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通勤電車の中で眠る人々の姿。日本ではごく当たり前の光景だ。社会の高度な発達は人々を幸せにするはずだった。しかし、現代社会では5人に1人が睡眠に問題を抱え、時には人命にかかわる重大な事故さえ招いている。


■睡眠とは何か?
新幹線の緊急停止など睡眠障害による事故は記憶に新しい。このような産業事故、工業事故の要因の多くが居眠りによるものだという。意識の無い睡眠中に起こす事故…それを本人の責任と断言できるだろうか?居眠りの原因は何だったのか?それを分析すべきではないか。そもそも、なぜ人は眠らなければならないのか?10時間寝てもすっきりしない場合もあれば、20分の仮眠ですっきりする場合もある。眠っている間、脳ではいったい何が起きているのだろうか?そんな疑問に対する答えを裏出は探していた。
寝つきが悪い、眠れないといった悩みをもつ人が病院に行くと睡眠薬を処方される。そして、睡眠薬を飲んだ人は意識のスイッチを切られたように眠る。では、睡眠薬による眠りは本当に睡眠なのだろうか?睡眠薬を飲ませて金品を盗む昏睡強盗のニュースを耳にされたことがあるだろう。その被害者が冬の野外に放置され凍死した事件があった。通常の睡眠の場合、寒くなればくしゃみをして目が覚める。また、大きな物音がすれば飛び起きる。天敵に襲われる心配のない人間ならまだしも、小動物が睡眠中にすべての感覚を失うと生命の危機に直面する。そして、水中で生活するイルカやアザラシを睡眠薬で眠らせるとおぼれる。人の場合も、通常の睡眠と睡眠薬を服用して眠った場合の脳波は違う。「睡眠薬による眠りは昏睡であって、本当の眠りではない。眠りと昏睡はあきらかに違う」。裏出は重大な事実に気がついた。こうして、彼らの研究が始まった。


■睡眠物質の発見
眠らないと睡眠物質が脳内に蓄積する。これは約100年前に名古屋医専の石森国臣博士により、世界で初めて報告された。彼は、長時間断眠させたイヌの脳脊髄液を別のイヌに投与すると、そのイヌが眠ることを証明した。その後の研究で、動物の脳や血液、尿などから、約30種もの睡眠物質が報告された。そして1982年、京都大学医学部の早石修教授(現・大阪バイオサイエンス研究所理事長)が、数ある睡眠物質の中で最も強力なプロスタグランジンD2の睡眠誘発作用を発見した。
意識 裏出はその睡眠誘発の作用機構の解明を進める研究に参加し、1年半かけてプロスタグランジンD2を合成する酵素の構造を突き止める。「プロスタグランジンD2を合成する酵素がある場所を特定できれば、そこが睡眠を調節するセンターだ」。予想ではプロスタグランジンD2は睡眠調節を行う神経細胞でつくられるはずであった。しかし、ラットの脳を使ってプロスタグランジンD2の合成酵素を染色したところ、脳の中が染まらない。かわりに脳の縁、すなわち、従来ただの「脳の皮」と思われていたクモ膜が染まったのだ。予想は大外れだったが、裏出は睡眠のメカニズム解明へ大きな一歩を踏み出した喜びで鳥肌が立つのをおぼえた。「睡眠物質はクモ膜で作られ、脳脊髄液に分泌されて、脳内を循環するいわゆる睡眠ホルモンである。これを人工的に合成することができれば、本当に安全で効果的な睡眠薬をつくることができる」。裏出の睡眠研究はさまざまな可能性を見せ始めた。

■コロンビアの悲劇、そして再起
1993年、裏出はプロスタグランジンD2の合成酵素がクモ膜で作られるという研究成果を論文で発表した。以後、合成酵素のない遺伝子操作マウスを開発、睡眠の状態がどう変化するかを研究し、様々な研究成果を挙げてきた。合成酵素の結晶構造解析も進み、2003年には、スペースシャトル・コロンビアを舞台とした合成酵素の結晶化実験に参加した。地球周回軌道上の無重力環境を利用した蛋白質結晶化装置がコロンビアに搭載され、合成酵素の結晶化が行われた。打ち上げは順調だった。コロンビアからは毎日「実験装置はすべて順調」という知らせが入っていた。そして、コロンビア帰還後の実験準備が進んでいた。しかし、帰還の最終段階でコロンビアは空中分解を起こした。打ち上げの際に剥離した断熱材がシャトルに致命的な損傷を与えたためだった。実験試料はもちろん、7名の乗務員の命もすべて失われた。宇宙実験に命を捧げ、志なかばに終わった乗務員の無念を思うと胸が詰まった。「研究を続け謎の解明に挑戦することが科学者の使命だ」。コロンビアの悲劇の翌日、彼らの酵素は再びロシアの無人宇宙船プログレスで打ち上げられ、国際宇宙ステーションを用いた宇宙実験が行われた。以後、無重力環境での合成酵素の結晶化実験が継続されている。合成酵素の高品質の結晶ができれば、X線結晶解析という方法で精密な立体構造を決められる。酵素が睡眠物質を作る構造がわかれば、眠気を食い止める薬を理論的に設計できる。コロンビアの空中分解という予期せぬアクシデントはあったが、裏出たち研究チームは一歩一歩、睡眠の解明に近づいている。


■「睡眠計」も夢ではない
現在、KRP内にある大阪バイオサイエンス研究所京都研究室では、マウスやラットを使って睡眠状態を測定する実験が行われている。実験動物用の睡眠解析ソフト・Sleep Signでは脳波や筋電図を表示・記録するだけでなく、睡眠経過図やビデオ画面の表示・記録ができる。これを用いて眠りの状態を数値化できるという。これまでの睡眠薬や睡眠導入剤の効果は、使用者の心理的なアンケートを参考にするしかなかった。睡眠の質の定量的かつ客観的な測定が可能になったことは、睡眠のメカニズム解明を大きく前進させた。一時は「快眠ドリンク」や「快眠グッズ」と冠した商品が出回ったが、彼らの研究成果の発表が多くなるにつれ、鳴りを潜めてきたという。「本当に睡眠や覚醒に効果がある商品や薬品が世に出回るべき。我々は睡眠の効果を測定可能にすることで、社会に貢献したい。」と彼らは言う。睡眠物質や覚醒物質の特定と睡眠の調節機構の解明、そして睡眠の量や質を測定できる睡眠計の開発…これらの研究成果がまもなく実を結ぼうとしている。現代社会のライフサイクルにふさわしい眠りを誰もが実現し、活動中はしっかり覚醒して安全に行動できる時代はすぐそこまで来ている。眠りのメカニズムの解明は、何かとストレスの多い現代人の生活に一筋の光を投げかけるものなのだ。(敬称略)



■Company Profile
■財団法人大阪バイオサイエンス研究所京都研究室
業種: 研究機関
代表者: 早石修
電話: 075-315-5251
京都研究室所在地: 京都市下京区中堂寺南町134番地 京都リサーチパーク1号館 3F
ホームページ: http://www105.sakura.ne.jp/~obi2dept/jp/topics/frametopicsleep.html
メールアドレス: office@obi.or.jp
研究内容: ■睡眠覚醒調節機構の解明を目指した「遺伝子操作マウスの睡眠解析」
■入眠促進、熟睡率増加、覚醒時の眠気蓄積防止等の効果を示す素材を選別する技術の開発





KRP PRESSの記事に関するお問合せは
京都リサーチパーク(株) 営業部 営業企画室
TEL:075-315-8342 Fax:075-322-5348
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