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アークレイデジタルラボラトリ社長の甲斐昭徳の頭には「スピードと小回り」という言葉がいつも片隅にある。


■異色路線
親会社で臨床検査機器大手メーカーのアークレイは、血液検査や糖尿病の検査などに使われる検査装置の開発を行う。予防医学向けの機器・商品開発を軸足に、糖尿病患者の日常生活を支援する戦略を打ち出している会社だ。アークレイデジタルラボラトリはそんな会社のシステム開発部門が源流だ。
同社が誕生したのは、「事業に必要なスピード感に違いがあった」(甲斐)ことがきっかけ。アークレイは、人命を預かる医療器具の開発を行うため、厳しい検査基準により機器や商品の開発が進む。しかし、ITを扱うシステム開発部門にはその時間の流れが合わない。「ひとつくらい、異色路線を突き進む子会社があってもいいはず」と甲斐がアークレイの社長に掛け合って1999年11月、プログラム開発部門が分社化独立した。
甲斐は、車のディーラーからアークレイに転職した人物。転職直後はアークレイの中でも営業促進部門での仕事に携わった。もちろん、プログラムの「プ」の字も知らないような素人だった。プログラム言語は、検査機器の制御プログラムに携わったのがきっかけで、独学で一から習得した。
新天地で何をすべきか――。アークレイから受託する機器制御のプログラム開発が業務の柱となるものの、新会社が独自性を出すような商品も作りたい。甲斐はそう考えた。アークレイグループの一員としてやはり軸足に置くのは、生活習慣病の予防することに貢献するという点。医療の現場で求められるのは患者と医師の距離をいかに縮めるかということ。情報産業は両者の距離を縮められる可能性を無限に秘めている。甲斐の脳裏にアイデアは自然と浮かんできた。
「スピーディに糖尿病患者と医師をつなぐ。それには携帯が一番だ」。携帯電話の持つ利便さと優れた情報技術を活かし、遠隔医療を行って患者のケアができるのではないか。そんな視点から「血糖自己測定データ通信システム(e-SMBG)」が生まれることになる。



■情熱と向き合う
「血糖自己測定データ通信システム(e-SMBG)」とは、糖尿病患者が自分の血糖値を計測し、計測したデータを携帯電話を通じて簡便に医師の元へ送ることができるというもの。1型糖尿病※患者の多くは日に何度か血糖値を計測し、そのデータを見ながら、血糖値の上昇を抑えるインシュリンを自分で注射している。このシステムを利用すると、測定装置の針で採取した血液は15秒で分析され、携帯電話のサイトに自動的に出力。加えて運動量や食事、体重のデータ、体調のコメントなど医師に伝えたいことを書き込んで送信ボタンを押すと、それらのデータがアークレイのデータセンターに送信され、データを閲覧した医師から適切なアドバイスが受けられるという仕組みだ。甲斐らは、およそ20人の糖尿病患者に実際にモニターしてもらい改善点、試作型品の準備を進めていった。
2001年正月、転機が訪れる。「血糖測定器を扱う会社を探している病院があり、今すぐにでも話をしたいということだった」(甲斐)。甲斐は1月3日、その病院がある千葉県東金市の東金病院に向かった。
同日の夕方、病院に着く。正月休みで患者も医師もいない。そんな病院で院長が待ち受けていた。聞くと正月休みを返上して院長自らが院内の情報システムのメンテナンスに取り組んでいるという。
メンテナンスの合間に院長と話をする。「在宅の糖尿病患者を支援するシステムを作りたいのだが」と院長。甲斐は即座に「試作品があります。ぜひ使ってみてください」と言うなり「血糖自己測定データ通信システム(e-SMBG)」を渡し、システムを説明する。「院長は、試作品を見るとすぐに『やりましょう』と言ってくれた。それからまた、病院のシステムのメンテナンスに戻っていったんです」(甲斐)。
甲斐らの開発チームはそれから週に数日、千葉県東金市に足を運ぶ。病院の情報システム責任者は院長。院長は普段から、夕方5時過ぎまで外来の患者を診察している。診察後に、病院の実務をこなす。開発チームとの会議開始時刻が8時を回ることは当たり前だった。時には夜11時から会議が始まったこともあった。
そんな院長の情熱的な仕事ぶりに、スタッフの心も燃える。携帯だけでなくパソコンの設定をするため、システムを利用する患者の家を一軒一軒回って設定に出向いた。「納得のいくシステム作りをしなければならないと徹夜で仕事をしたこともある。正直言うと採算は度外視ですよね。それでもいいものをつくりたかった」。お互いの熱意のかいあって実験終了後もシステムは継続して運用されている。


■遠隔医療に活用
そんな東金市の病院での取り組みに並行して2001年6月、「血糖自己測定データ通信システム(e-SMBG)」のサービスが開始した。3ヵ月後、ある診療所に同システムが採用された。その診療所で力を入れたのは糖尿病の妊婦についての研究だった。
糖尿病で妊娠中の女性は血糖値が上昇しやすく、インシュリンを使った血糖値のコントロールが難しい。このため、赤ちゃんに悪影響を及ぼす可能性がある。きめ細かい血糖管理が求められることからシステムを導入した。患者は1日4回、血糖値を自分で測定。携帯電話を使ってデータを送信する。この研究で得られた成果は2003年5月、日本糖尿病・妊娠学会で発表され、大森賞を受賞した。甲斐は「非常に名誉なこと。学会では反響も多かった」と振り返る。
ただ、課題も多い。システムの利用料は月1,000円だが、患者だけではなく、利用する患者がかかっている医師にもシステムを導入してもらう必要がある。患者と医師の両輪で利用を働きかける必要があるため、利用数自体が伸び悩んでいるという。
「それでも、利用してもらえば便利だということが分かる。何より、患者さんと医師との距離が縮まる。特に島しょ部や山間部などで、なかなか病院に行けないような場所にはぜひ使ってもらいたい。遠隔地で診察してもらいにくくても、このシステムがあれば、日常的に体のことを把握することができ、医師にも見てもらえる。そういう意味で可能性を秘めているんです」(甲斐)。

※ 1型糖尿病・・・すい臓のインシュリンを作る細胞が破壊され、インシュリンの分泌ができなくなる糖尿病。全糖尿病患者の5%前後といわれる。



■Company Profile
■アークレイデジタルラボラトリ株式会社
業種: IT(開発)
代表者: 甲斐昭徳
電 話: 075-315-8617
FAX: 075-326-7828
所在地: 京都市下京区中堂寺粟田町93番地 京都リサーチパーク6号館4階
ホームページ: http://www.ekenko.ne.jp
メールアドレス: kai@arkray.co.jp
事業内容: 健康科学分野のソフトウェア開発、インターネットサービス構築などを行う。
■糖尿病患者のデータ保管をインターネット上で行う「e-SMBG」のサイト構築運営
■ケータイ電話で血糖測定器のデータを転送する「ケータイアダプタ」などの機器開発
■ソフトウェアはWindows用が主で医療機関向けソフトを開発





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京都リサーチパーク(株) 営業部 営業企画室
TEL:075-315-8342 Fax:075-322-5348
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