高齢社会と急激な少子化、この二つの大きな問題に日本が直面している状況でした。 
Society5.0が進んだことで先進医学が発達してきていますが、一方で、伝統医学の中には人類が引き継いできた深い知恵があります。先進医学・伝統医学の二つを合わせた融合医学を創ることによって、例えば牛車腎気丸や癌ケトン食療法のようなレジリエンンスの評価システムを構築し、フレイル、がん、少子化の問題に立ち向かっていきたいと私たちは考えています。

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萩原氏:
現在、少子化の問題は、不妊、育児ストレス、そして発達障害の問題を内包し、大変深刻であると認識しています。特に育児ストレスの問題は、子どもの愛着形成にも深く関わってくるため、母親がストレスなく元気かどうかは、子どもたちの発育にとても大切です。
実は、育児ストレスの問題にも含まれる産後うつは、現在増加・重症化傾向にあり、さらにうつ状態の長期化が懸念されてきています。
この産後うつの検出は大変難しいのが現状です。出産は人生において一番幸せな時期である、という思い込みから、「つらい」という言葉や感情を母親が発しにくく、またうつ症状があっても40%近くは無自覚であり、たとえ自覚のある方でも半数以上の方が専門機関を受診されていないことがわかっています。
こういった診断の難しい産後うつの問題を解決するためにも、産後女性の身体評価やレジリエンスの概念のエビデンス化を目指して、現在、明和先生、株式会社サイキンソーさまと共同研究を進めています。

株式会社サイキンソー 取締役CSO 竹田綾氏 プレゼンテーション

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竹田氏:
弊社は、腸内フローラを中心とした細菌叢のデータを活用することで「次世代のライフスタイル」を提案するプラットフォームになることを目指しています。
腸内細菌とは、大腸に住み着いている微生物群で、その数は約100兆個と言われています。腸内で食べ物や菌が生成する物質、また人が出すものの栄養素を奪い合うような生態系が私たちのお腹に中に存在します。
現在、腸内細菌がなぜここまで注目されているかというと、様々な疾患や健康状態と関係があると言われているからです。大腸がんや潰瘍性大腸炎のような大腸に関わる病気だけではなく、免疫疾患や心臓、循環器系の病気など他の臓器にも影響を与えることも分かってきています。
また、腸脳相関という点で、精神状態や認知にもかなり影響を及ぼしあっているということも明らかになりつつあります。

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竹田氏:

弊社は国内で初めて一般向けに腸内フローラの検査を開発した会社です。
個人の便を解析し、便の中の細菌が持っている DNA の配列、ATCGの配列を解析することで腸内に様々な菌がどのぐらいの割合でいるか、ということを解析します。
この解析手法を使って解析した腸内フローラの結果データをお返しするのと同時に、別途被験者からは生活習慣、どういうもの食べているか、どういう体質かなどに関する情報をいただいています。このいただいた情報から、生活習慣と腸内環境との関係性を調べるためのデータベースを現在構築しています。

トークセッション

イベント後半ではトークセッションとして、共同研究に至った経緯、そして今後の展望について、詳しくお話をお伺いいたしました。また、共同主催者である京大オリジナル株式会社坂越圭名子氏より、「ベンチャーとの連携」に関する現状と論点について説明しました。

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坂越氏:
各大学のベンチャー支援の拡充の影響もあり、大学発ベンチャーは2021年度に過去最多となっています。その輩出数は、東京大学、京都大学、大阪大学がトップ3ですが、慶応大学など、他の大学発ベンチャーの増加数も相当伸びてきています。
一方明和先生も所属されている「京都大学こころの科学ユニット産学連携コンソーシアム」をはじめとした「こころの科学」に関する産学連携プロジェクトが各大学で進められており、そのような中から、心理学と情報科学の融合から生まれた京大発ベンチャー「株式会社京都テキストラボ」なども生まれています。
また、今回ご登壇の萩原先生が代表取締役を務める予定のベンチャー企業 株式会社ヘルスクリエイトも、今年11月に立ち上がる予定です。

(参考)

京都大学こころの科学ユニット産学連携コンソーシアム

https://www.kyodai-original.co.jp/?page_id=12841

株式会社京都テキストラボ

https://www.kyototextlab.com/

Q:今回進められている共同研究、またその他独自に進められている研究を進めることにより、私たちをどんな未来に導いてくれようとされているのか、是非お聞かせください。

竹田氏:
先ほど紹介した子ども専用の腸内フローラ検査サービス「マイキンソーキッズ」も始まったばかりです。今日ご参加の皆さんが「少し興味があるから検査してみようか」といった気軽な気持ちで試していただければ、得られた情報を我々が調べ、それを検査サービスの高精度化などに活かしていきたいと考えています。
また、国内外で進められている様々な研究を吸収し、スタートアップとしてより早く研究を社会に実装していくことが、私たちの使命だと思っています。これら様々な研究を「マイキンソーキッズ」などに盛り込んでいけたらと思っています。

萩原氏:
私が懸念しているのは、朝ご飯とみそ汁を食べて子どもたちと一緒にお風呂に入って一緒に寝る、そんな今まで当たり前だった生活が、当たり前ではなくなってきているという現実です。もう一度「生活」を再構築していくことが必要なのではないかと思っています。
現在デジタル化の流れも加速していますが、腸内フローラの解析や、レジリエンスの検討を進めていくと、私たちの基本的な生活とはなにか、という部分を共同研究から得られたデータが明らかにしてくれていると感じています。こうした明らかになってきている情報を、できるだけ正しくみなさまにお伝えすることで、みなさまが考えるきっかけを提供できたらなと思っています。

明和氏:
一つ目は、皆様ご存知のように、日本でも「こども家庭庁」が4月から発足します。私は就学前の子どもたちの健やかな健康のガイドラインづくりに関わっており、こども家庭庁の準備室の皆様とも様々な議論を重ねていますが、エビデンスを重視する流れに変わってきていると感じています。従来の保育教育、概念的な部分で子どもの健やかな育ちを守ろう、ということではなく、子どもを守るためには親の心と身体の健康を守らなければいけない、という考えに変ってきていますし、それを証明するエビデンスを私たちは持っています。また、子どもを「社会全体」で育てるための方針や方向性を決めるためのエビデンスも出てきています。日本が次世代という国の宝をしっかりと守っていくという向き合い方は、これまで以上に大きく変わってくるのではないかと私は期待しています。是非みなさまも推移を見守っていただきたいなと思います。
二つ目は、経済的価値を高める、ということです。子どもを守る、健やかに育む、という、今まで福祉に頼りがちだった側面を、経済的価値として日本がしっかりと進めていくことができたら、と思っています。
子どもの脳は大人のミニチュア版ではありません。全く異なる視点で子どもたちを守るということが大事であり、そのエビデンスはすでにあります。こういったところから、新しい市場開拓につながっていければと思っているところです。
まだまだ道のりは遠いですが、科学者・研究者の方、企業の皆様、そして常に現場で子どもも親も守ってくださっている福祉関係の方、この三位一体の取り組みの中で、日本の苦しい子育て環境の現状をぜひ変えていきたいと思っております。

最後に

当日、質疑応答ではご参加のみなさまからも多数ご質問もいただき、大変盛り上がるイベントとなりました。ご参加いただきましたみなさま、ありがとうございました。

京都リサーチパークでは、今後も様々なセミナーを開催してまいります。ご興味のあるものがございましたらみなさま是非ご参加くださいませ!

(一部文責:京大オリジナル株式会社)

<「株式会社サイキンソー」のご紹介>
会社名:株式会社サイキンソー

「細菌叢で人々を健康に」
菌叢データから「次世代のライフスタイル」を提案するプラットフォームになる
https://cykinso.co.jp/

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